第十四章 過去からの復讐者 前編
キャラクターの一人称は
アストリア→「オレ」アルフレッド→「おれ」となっております。
クレリアの一人称は「わたし」で、フランクの一人称は「私」です。
その他のキャラクターも同様の処理をしています。
説明文を減らすための処理です。ご承知いただけると幸いです。
追記:文字数が多かったため前編・後編に分割処理いたしました
アストリアはある理由で家を出たあと戦争奴隷になった。14歳の時である。それから彼の闘争がはじまった。暗黒時代である。そして、彼の才能、人殺しの才が目覚めたのである。彼の原動力はセレナを奪った世界への復讐だった。
わずか14歳で彼はめきめき頭角を現し、たった2年で自分を奴隷から買い戻し傭兵になったほどだった。
彼が所属していた部隊は暗黒傭兵部隊、別名〝
不死鬼メンバーは戦災孤児、戦争奴隷、騙されて売られた若者、金に汚い傭兵など、まともな経歴を持つものはひとりもいなかった。異常なまでの闘争心、殺戮を尽くすその忌まわしい戦い方から不死鬼と呼ばれ、味方にまで恐れられていた。
不死鬼隊長格にはアンデッド・ナンバーとよばれるコードネームが振りわけられていた。
01番 ゴースト
02番 グール
03番 ワイト
04番 コープス
05番 ファントム
06番 スペクター
07番 レイス
08番 シェイド
09番 イービル・スピリット
10番 レギオン
11番 デス・ブリンガー
12番 ヴァンパイア
アストリアは最も活躍した四番隊隊長だった。
猪突猛進タイプが多い不死鬼隊の中で、彼は騎士学校で学んだ近代戦術を活かして戦った。
彼が学んだことは基礎的なことだがそれで十分だった。自分の隊から偵察と索敵、そして情報収集を目的とするえりすぐりの部隊をつくり、戦場の地図を作成して戦術をたてた。補給の重要性も理解していた。
剣による戦闘を下策として水攻め、火攻め、落石、そして時間をかけた兵糧攻め。さらに補給部隊の急襲、
そして一度戦闘が始まれば自らのいのちをまったく顧みない鬼気迫る戦闘を行うさまはアンデッド=アストリアとも呼ばれた。
彼が街を火攻めするときは警告を発し、住民に持てるだけの財産をもって退去を命じるなど、傭兵部隊に独自の騎士道を持ち込んだことは少なからぬ反感があった。
セレナの存在が亡くなったあとも彼の魂が暗黒に染まりきるのを防いでいたのである。
不死鬼はとにかく素行が悪く、隊員同士の争いさえ絶えなかった。
ある晩の戦闘でアストリアは略奪をしようした隊員を背中から切りつけ絶命させた。その隊員は六番隊隊長キース・ストライダーの部下だった。
キースは戦災孤児の生まれで、ある意味では育ちのいいアストリアをなにかにつけて敵視していた。キースはアストリアに匹敵する戦果をあげていたが残忍で知られ、
アストリアたちが所属している軍隊では略奪は禁止で、極刑とされている。だが、暗黙の了解と化しているのはどの世界も同じである。
彼はルールを守っただけだが、不死鬼での彼の立場は苦しいものになった。
キースは隊長たちが集まった会議で彼に迫った。
「おいてめえ、よくもおれの部下を殺したな。女みてぇな名前しやがって。みんな、確かめてやろうぜ」
周りに嘲笑が起きた。その一瞬、アストリアは長剣でキースの顔を切り裂いていた。
「失せろ」
「眼がーっ、眼がーっ」キースは顔を抑え絶叫した。
周囲に尋常ではない空気が流れた。
他の隊長格も剣を抜いた。
「おまえ、やりすぎだぞ」
「死んでもらう、はじめから気に食わなかったんだ」
「なんとかいえ、小僧!」
「いま謝るよ」というが同時にアストリアは棒台に掲げられていたたいまつを棒ごと蹴り倒し、一呼吸で三人を切り裂き絶命させ、ひとりの喉元にナイフを投げつけた。
剣で斬りかかろうとしていた男は暗闇の中でナイフが突き刺さり絶命した。
アストリアはショートソードを抜きロングソードとの二刀流で体を回転させ残りのメンバーに斬りかかった。
テントに火がつき炎の中で戦闘がはじまった。地獄絵図だった。この事件はのちにアンデッドの
アストリアはその場の戦闘で他の隊長格をほとんど殺害し逃走した。
誰を何人殺したかは暗闇の中で彼自身もわからない。逃走途中、なにものかに背中を斬りつけられ、そのとき自分は死ぬと思った。
だが彼は生き残った。気が付いたとき彼は山小屋にいて背中の傷もふさがっていた。
山師が倒れている彼を見つけ運んだというが背中の傷はそれほどひどくなかったという。自分では斬られた瞬間背骨まで達しているような実感があったのだが。……不思議な出来事である。癒しの魔法はもう存在しないはずなのに。そのあとライナスに会ったのである。
追憶が終わり、アストリアは不敵に微笑んだ。
「いいや、
「おれの見た地獄を知らないやつがおれを語るなよ。
比べようぜ。おれの地獄とおまえの地獄を。本物の地獄を見たほうが生き残るんだ」キースは吐き捨てるように続けた。
「なんでおまえに仲間がいる。なんでおまえが笑ってる。いいか、おまえにそんな権利はない。100回殺しても殺したりねぇ。戦争の続きをやるぞ」
キースは椅子から立ち上がり剣の鞘を握った。
「キース、戦争は終わったんだ」
「いや、終わってねぇ! おれたちの戦争は誰にも終わらせない!
おれは独りでもやってやるぜ! 世界へ宣戦布告だ!
なにも知らないやつらに思い知らせてやる! おれの見た地獄を‼
あの戦争はおれたちの聖戦だった! おまえはそれを穢した!」
キースは大声で怒鳴った。そしてアストリアを指さした。
「生かしてはおけない」
その暗い怨念と殺気を感じた街中の動物たちが、野良犬やペットにいたるまで街中で騒ぎだした。
アストリアは失笑した。
「あの戦争が聖戦だと? 知らなかったぜ。おまえはジョークの天才だな。
暴力で世界は変わらない。
そんなこともわからないなら死んでしまえばいいんだ」
キースから放たれる
ふたりのただならぬやり取りに宿のほかの人間も集まってきた。いつのまにかアルフレッドもアストリアの後ろに立っていた。
(やばいぞ、こりゃ)アルフレッドはフランクのいる二階へ駆け上がっていった。
「街の外でやろうぜ。街中での殺しはお互いに面倒だろ?」アストリアが挑発する。
「死に場所くらいは選ばせてやる。おれは寛大だからな。
ついてこい、逃げたらおまえの仲間を先に始末する」
ふたりは夜の街を郊外にむかって移動した。宿からの騒ぎを聞きつけた見物人がぞろぞろとついてくる。冒険者同士の諍いは日常茶飯事で、一部の物好きには娯楽だった。街の住人にも冒険者にとっても。
「そうそう、不死鬼の生き残りはほかにもいるぜ。おまえが生きていると知ったら喜ぶだろうよ。てめぇの背中の傷、誰がつけたか知ってるか? おれは知ってるぜ」
「おまえじゃないのか」
「いや違う。おれに勝ったら教えてやる」
「………」
街の外まで来た。もう深夜だ。
「みんなを連れてきたぞ」アルフレッドが息をきらせて追いついてきた。
「大変なことになったな」
「傭兵さん、大丈夫? あんまり急だったからアゼル部屋においてきちゃった」
フランク、そしてクレリアもただならぬ表情である。
「ばかっ、なんでクレリアを連れてくるんだ」
「私も止めたがいいわけがきかなくてな。ひとりでも行くと飛び出していこうとしたから連れてきた」
「へぇ、おまえクレリアっていうのか」キースとクレリアの眼があった。
「ひっ」
キースの血走り、昏い怨念に満ちた瞳は少女に恐怖を与えるに十分だった。
「ばりばりに引き裂いてやる」
クレリアは凍りついた。
「いいか、おまえの仲間は100万人殺した英雄様だよ。殺人鬼ともいうがな。
仲間まで殺した人殺しの天才だ! ドミニオン戦争って知ってるか?
こいつは不死鬼の隊長として殺しまくったんだ。おまえさんにはなんの恨みもないがこの野郎に関わった以上死んでもらう」
ついにクレリアに知られてしまった。暗黒の過去を。
ドミニオン戦争とは永久凍土で凍りついていたアカナシスの大地が、一時的な惑星温暖化のために溶け出し肥沃な土地になったために起こった戦争で、グランベルとイグナシオの二国の小競り合いから大陸全土を巻き込む大戦となった。
グランベルと同盟を結ぶディルムストローグ、中央のワルーヴィス、そして最後には神聖エルファリアも参戦。死者400万人超、魔障を負った人間は民間人もふくめ1200万人以上。
東方以外の北半球に存在するほとんどの国が参戦したためのちの世に第一次北半球戦争(Northern hemisphere war Ⅰ)と名づけられることになる。
大型破壊魔法の多数使用によって大陸全土が荒廃し、人が住めなくなった地域多数。惑星中の魔素が不足状態になり、このままだとあと200年で現存世界が崩壊する計算が研究機関によって発表された。
彼が所属していた暗黒傭兵部隊はドミニオン戦争で悪名高い。
彼が100万人殺したなどとは途方もない虚偽である。しかし彼が戦争で率先して敵兵を殺害したことは真実である。
アストリアは今生の別れのつもりでクレリアに語りかけた。
「オレの過去の真実を知ったクレリアがオレを拒絶するなら……。オレはおまえの前から消える。
そのまえに、こいつだけはオレが
「いやっ、ここにいる!」
「クレリアおまえどれだけ危険だかわかってるのか」
「傭兵さん、決闘するんでしょ。これでお別れかもしれないんでしょ。誰がなんといおうとここにいる! だから死なないで!」
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