アストリアの夢 クレリアの詩  シェリーの手紙

エピソード第三章 長い夜のあと、エピソード第四章 夜明けで主人公が見た夢の内容と、クレリアの詩 アルフレッドの恋人シェリーからの手紙の内容です。



   アストリアの夢


 セレナ。とても悲しい夢を見たよ

 君がいなくなって、ボクは永遠の夜をさまよった

 お願いだ

 すべてが終わったら、ボクを抱きしめておくれ

 あの瞬間ときと同じように……


 それだけでボクはすべてを赦せる

 もう天国にはいけないことも

 ふつうの人のような人生が送れないことも


 君はあのときのままだね

 ボクは君より大人になってしまったよ


 神様がいるとかいないとか

 もうどうでもいい


 ふたりで天国と地獄の狭間に行こう

 永遠の夜 真の闇も

 君と一緒なら

 超えていける


 だからもう一度

 ボクの名前を呼んでおくれ

 あの日のように




   クレリアの詩


 もしかしたら貴方は

 わたしが貴方を救ったと思っているかもしれない


 違うんだよ

 あの言葉があったから


 わたしは貴方を救う決意をした

 わたしを暗闇の部屋から連れ出してくれたあの言葉


 もしかしたら貴方は覚えていないかもしれない


 マスター

 “これから君が護衛する少女を

 この世界で一番醜いと思っても

 彼女のために死んでくれるかな”っていったとき


 貴方は“いいだろう”って答えたの

 わたしがどれだけその言葉に救われたか

 知らないでしょうね


 貴方が暗闇のなかでさまようなら

 わたしはたいまつになる ランプにもなる

 太陽にはなれないわたしだけど星明かりにはなれるよ

 満ち欠けする月のようにあなたを照らす

 銀の月リンリクスのように



 わたしがこの世界で一番醜くても

 わたしのためにいのちをかけてくれるなら

 わたしはすべてをかけて

 貴方を救う


 貴方のまえでは最期のときまで

 天使のようにふるまおう

 死ぬまでうそをつこう


 貴方に守る価値がある女だと

 思ってもらう

 そのためだけに

 わたしは天使の仮面をつけて舞台にあがる

 わたしは暗闇の巫女-Medium of Darkness-




   シェリーの手紙



 アストリアへ

 アストリア、あんたは戦争に行ったね。

 一目見たとき、普通の人生を送ってないことがわかった。

 あんたは戦争に行ったことの愚痴をあたしたちに聞かせなかった。立派だと思うよ。

 戦争に行って五体満足で帰ってこられたのは神様に守られているからだよ。

 いまはこの言葉の意味が分からないかもしれない。

 でも、生きていれば必ずその意味がわかるときがくる。


 あなたの過去は傷ついているかもしれない。あたしと同じように。

 でも、傷つき続けない強い人になって!

 あたし、死のうとしたことあるんだ。


 あたしは子どものころケーキ屋さんになりたかった。

 でも父親が戦争に行って生活は苦しくなった。

 父親が戦死したあと、弟も戦争に行くっていいだした。


 必死に止めたのに従軍して帰ってきた弟はまともな人の形をしてなかった。

『おれは戦争に行ってやったんだ。おまえらを守るために。少しは感謝しろよ』て怒鳴られるの本当にいやだった。


 ぼろぼろだったよ。

 生活も精神も限界で脚が動かなくなった。医学的な理由は、いまもわからない。心と体は繋がっている。それが理由だと思う。


 動かない脚を引きずって薬局を回った。死ぬための薬を集めるために。

 帰り道動けなくなったときにアルフレッドに出会った。アルフレッドはあたしを家まで送ってくれた。


 そのときのあたしの様子はただ事ではなかったと思う。でも彼は詮索しなかった。いい男だろう?


 アルフレッドに出会った後少しずつ脚が動くようになったんだ。自分の脚でまた歩けるんだって、嬉しかった。

 『いつかおれと一緒にケーキ屋さんやろう』っていわれたとき、死ななくてよかったって思った。


 アルフレッドの家は娼館だったけど、みんな信じられないくらい優しかった。来る客まで優しいんだ。働かなくていいっていわれたのに、恩返しのつもりであたしは働いた。


 アルフレッドはそんなことするなっていったけど、あたしが意をけっしたら止めなかった。娼婦という仕事は、大切にしてもらえるならけっして恥じる仕事でもないんだよ。


 あたし自身がそう思えたとき弟が死んでくれた。こんないい方をするあたしは冷たいのかもしれないけど戦争に行って弟は魂が入れ替わってしまったんだ。


 戦争行為の代償はあまりにも大きくて残酷だった。

 かわいそうだとは思うけど、いまとなってはどうすることもできない。


 そのタイミングで娼婦はやめて、アルフレッドと暮らしはじめたんだ。いまあたしはケーキをつくる勉強をしている。生徒はみんなあたしより年下。あたしより若い先生もいるくらいだけど楽しいよ。


 あたしにはあんたが他人だとは思えない。人種も眼の色も違うけど、弟の面影を重ねてる。迷惑かな。幸せになってほしい。あたしでも幸せになれたんだもの。あんたも幸せになれるよ。


 どうしても死にたくなったら、会いに来て。話聞いてあげるからさ。死んでしまったら、心の傷が癒される権利まで失ってしまう。それを忘れないで。


 最愛の人が忘れられないって気持ちわかるよ。でもその人以上の女性がきっと現れる。

 あんたにも人並みの幸せを得る権利は当然のようにあるってこと忘れないで。

 あたしとアルフレッドの結婚式にはあんたにも出席してほしいな。


 この手紙はアルフレッドには見せないでね。


      シェリー・マクダネル

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