第11話 メリークリスマス、ミスター!

 ヘヴンズコール郊外にある広大な工場が、黒煙を上げ燃え盛っていた。


『突撃破砕はさいを敢行。衝撃に備えて下さい』


 抑揚のない機械音声の警告の後、派手な音を立てて重装甲モードのソリがシャッターを突き破れば、トナカイフォースが「ヒャハハハー」と奇声を発しながら重機関砲やグレネードで四方八方に攻撃を加える。縦横無尽に走り回り、2枚、3枚と見た目頑丈なシャッターを突き破る頃には工場のあちこちから火の手が上がっていた。


 ロク&コリンズカンパニーの工場は全部で3棟。そのうち2棟[工場棟A、工場棟B]の内部は製造ラインごとに三つに区分けされて6区画。もう1棟[オフィス棟]には従業員用の簡易宿舎や研究開発室、商品試験検査室、そして事務所や会議室、社長室などが集まる区画があり、全10区画で構成されている。


 オフィス棟の入口は一般的なオフィス用ビルと同じ造りだったため、ソリ男で突入するわけにもいかず、オホシサマを前面に構えての近接戦闘となった。

 アーム型拠点迎撃警備ロボットと、未確認の人型警備ロボットの連携による激しい銃弾の雨にさらされながらもどうにか制圧したのだが、社長のコリンズや副社長のロク、そして行方不明の子供たちはおろか、全く人影も見えずに不発に終わった。

 いや、破壊するというオーダーの通りならば3分の1成功といえるのだが、あくまでも彼らの目的は「行方不明の子供たちと俺たちの家族を取り戻す」、それだけだ。オーダー破壊命令など合法的に意趣返いしゅがえしをする大義名分に過ぎない。


 こうして戦闘の舞台は工場棟Aに移り、ソリ男の能力を最大限に活かせる熱源感知や生体反応予測AIを駆使しながらの破壊活動に精を出した。だが、オフィス棟に近い工場の内部は、またしても人っ子一人いない状況だったのである。相変わらず警備ロボットたちの激しい抵抗には遭うのだが、分厚い金属板の移動要塞と化したソリ男と、弾薬の費用も構わず重機関砲を撃ちまくる狂気のトナカイたちの前には、いかに銃器で武装していようとも、民間用の警備ロボットなど紙屑も同然であった。居並ぶ製造機械と一緒くたに、次々と青い火花を散らして沈黙していく。


 そうとなれば、いよいよ残る工場棟Bも同じ状況だろうと思いながら、尊大に構える入口のシャッターを破壊したそのときだった。ソリ男の「生体反応あり」の音声が再生されたのは。


『前方に熱源を検知。解析を開始。多数の子供、少数の大人です』

「分かった、止まれ。俺たちは降りる。ソリ男はここで待機だ」

『了解』


 エイトオーたちが降車し、ソリ男を盾にしながら前方をうかがうと、情報通りに沢山の子供たちが集まっていた。いや、集められていたというべきか。その数は30を下るまい。しかし、その目は虚ろで、声一つ聞こえない。

 その中央には仕立ての良さそうなスーツを着た2人の男。一人はすっかり青年実業家然としたロク。そしてもう一人、50代前半に見える細身の男の顔をエントツにて照会すれば、その正体はここ、ロク&コリンズカンパニーの社長、コリン・マッケンジーその人であった。


 照合結果にエイトオーはニヤリとわらい、コリンに向けて実に陽気で大きな声をかけた。


「メリークリスマス、ミスタ! ご機嫌いかがかな?」

「メリークリスマス! ミスタァーサンタクロオォォース! こうして会うことが出来て最高の気分だよ!」


 コリンは両手を広げて大袈裟に喜びを表すも、しかし、その次には実に不敵な笑みを浮かべてこうのたまうのだ。


「おっと、これは失礼。もう少しかしこまった挨拶の方が良かったかな? の皆さん」

「ロク! てめえ!」

「落ち着け、トナ太郎」


 一般人から裏のコードネームが出されたことに、ロクの仕業と察したトナ太郎が怒りもあらわに叫ぶが、これが年季の違いとばかりに、エイトオーは至って冷静である。

 その様子をコリン・マッケンジーはつまらなそうな顔で2回頷き、そして再び口を開けば聞こえてくるのは不穏な気配。


「けれど、あなた方はどうやらアポイントメントをお取りでない様子だ。私もこう見えて忙しい身でね、そろそろお引き取り願いたい。……もし、お引き取り願えないのであれば、少々寝付きが悪くなるプレゼントをお渡しすることになりますが」

「どういう意味だ?」


 何も言わずにコリンがパチンと指を鳴らせば、彼らを取り囲むように床から自動小銃付きのアーム型警備用ロボットがせり上がり、モーター音を鳴らしながらその銃口を子供たちに向ける。


「こういう意味だよ」


 子供たちとは縁遠い鋼鉄の花の中で、コリンは再び不敵な笑みをこぼした。

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