第31話 襲撃
「この街に向かっていると思われる軍勢は規模が大きいようで、目撃した街からはその軍勢が通った道の草花は枯れてしまったとの事です」
魔王軍という言葉に冒険者たちは戸惑いを隠せていない。
はるか昔伝説の勇者パーティーが滅ぼしたとされる魔王軍。勇者達が現れる前から存在しており何百、何千年と人類に危害を加えてきたとされるものだ。
勇者たちと同じく伝説上の存在となった魔王軍が突然出てきたらそりゃあこんな反応になるか
冒険者のひとりが手を上げる
「それは本当に魔王軍なのか?」
「完全にはそうとはお答えできません。しかしその軍勢はスケルトンやアンデッドウィザードなどの人外のものです。魔王軍と決めつけるには判断材料が少ないのですが…」
まぁおおよそ魔王軍なのだろう
違ったとしてもこの街に向かっているのであれば人類の敵なのは違いないだろう
また別の冒険者が手を上げる
「この街を捨てて逃げるのはどうなんだ」
「軍勢は近くの街を無視し、この街に向かっています。もしこの街に誰もいないのであれば手当り次第他の街を滅ぼすでしょう。」
「この街がそもそも狙われてない可能性は?」
「ありません。軍勢はまっすぐこの街に向かっておりその直線上にはこのギルドしかないのです」
なるほどな
つまりこの街から逃げたらほかの街も被害が及ぶ。しかし立ち向かうにしても大規模な軍勢。
ここで死ねってことか
「軍勢の進行具合から考えるにおそらくあと数時間後にこの街に辿り着きます。皆さんどうか力を貸してください!」
職員が深々と頭を下げる
この人もこのギルドの職員だから逃げれないのだろう
「俺は残るけどお前らどうする?」
「ライトが残るなら私も残る。というかライト置いて逃げれない」
「故郷だしなこの街は。俺も残るぜ」
「わ、私も…残る…」
ラミーユはさも当然という感じで答え、レンも諦めたように答える。
アンナは涙目になりながらも答える
「死ぬの怖くないのかよ」
「ライトと離れるのは死ぬのより怖いから」
「怖いっちゃ怖いけど遅かれ早かれだろ。逃げても逃げなくても。」
「怖い…やだ…いやだよ…でもこの街は私達が出会った街だから…」
俺が守ってやるという言葉をアンナに向けることは出来ない。
きっと自分のことで精一杯になるからだ
「ほかの街に避難するという方は今のうちに!残っていただける方は装備の準備をお願いします!」
結局ほとんどの冒険者がギルドに残った
もちろん逃げる冒険者もいたがほかの街への伝達も兼ねているためちゃんと役割がある
臆病者と罵るやつなどいなかった。逃げたことをバカにするやつ、バカにされることを嫌うやつ。そんな奴らが間違いなのだ
ラミーユにボコボコにされたヤツらはアンナが回復させてあげており、感謝されていた。
ボコボコにした本人であるラミーユはギルドの屋根に登り遠くをじっと見つめる
首を傾げた後に大きくジャンプし降りてきた
「どうだなんか見えたか?」
「なんかいっぱいこっちに向かってきてる。数は多すぎてよくわかんない」
「そうか…。…だそうです。この街に向かってるのは間違いないっぽいっすね」
「…え!?見えたんですか?まだはるか遠くにいる軍勢が!?」
「まぁそんなとこっすね」
正しくは違う。ラミーユは殺意や悪意などの敵意を可視化することが出来る。人よりもそういった感情に敏感なのもそれが関係ある
神経を研ぎ澄ますせれば何百キロ先の対象の敵意を感じ取ることが出来る
これを初めて披露された時は正直何でもありかと思ったがこいつならやりかねないと思ったのも事実
「そうですか…まぁラミーユさんならできそうですもんね…」
ほら見たことか
「とりあえず皆さん街の外に出ましょう!相手の方が数が多いので広い方が戦いやすいはずです!」
ギルト職員の呼びかけにより街の外に出て何時間かした後それは来た
漆黒の馬に乗ったそいつは同じく黒い馬に乗った大量のスケルトンたちを引き連れて街の前にやってきた
馬と同じくらい真っ黒な鎧を纏っており、日光が当たり黒光りしている。黒い兜から除く赤い瞳に睨まれれば心が弱いものはそれだけで気を失ったところだろう
「俺様の部下にアースという男がいたのだが近頃この街にいる冒険者に倒されたと聞いてはるばるやって来た。俺の部下を可愛がってくれたクソ野郎はこの中にいるのか?」
ドスの効いた声が響く
アースって隣街に行った時に倒したあいつか
聞いてはいるが真っ直ぐこっちを見ている気がする。まぁ何かしらの報告を受けたりしてるのだろう
俺は無言で手を上げる
正しくはラミーユだがまぁ指示したのは俺だしな
「ほう、自ら名乗り出るとはな。部下から報告は受けていたし知ってはいたがまさかそんな弱そうなガキにやられるとは。」
弱そうで悪かったな
魔術師は魔力が強くないと感じ取られづらいんだよ
師匠やグラさんみたいな規格外は一般人でも感じ取れるくらいの魔力を発してるのだが
「その後に何人かと俺の配下と出くわしてるはずだがそれもお前がやったのか?」
「…え?」
俺たちがあの日倒したのはアースだけだったはず
グラさんも戦っていないと言っていたし…
ほかの3人に目を向けるが3人も心覚えがないようだ
「待ってくれ!その何人かの配下ってのは知らない!アースしか倒してないはずだ!」
俺の言葉にそいつははぁとため息をつく
「こっちは報告が上がってきていないがどうせ貴様がやったんだろう?つまらない嘘はよせ。
それにどちらにせよ俺様の部下を倒したのは本当のようだからな」
そしてそいつは腰にたずさえた大きな黒い剣を取り出した
ちょっと待て、じゃあなんだ。今回の襲撃は俺たちのせいってことか?いや、でもノーラとマリーを助けるから仕方なかったはずだ
助けなかったら今回の襲撃はなかった?
可能性は低い。アースを使ってこいつが水面下で何かをしていたというのは確実。
「魔王軍幹部第9席『影骸響震』のオグドルバ!人間の蹂躙を開始する!」
剣をこちらに向けると馬が真っ直ぐこちらへ走ってきた
復讐とかよくわからないけど師匠が黒魔術師なので俺も師匠を追いかけようと思います すいか @harusigure
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