第四章 救世主の少女 前編

【プロのイラストレーターふみー様によるヒロイン クレリアのイラストがこちらになります。私の近況ノートのリンクになります。】

https://kakuyomu.jp/users/Uoza_Unmei/news/16817330661358333392 


 数日後アルフレッドが紹介した魔術師はフランク・マクマナスと名乗った。


 背は低く茶髪で薄い色つき眼鏡カラーグラスをかけていた。

 それでもわずかに紅い瞳が見え隠れする。


 魔術師であることは間違いない。

 アストリアは魔術師は眼鏡をかけているものだ……と心の中で独り言ちた。


「君がアストリアか……。

 君を傭兵として雇うまえにいくつか質問をさせて欲しい」

 フランクは前置きもなくいった。


「待ってくれ。仕事の内容はなんなんだ? 護衛と聞いていたがおまえの護衛をするのか」


「その質問には答えられない。私ではないとだけいっておこう」


 誰を護衛するか、それすらも明かせない重要人物なのか。

「君は傭兵の戦士マーセナリィ・ファイター(Mercenary Fighter)とのことだが……経歴を話してくれ」


 アストリアは正直に話した。

 ――暗黒の過去を。

 フランクは眉ひとつ動かさず聞いていた。


「ふむ、ではこの因果律測定羅針盤に手をかざしてくれたまえ」


 アストリアが奇妙なものを見る眼をすると、

「これは私が開発したマジック・アイテムだ。

 人のカルマや、魂の属性などを数値化するためのもので一部の国では裁判に採用されている。なに、値がなにであっても雇用には影響しない。ただパーティ全員の値は調べておかねばならないのだよ」

「………」


 アストリアが無言で手をかざすと数本の針がくるくると回りだし、そして止まった。


 その値の意味をフランクは説明しなかった。

 フランクから驚嘆の声が漏れる。


 フランクは説明しなかったが針が振れきれるほどの値だった。


「なるほど……嘘はついていないようだ。

 戦士としての強さは保証できるようだな。これから話すことは守秘義務がある。われわれの旅はある少女をある地点まで護衛することだ。目的は世界を救うこと」


「なに?」

「癒しの魔法を復活させることだ」

「そんなことができるのか」


「詳しくはいえないがね。最後の質問だ。これから君が護衛する少女をこの世で一番醜いと思っても、彼女のために死んでくれるかな」


「なに?」

「……つまり、この仕事に命を懸けられるか」

アストリアはちょっと考えた。


「いいだろう」

 アストリアは迷いなく答えた。

 その答えにフランクは満足した。

「よし、入れ。自己紹介するんだ」


 大きめの声で呼びかけると別室から扉を開きひとりの少女が入ってきた。

 肌は白く、髪は黒髪でセミロング、毛先がフワフワしているくせっ毛で、背は低かった。


「クレリアと申します。神官の見習いプリエステス・アプレンティス(Priestess Apprentice)です」


 先ほどのフランクの言葉にどんな顔をしているのだろうと思っていたが醜いというよりはむしろきれいな顔をしている。


 幼く見えるが年齢はいくつなのだろうか。


「神官見習い……どんな魔法が使えるんだ?」


 アストリアが知る限り神官戦士たちは神聖魔法の使い手で、治癒魔法が消失したいまでも戦闘では役に立った。


「魔法は使えません」

「えっ、魔法の使えない神官見習い……」


 アストリアが言葉に詰まるとクレリアの態度が豹変した。


「いまただの人だって思っただろ!」

「えっ、思ってないよ」

「本当に?」

 クレリアは猜疑心に満ちた顔をした。

 ころころと表情が変わるのでアストリアはどぎまぎした。


「別にいいじゃないか。オレだって魔法使えないし」

「……じゃあいいです。わたしと同じですね」


 今度は無邪気な顔をする。不思議な女の子だ。

「よろしく頼む。オレは傭兵のアストリアだ」


「傭兵さんですね。これからよろしくお願いします」

 ペコリとお辞儀をする。


 アストリアが名前を呼んでくれないのか……と思いながら握手のために右手をあげるとクレリアはニコニコした顔で拒否した。


「魔法が使えないことをいったので、握手はしません」

「性格の悪いガキだ……」

「わたしは子どもじゃない、女性だ!」


「わかったよ……」

 隣の部屋から限りなくネコに近い生き物がやってきてクレリアの足元で甘えた声で鳴いた。


 普通のネコと違うところは背中に蝙蝠のような小さな羽がついているところだ。アストリアはファッションかなと思った。


「お前のネコか?」

「この子はネコじゃありません。使い魔です」

「ふーん……」


 アストリアはこのとき神官見習いが使い魔を連れていることに特に疑問を感じなかった。だがそれは明らかにおかしいこと・・・・・・だった。


「アゼル~挨拶してー」

 クレリアが名前を呼んだネコに似た生き物は無視して毛づくろいをはじめた。


「挨拶したくないそうです」

 クレリアはすこし下品に笑った。


「チッ、まぁいいよ。ネコだし」

「使い魔なんですけどね」


「使い魔ってのはなんなんだよ」

「それは……」クレリアがいいかけると、

「もういい。あっちへ行け」フランクが遮った。


「は~い、アゼルや、行こう」

 クレリアは一瞬固まったが、隣の部屋に行った。

 アゼルもついていく。

 フランクとアストリアは扉が閉まるまで黙って見ていた。


 フランクは眼鏡をわずかに触れてから話しはじめた。

「目的地はまだいえないが、旅の途中で話す。

 明日出発するのでそのように準備してくれ。

 旅にはアルフレッドも同行する」


「アルフレッドが?」

「彼は盗賊シーフ(Thief)だ。冒険には盗賊が必要だ」

「あの派手な男が……?」


 アルフレッドはアストリアより背が高く、また服装も派手で顔つきは美形といっていい、1度見たら印象に残る男だった。


「少なくとも君に盗賊だとばれてないということは、君より盗賊の才能があるんじゃないかな」

 そういうものかな……、アストリアは言葉には出さずに納得した。


「ところで、オレからも質問がある。お前はソーサラーだよな」

「少し違う。私のクラスはウィザードだ。エンチャンター(Enchanter)クラスも納めている」

「説明しろ。アークメイジについても」


「駆け出しの魔術師はソーサラーとして経験をつむ。

 修めた呪文と功績が認められれば上級クラスに上がることができる。

 魔術師のクラスはひとつではない。修めた呪文の種類によって分岐がある。ウィザードは最上級クラスだ。

 アークメイジにいたっては神に匹敵する魔力を持つといわれている。同じ時代に数人しかいないという特殊なクラスだ。

 ちなみにエンチャンターはマジック・アイテムの開発ができるクラスだ」


「……ライナスという男を知っているか?」


 アストリアは眼光鋭く切り出した。

 この質問をするためにこの仕事の話を受けたのだ。

「ライナス……」


 フランクはその名前を繰り返しただけだった。

「おまえと同じ魔法使いだ」

 フランクは長い沈黙のあと答えた。


「あぁ、知っているよ。彼は有名だからね。

 殺人卿サー・マーダー(Sir Murder)ライナス・バストラル。

 魔導学院の天才だ。いくつも伝説を作った。魔導学院に来る人間はみんな自分のことを天才だと思っているが彼の存在を知ると自分が天才ではないと気付く。





キャラクターの一人称ですが説明文を少なくするために次のように記述しています。

アストリア→「オレ」

アルフレッド→「おれ」

クレリア→「わたし」

フランク→「私」

ほかのキャラクターについても同様の処理をしています。

ご承知いただけると幸いです。



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