最終話 MERRY CHRISTMAS,my sons.
鉛の種をばら撒くことが存在意義の
「これ以上、私の工場に居座るのであれば、かわいい子供たちが沢山死ぬことになります。サンタさんとしては、当然、子供を殺すわけにはいきませんよね?」
「やれ。……ヘロデシステム起動」
コリンの
「んん? 何をしているのかな? そんな角でどうにかなるとでも?」
「コリンさん、あれは――」
ロクが何か言いかけたときだった。トナカイフォースの持つ
「くそ! 何が起こった!」
そんな悪態をつく前に、コリンにはやらなければならないことがあったはずだ。だが、予想外の事態に彼はそれを怠った。そう、エイトオーは先程の攻撃には一切参加していない。それは即ち、すぐに動けるということ。
コリンが気付いたときには既に手遅れ。重く、赤黒い鋼鉄製の左拳が
「まったく、お人形さんを使って子供を人質にとるなんざあ、悪趣味にもほどがあるぜ。なあ、ロクよ?」
コリンが倒されれば、我に返ると踏んでいたのだが、ロクは悪意に満ちた目でエイトオーを睨み続けていた。
「……そうか。やり合わないと分からないか。じゃあ、気のすむまでやってやろうじゃないか!」
「抜かせ! 骨が折れないようにミルクでも飲んでろ! クソ
殴り合いの予感にエイトオーの筋肉は膨張し、再び財団製のジャケットを破裂させれば、察したトナ太郎たちが周囲の子供を巻き添えにするまいと、肩に脇にと抱えて必死に移動させる。そして準備万端となったところで、血の繋がりのない親子の喧嘩が始まった。
だが、それは喧嘩と呼べるようなものだったろうか。他のトナカイフォースが見守る中、お互い、足も動かさずにひたすらに殴り、ひたすらに殴られるだけ。これが彼らのいつもの喧嘩の流儀だった。そう、いつもの。
「どうしたぁ! そんなもんか!」
「そっちこそ足腰ガタガタなんだろ! 早く降参しろよ!」
「うるせぇ、クソガキ!」
「うるせえ、クソ
「ごぅふ……、おはえしだ」
「げぇふ……、まだまひゃ」
「こえで……どうだ!」
「ふん! ききゅかよ!」
何度も何度も拳の応酬を続ければ、最早、何を言っているのかも怪しい状況。しかし、それでも倒れない。お互いに意地がある。親父としての意地と、遅い反抗期の子供の意地が。
「ハァ、ハァ、ハァ、そろ……そろ、降参しろよ」
「ハァ、……ハァ、ハァ、ふざけ……んなよ」
だが、とうとう精魂尽き果てたのか、二人同時に後ろに倒れ込んでしまった。それでもトナ太郎たちは腕組みをしたまま動かない。これもきっといつものことに違いない。
「はっはっはっはっはー」
「はっはっはっはー」
突如として発せられた大笑いに続き、二人は言葉を交わす。
「なんでえ、クソガキだと思ってたのに、随分と大きくなったじゃねえか」
「は! そっちこそ随分と老いぼれたんじゃないか」
「言うねえ。そんじゃ、ま、帰るぞ、ロク」
「……そうだな、帰ろう。どうせ
「け! 言ってろ!」
二人揃ってゆっくりと上体を起こせば、エイトオーは優しい目で我が子に声をかけた。
「メリークリスマス」
一瞬、きょとんとしたロクだったが、すぐに
「メリークリスマス。ありがとうよ、サンタさん」
日付は12月24日、時刻は22時。
彼らの仕事はこれからが本番だ。
【完】
サンタと秘密のおもちゃ工場〔director's cut〕 津多 時ロウ @tsuda_jiro
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