カフェ「遠野物語」グルメレポート
ゲコさん。
カフェ「遠野物語」グルメレポート
※この小説は、架空のカフェ「遠野物語」に出てくる架空の料理をレポートするというコンセプトで作ったもので、実在の個人、企業、料理、食材、団体等とは無関係です。
序文
ひょんなことからカフェ「遠野物語」に一時期通っていた。カフェの雰囲気もさることながら、料理も非常に美味しかった為、自身が注文した料理を中心にレポートしようと思う。カフェを経営するご夫婦は気さくな方達で、料理について色々教えてもらったので、そこも含めて記述したい。
カフェ概要
このカフェに足を運んだのは、201X年の冬から翌年の遅い春の間のことだった。某峠に通じる道路から一本ずれた、深い森をわずかに切り開いたところにカフェ「遠野物語」はあった。そんな場所を、時には車で深い雪を掻き分けて、時には粉雪にフロントガラスを覆われながら、また時には冬の黄昏を眺めながら通(かよ)った。最後の方は春とはいえまだ気温は寒く、森を見れば木陰には雪が残り、針葉樹林の中に山桜がこごえるえるように細々と咲いていた。
何故そこまで必死に通っていたのか、当時も今も良く分からない。何か人を惹きつけるものがあったのだろうか、それともただ単に人恋しかっただけなのかもしれない。ただ、カフェ遠野物語は、峠を行き来する人ならば観光客でも地元の住民でも、子供でもお年寄りでも利用するの憩いの場であり、著者だけではなく沢山の人がせっせと足しげく通っていた。
外壁はログハウス風、屋根は真っ赤な金属屋根で出来ている。ドアを開けると薪ストーブで温められた温風とドアベルの音、店長夫婦の良く通る「いらっしゃいませ」の声が出迎えてくれる。室内は板張りとむき出しの煉瓦で、そこに木製のカウンター席とテーブル席、カントリーキッチン風のキッチンスペースがある。窓は厚手のステンドグラスがはめられている。決して新しくないが、掃除が行き届いており、全体的に温かみのある印象のカフェだった。
以下に著者が注文した食事を覚え書きする。
マヨヒガランチセット
カフェ遠野物語の人気No.1。ランチタイムにはほとんどの人がこれを注文する。
注文すると、まず始めにサラダと小鉢が出てくる。
小鉢の中は季節ごとに異なるが、著者が通っていた頃はキャラブキだった。筋を丁寧に取られたフキが醤油で煮詰められ、黄色の小皿に入ってくる。食べると筋っぽさがなく案外柔らかい。フキの香りが口いっぱいに広がり、山里の春を感じられる。
サラダには青々としたレタス、キャベツが山のように盛られており、そこにブロッコリーとプチトマトが添えられている。ドレッシングは青じそ風味。プラス百円でおかわり出来るとのことだが、著者は一杯で充分な量だった。
サラダと小鉢からあまり間を置かず、今度はメインのカレーライスが出てくる。
ビーフとチキンの混合カレーで、ニンジンとジャガイモがごろごろと入っている。一口食べるとルーのどっしりとした濃厚さの中に独特のスパイスの香りが鼻から抜けて、後から肉の旨みが口の中に広がる。ライスはケセネ(雑穀)と白米から選べる。著者はケセネを頼んだが、ぷちぷちとした食感が面白かった。
食後にはデザートに牛乳寒天が付いてくる。表層に紅白のエディブルフラワーが贅沢に散らされて固められている。牛乳寒天の入っている赤いお椀は持ち帰り可能。丁度米が一合入る大きさなのだとか。
このように人気の理由がとてもよく分かるランチセットなのだが、飲み物でホットティーを選ぶと、お茶がぐらぐらにたぎったお湯で淹れられているのでやけどにだけ注意。
月見ケーキ
一月の十五日以降から数日のみの限定メニューとして売られているケーキ。常連の中でも食べたことのない人がいると聞いて、いそいそと注文した。クルミがぎっしりと入ったシンプルなパウンドケーキが、小ぶりな皿に乗せられて出てくる。白を基調とした皿の端には緑と紫で百合のような花が描かれていて、そのレトロな絵と素朴なパウンドケーキの組み合わせが何ともノスタルジック。
聞けば国産のクルミを一つづつ二等分し、直火でローストしたものが入っているという。
一口食べると、しっとりとしたケーキ生地の中にざくざくした大きく香ばしいクルミが入っていて食べごたえ満点だった。クルミの他にドライフルーツも入っていて、ケーキ一皿を食べただけでもかなりの満腹感が味わえる逸品。
月見ケーキと一緒に注文した。店主が直々にブレンド、ローストしたオリジナルコーヒーとのこと。茶色のがっしりとした陶器のカップに入ってくる。苦味、酸味ともに薄くあっさりと飲めて、後から松の枝のような爽やかな香りがする。
オイヌおにぎり
カフェ遠野物語では、今どきのカフェごはんから素朴で懐かしい料理までメニューの幅が広い。オイヌおにぎりは、素朴なメニューの方で、お母さんがお弁当に作ってくれるようなおにぎり。ただ、他のお店のおにぎりと違うのは、何故か角度によって大きさが異なって見えることである。前から見ると大きい。後ろから見ると存外小さい。
おにぎりは一つから注文可能で石で出来たプレートの上に乗ってくる。
また、団体客向けにオイヌの群れおにぎりというメニューもある(要予約)。 更に時期によっては珍しい鹿肉や馬肉のそぼろを具に入れることが出来るらしい(こちらも要予約)。
ザシキワラシのキノコスパゲッティ
珍しいキノコ数種類をスパゲッティとオリーブオイルと鷹の爪、ニンニクで炒めた一皿。キノコは勿論食べられる無毒のものばかり。キノコの量とパスタの量が同じ位で、ボリューミィ。シンプルなパスタだが、キノコの種類が多い為食べていて飽きない。ワインと一緒に食べたくなる。いや、意外と日本酒にも合うだろう。
近年、若い女性を中心に甘酒は「飲む点滴」と呼ばれ価値が見直されているが、それよりも前からカフェ遠野物語ではこの甘酒を長い間出していたという。赤い半纏と帽子を着せられたような所々赤い模様の施されたカップに入れられてくる。昔ながらの甘酒で、米と麹だけで作られているという。米粒を潰さずに作る為、市販のものよりどろっとしている。夏には希望すると氷とおろした生姜を入れてくれる。
ホトトギスのスイートポテト
サツマイモの柔らかい部分だけを裏ごしして作られたスイーツ。注文するとフォークではなく小さなコーヒースプーンが付いてくる。スプーンを入れると、ほろほろと崩れる程柔らかい。色も一般的なスイートポテトよりも薄め。スプーンから零れないように慎重に口に運ぶと、濃厚な牛乳の匂いと優しい甘さが口いっぱいに広がる。
ちなみに、スイートポテトに使われない部分は細長く切られ、油で揚げて砂糖を振り、「カッコウのいもけんぴ」として店頭販売されている。
河童のチキンライス
カフェ遠野物語では今は珍しいチキンライスが食べられる。ニンジン、鶏肉、玉ねぎ、マッシュルームが入っており、その代りグリーンピースやピーマン、パセリなど緑の野菜は一切入っていない。添え合わせのサラダなどもなし。真っ白な皿の上にひたすらに真っ赤なチキンライスが乗っている。ライスのてっぺんには水かきのような形の旗が刺さっている。
しかし、見た目に反してケチャップの風味は軽い。トマトそのものを食べているように感じるくらい爽やかな味わい。なんとこの店ではケチャップから手作りで、市販のケチャップよりも薄めの味付けで作っているとのこと。
子供からお年寄りまで、トマトが好きな人は気に入ること請け合いの味だった。大きな口を開けて食べたい。
煮た貝の粥
乾燥ホタテを米と一緒に煮て作られた中華風のおかゆ。小葱がふんだんに入っている。米は固まったところがなく、ユキユキと柔らかい。大きなどんぶりに入ってくるが、しゃきしゃきの小葱と濃厚な貝の出汁であっという間に平らげられる。
オシラサマのベリーパフェ
マルベリー(桑の実)をふんだんに使った珍しいパフェ。マルベリーソースと、生のマルベリー、生クリーム、コーンフレーク、季節の果物が層になって細長いガラスの容器に入っている。そこに更に細長いクッキーが飾られる。クッキーの形は、先端が九十度に曲がり尖った耳の生えた馬の頭を模したもの、先端が丸いもの、丸い先端の更に上に烏帽子のように短い棒が生えたもの、の三パターンがある。クッキーの形と数はその日によってまちまちで、二本、四本、六本、多いと十二本の時もあるという。
マルベリーソースとマルベリーは食べると小さな種がぷちぷち潰れて楽しい。ソースは甘酸っぱい香りが濃厚に煮詰められ、「桑の実ってこんな香りなんだ」と教えてくれる。クッキーのサクサクも嬉しい。生クリームとソースを付けて食べると良い。
子供の頃摘まんだ桑の実とはまた違う美味しさを教えてくれるひと品。
カクラサマホットサンド
食パンにハム、ツナ、チーズを挟んで焼いたもの。それにサラダとオレンジとソフトドリンク(複数のものから選択可能)が付いてくる。食べるとサクッとしたパンの中から熱々のチーズとハム、ほろほろとしたツナが出てくる。ツナはこの店で作ったマグロの水煮を使っているとのことで、塩分と油は控えめ。サラダはマヨヒガランチセットと同じもので、オレンジは新鮮なつやつやした橙色をしている。
子供に人気が高く、カフェ遠野物語に来る子供の殆どがこれを頼んでいた。焼き目が目と口に見える時とそうでない時がある。
世中見の餅
月見ケーキと同様、一月の十五日以降から数日のみの限定メニュー。沢山の品種のもち米を混ぜて作った丸餅をあんこ、きな粉、おろし醤油で食べられる。十五日に搗かれた餅で、外側がカリカリ、内側はとても柔らかい。著者は外側をおろし醤油、内側をきな粉で食べるのが好き。
ジヤウヅカのゴマプリン
カフェ遠野物語でスイートポテトと肩を並べて人気のスイーツ。透明で分厚い耐熱ガラスのカップに入れられて出てくる。カップの内側の面に沿って生クリームが絞られており、そのクリームの上に砕かれたナッツが乗っている。
食べてみると、甘さ控えめでゴマの香りが強い。舌触りもきめ細やかというよりはゴマの粒感が濃厚。色も象のように濃い灰色をしている。スイートポテトとは対照的に、しっかりと固められた珍しいプリンで、カップを揺らしてもびくともしない。
プリンだけを食べても良し、生クリームとプリンを一緒に食べて正反対の食感を楽しむもよし、更にナッツも食べて三つの異なった味と香りを楽しむもよし。このプリンは一見硬派でありながらも、面白いやつなのだ。
その他備考
このカフェではカフェの一角で衣類や雑貨も販売しており、店長夫婦の一押しはワンピースと男性用のカジュアルシャツ。両方とも服の裾と袖は、木の葉の形をした厚手の帆布やフェルトが幾つも添えて綴られている。筆者は櫛を購入。地元の木材を使って作られているとのこと。使ってみると、髪がつやつやになった。
ちなみに、店長夫婦は見目麗しい美男美女で、奥さんは艶やかな美人、旦那さんは上背があり力強い目つきをしている。
カフェ遠野物語へのアクセスについて
カフェ遠野物語は、I県T市、最寄駅のA駅から車で約二十分程の閑静な山奥にひっそりと建っている。定休日は不定(ウェブサイト参考とのこと)。営業時間はA.M.10:00~P.M.8:00(ラストオーダーはP.M.7:30)。
TEL: XXX-XXXX-XXXX
ウェブサイト: XXXX:// cafe-touno-tails.com
カフェ「遠野物語」グルメレポート ゲコさん。 @geko0320
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