第十五章 神殺しの伝説 前編
アランはフランクと同じ30代前半の男性で顔だちも服装も貴族に相応しい。
エル・ファレル魔導学院でフランクの同期として学び、卒業後は故郷のエルファリアに戻って司書として生活しているという。
アランの屋敷は大きかった。使用人までいる。司書の収入で暮らしているわけではなくもともと裕福な家系だという。
「この部屋は大丈夫か」本棚がきしむくらい並んでいる部屋に案内されるとフランクはまっさきに盗聴を心配した。
「大丈夫だよ。魔法的にも盗聴の可能性はない。結界を張っているからね。使用人たちも素性が明らかな人間しかいない」
アランは豪華な椅子に腰かけた。机の上には書物が山積みである。
さすがフランクの知り合いである。
アランも魔術の心得があるのだ。フランクが最上級魔術師であるウィザード(Wizard)なのに対してアランは中級魔術師(Mage)であるという。
大きなテーブルに並べられた椅子に皆が座るとフランクは立ったままは説明をはじめた。
「やつらはヴァルケイン。ヴァルケイン暗殺団」
「ヴァルケイン……失われた月の名前だね」とアラン。
「何故そんなやつらがクレリアを狙うんだ?」
アストリアは鋭い視線をフランクに送る。
「そろそろ旅の真の目的を話してもいいころだと思っていた。
その前にこの世界の真実について話さなければならない。
なぜこの世界から治癒魔法が消失したか、君は知っているかね」
「それは……、人間が戦争を止めないから癒しの女神が人間を見捨てたって……」
「それは根拠のない通説に過ぎない。――癒しの女神は殺されたんだ」
「殺された⁉ 神が?」
「そう、神殺しの武器でね」
「神殺しの武器?」皆がオウム返しにフランクに問う。「誰に?」
「それを説明しなければいけないな。
はるかな昔、高度な治癒魔法を駆使すれば死んだ人間を蘇生させることも可能だったのは知っているかね」
「伝説にはそうあるな」
「それによってどういうことが起きたと思う?」
「死ななくていいやつが助かるってことじゃないのか」
「死ぬべき人間も生き残ると表現することもできるだろう」
「それは……まぁ」
「その結果、人口爆発、高齢化社会、食糧不足による貧困。
加速した人口密度を解決するための土地の乱開発。
それによる環境汚染、動植物の乱獲……。数えきれない問題が起こった。
それを良しとしない最高神オムニスが癒しの女神イシュメリアを諫めた。
だが癒しの女神は人間を見捨てようとしなかった。
怒った最高神は癒しの女神を殺すことにした。
神を普通の武器で傷つけることは不可能だ。
最高神は破壊の神スレイアームに神殺しの武器をつくることを命令した。
そこで作られたのが神殺しの剣〝ヴォーリア〟
この言葉は神語であり、翻訳は不可能だが、あえて意訳するなら〝あらゆるものの未来を絶つつるぎ〟だ」
「破壊の神は性格が悪いな」アストリアの言葉に、クレリアが吹き出してしまった。
「話を茶化すな。
破壊神は癒しの女神に向かってヴォーリアを投げつけた。
その剣は癒しの女神の心臓を貫きさし癒しの女神は殺害された。
それ以降地上で治癒魔法は発動しなくなった、というわけだ。
神殺しの剣はほかの神も殺害する力を秘めている。
最高神はその剣を破壊するよう破壊神に命じたがスレイアームは従わなかった。
それにより神界戦争が起こった。
その結果、破壊神は蒼の月ヴァルケインの
そしてこの剣にはもうひとつ力がある。冥府の門を開く力だ。
われわれの旅の真の目的は癒しの女神に新しい肉体を与え復活させること。
そのために3つの
冥府の門を開くちからを秘めている神殺しの剣で門を開き、
次に宇宙の真理をすべて見抜くと云われる火星薔薇の王冠で癒しの女神の魂の座標を特定して、
最後に癒しの女神がつけていたと云われる真銀のアミュレットで魂を召喚する。
そのための儀式として聖地イスタリスに入り巫女であるクレリアが祈りと舞を捧げるのだ。それにより癒しの女神は復活する」
その場にいるものはなにもいえなくなるような話だった。
「ただし彼女の純潔が条件だ」フランクはつけ加えた。
「オレはそういうの好きじゃない。
クレリアはこのこと知ってたのか?」
「………」クレリアは下を向いている。
「クレリア?」
クレリアは両手で顔を抑えた。
「……あなたには知られたくなかった」ふるふると頭を振った。
「わたし、エ○チなことできないんだよ?
わたしたち両想いなのに!」
「いつオレたちが両想いになった⁉
そして14歳でエ○チなことしちゃぜったいダメだよ! 捕まる!」
「ひどいっ、あの夜のこと忘れたの!」
「あの夜って、
「水飲んで死んでやるー‼」
クレリアは鏡が割れたような顔をして部屋を飛び出した!
台所に駆け寄り水瓶に頭をつっこんで飲み干そうとする。
「バカなことはするな!」
アストリアは力ずくで彼女を止めた。
瓶からひきだしたクレリアの髪はワカメのようになっていた。
「えく、ひっく、この男に慰みものにされた‼
ふにゃーん!」
こんどはアストリアをポカポカ叩きながら彼の胸で泣きはじめた。
茫然とふたりのやり取りを見ていたアラン。
「フランク、このふたりはいったい?」
フランクはさもイヤそうに「私の仲間の
「漫才師をパーティにいれているのかい」
「もうなにもいわないでくれ」
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