第二巻プロローグ クレリアの詩 アストリアの独白



  プロローグ



 わたしはセカイが壊れるオトを聴いた。

 セカイが壊れるオトはまったくの無音。

 それでいてなにもかもが崩れ落ちていくのだ。




  クレリアの詩



 セレナさんが生きていたらわたしとどっちを選ぶの?

 それは禁じられた言葉

 その言葉を告げたら彼はわたしの前からきっと消えてしまう

 それでもわたしは理性と感情の天秤が揺れることをどうすることもできない

 亡くなった人に嫉妬してるわたしはばかみたい


 傭兵さんは……

 世界の優しさと残酷さ

 両方を知っている人

 それは彼の望みではなかった

 はじめて会ったとき荒んだ眼をしてた

 あなたの眼が優しくなったのはわたしのおかげだって思いたいの


 傭兵さん、わたしの告白を聞いて?

 あなたに出会うまでわたしの世界は限りなく灰色だった

 いつか話さなければならない

 わたしが研究所ラボで生まれたことを

 純粋な人間ではないことを

 それでもわたしのためにいのちをかけてくれますか?





  アストリアの独白



 死んだとき世界中の人間に悲しまれる男もいるだろう

 オレはひとりだけだ

 あいつひとりだけだ

 それでいい


 あいつはオレの眼を見て会話してくれたんだ

 あいつの瞳の中にオレが映った

 それはすばらしいことなんだ


 軽蔑のない視線が自分を変えてくれる

 だからオレは死地に赴ける


 オレが体験した孤独は千年に値する

 千年地下牢獄で拷問を受けた人間にしかオレの気持ちはわからない


 血塗られた悪夢の日々

 人を殺し

 人を殺し

 人を殺した……


 オレの部屋は真っ暗で鏡は割れていた

 ときおりあの女性ひとの幻影が蘇るとランプにうすく火がともった

 あの女性の幻影は散らばった鏡の破片を集めていた


 千一年目オレはひとりの少女に出会った

 そのこは生意気であの女性ひととはまるで違う

 オレの部屋にずけずけと入りこみ持っていたランプを掲げると

 その娘が照らしたオレの部屋は汚部屋ではなく清潔だった

 ふと鏡を見ると割れていたはずの鏡はいつのまにか修復されていた

 こんなことがあるだろうか

 セレナの幻影がオレの部屋を綺麗にして鏡を修復したのだろうか


 死んだ人間が割れた鏡をもとに戻すなんてそんなことがあるだろうか

 女は魔法が使えるのかもしれない


 千一年目に孤独が癒されるのなら

 千年の孤独に耐えた価値はある

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