第八章 開会式
翌朝、アストリアがひとりで開会式に行くとそこには総勢百人以上の剣士がいた。受け付けのときよりだいぶ少ない印象だが受け付けにはサポーターもいたのであろう。
まずはターゲットの確認である。
近くの男に尋ねた。「ラウニィーって誰のことかな」
男はあきれ顔で「いま、壇上に立ってる方だよ。ラウニィー様を呼び捨てにしないように」
アストリアが壇上を見上げると五人の人間が立っていた。女性はひとりしかいない。
長い金髪に
「ラウニィー様は凄いんだぞ。
女性なのに聖騎士団最年少で副隊長でもある。実力は隊長以上との噂もあるくらいだ。
特に凄いのが公式試合256戦256勝無敗の記録だ。なにより生きざまがお美しい」
頼みもしないのに男がべらべらと解説した。
『……あれがターゲットか』
アストリアから見たラウニィーの印象は確かに魔法剣士だった。見たところ身に付けている武具も魔力を帯びている
壇上のひとりがしゃべりだした。
「皆様ご静粛に願います。これより開会式をはじめます。
ベルファという男は黒人で目つきが鋭い。だが口調や態度、服装などから高い知性と教養がにじみ出ている。このような人材を要職として採用しているあたりこの国の懐の深さははかりしれない。
「まず主賓であるエルファリア国王ビルギッド・コーネリア様からのお言葉がございます」
初老に見える男性が階下から壇上へ上がった。国王なのは明白だがアストリアの印象は本当に国王か、というものだった。
豪華な分厚い服も来ていない。
薄いシャツにカジュアルなズボン、王冠の代わりにサークレットをつけている。王様らしいところといえば口ひげが生えているところだけである。
しかし、40歳を超えているとは思えない筋肉量に恵まれた体格は若かりし日の伝説を思わせる。
ビルギッドは青年期にダンジョンから百を超える
背丈、筋肉量ともアストリアを上回っている。四十を越えると下腹などもでるものだがまったくそのようには見られない。
よほど護衛に信頼を置いているのか帯剣すらしていない。
だがアストリアは戦士としての直感でこの男は自分以上の力量をもった戦士であると見抜いていた。
精鋭中の精鋭、彼の組んでいた六人のパーティのうち、三名は死亡。生き残りのうちひとりの女性は彼と結婚し王妃となった。その王妃も現在は亡くなっている。
もうひとりの生き残り、魔術師のシオメネスは冒険が終わるとアークメイジに就任して政治にかかわらないことを宣言したという。
中央まで来ると会場は自然と静まりかえった。
「おれは意味のないことが大好きだ」それが第一声だった。大声量だった。「この大会に意味はない。面白いからやるだけだ。諸君らはおれの酔狂のために集められたというわけだ」
会場から笑いが漏れる。
「それだけではだめだとうるさく周りの者がいうので成績優秀者には人種、国籍を問わずそれなりの褒賞を与えることとなった。
士官、武官、剣術指南役など様々な道が開かれるだろう。ただし怪我をしていなければ、な。
殺人、目つぶし、金的、戦意を失ったものへの悪意のある攻撃を行ったものには優勝しても道は開かれん。
あまいと思うやつはいまこの場から立ち去ってくれて結構。
おれが見たいのは戦争でなく試合だ。けがをする人間もいるだろうがそれは承知の上で参加してくれていると解釈している。
みんなジジイのおれをワクワクさせてくれ、以上」
そういうとさっさと階段をおり椅子に座って脚を組んだ。
みんなあっけにとられている。王室関係者は頭を抱えていた。
ラウニィーも壇上で眼をつむって視線をおとしている。アストリアは笑いをこらえるのに必死だった。この国王が偽物でないのなら大した傑物である。仕官するもの悪くない。
「続きまして予選トーナメントの発表です」
ベルファは何事もなかったように司会進行を続けている。まだ会場はざわついていたが壇上に飾ってあった立て板の幕が開かれトーナメント表が明らかになる。
予選申し込みでもらった紙に書いてある番号が会場ごとに書いてある。ご丁寧に参加者全員の名前が書かれていた。みんな一斉に自分の番号を探した。
ラウニィーは何番だ……? 第八会場だ!
オレは第四会場の58番だから、予選では当たらない。
ルクシオンは……第六会場だな。
オレの初戦は……ザハランだ、確か四天王のひとりだったか。
まあどうでもいい、ラウニィーにあたるまで勝ち続けるだけなのだから。
ベルファが大声で怒鳴った。
「皆様ご静粛に! 予選通過者は決勝トーナメントに進めます。
そのとき改めて予選通過者八名でトーナメント表を作成します。以上をもちまして開会式を終了いたします。
このあとささやかではありますが城の中庭を開放しまして開催祝賀パーティーが行われます。大会参加者はぜひ楽しんでください。サポーターの方も一名までならご出席が可能です。では解散してください」
開会式はこうして終了した。
わかったことはラウニィーとあたるには最低でも予選通過しなければならないことと、王族にも破天荒な人間がいるということだ。
帰り道でルクシオンが話しかけてきた。
「よお、アスファー。おまえの会場はどこだ?」
「第四だ」
「わたしは第六だ。わたしとは予選通過しないとあたらないな」
「ああ、おまえ初戦は誰とあたる?」
「名前は……、誰だったかな。ユークス? サージェントだったか」
「アージェントな。それ四天王のひとりだぞ。情報とか集めなくていいのか」
「関係ない。わたしはどんな相手だろうといつも通り闘うだけさ。
剣士というものは初戦で相手に勝たなければならない。わたしはそうやって生き延びてきた。
本来、同じ相手と二度闘うなどありえないのが剣の道だからな」
「かっこいいな」
「そうか。おまえはパーティーに出るのか?」
アストリアは少し考えた。クレリアでも誘ってやるか。きっと喜ぶぞ。
「出る」
「わたしは宿に帰って寝るよ。長旅で疲れた。おまえも酒を飲みすぎるなよ」
「オレは酒をからだに入れない」
「なぜ?」
「弱くなるからだ。深酒した次の日に死ぬバカなやつらをいやというほど見てきたからな」
「………」ルクシオンはそれにはなにもいわず「じゃあな」といって去っていった。
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