第46話 故郷の村エルダナへ
もちろん、第二騎士団への誘いは断った。
しかし、マクロンは諦めなかった。帰りの道中で何度も何度もカイルに声をかけてくる。
「ええ、うちに絶対にこいよ。楽しいって!」
「い、いえ、その進路については色々と話を伺っていまして……」
「なああああんんで、うちだけ断るんだよ!? おかしいだろ!? なんだ、お前も第二騎士団だって下に見ているのか!?」
「そ、そんなことはありませんけど!」
「だったら、いいじゃん! うちも検討リストに入れろよ! じゃないと、おかしいだろ!? 第一がよくて第二はダメってなんだよ!」
結局、強引に検討リストに入れられてしまった。
もしも、カイルが突っぱねると、また新しい紛争の種になってしまう気もしたから。
(ああ……これで4個目か……)
マクロンや第二騎士団も荒っぽい部分はあるが、どうにも情には厚そうな感じで、話してみると悪い感じでもないのが困る。
真面目なカイルは、真面目に向き合わないとなあ、と思っている。
「じゃあな! 暇になったら第二騎士団に遊びにこいよ! うちの団長にも合わせるから!」
王都に帰り着くと、そう言ってマクロンたち第二騎士団は立ち去っていた。
その後、カイルはブレイズに連れられて団長マーシャルの元へと報告に向かった。
「――そんなわけで、マイコニド狩りは首尾よく片付きましたが、肝心のカイルの実力を第二騎士団に悟られてしまいました」
マーシャルの隻眼がジロリとカイルを見る。
(お、怒られる……!?)
と思い、背筋が硬くなっていると、別のことをマーシャルは口にした。
「半日でマイコニド102か。やはりいい腕前だな」
「ありがとうございます!」
「やはり、あのとき、戦えなかったのは心残りだ。今から戦おう。今すぐ戦おう」
そう言って、マーシャルがデスクの横にある剣を手にする。
「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってください!」
慌ててカイルは両手を振った。
物事には雰囲気というものがある。前回の流れなら団長と戦うことに心躍ったが、今はそんな流れではない。ただの日常の延長上で、戦う気分などかけらもない。ところ構わず、騎士団長などという雲の上の人間と一戦を交えて興奮できるお手軽戦闘民族の精神をカイルは持ち合わせていなかった。異次元の強さに比べて、カイルの精神は『普通』に属していた。
「その、また今度の機会にさせていただければと!」
「そうか……仕方がない。部下なら強制的に命令できるのだが。まだ正式には未所属なのが残念なところだ」
心底から残念そうな声でそう言いつつ、マーシャルは剣を置いた。
「そうだ、王太子からカイルに伝言を受け取っている」
「王太子から……!?」
「しばらく大きな仕事もないので、故郷の村に戻ってはどうか、とのことだ」
それはカイルの胸に大きな感情をともしてくれる提案だった。
戦争が終わってブレイズに誘われてから――
まさに動転の日々の連続だった。まだわずか数ヶ月前のことなのに、とても遠い記憶のように感じられる。故郷や両親との、落ち着いた時間を身体中が欲していた。
「ありがとうございます。いったん戻ります」
「わかった、王太子にはそのように伝えておこう」
それからカイルは近衛騎士団にも挨拶をかわし、帰郷することにした。
準備に時間はいらない。
ほとんど、裸一貫で出てきたのだから。ブレイズとアイスノーが「戻ってきたら、まずはうちの家に来い」とプレッシャーをかけてきたことくらいだ。
エルダナ村は直通の乗合馬車もない小さな場所だ。近くの街まで馬車で移動して、そこからは徒歩になる。
のだが――
「え? 今はエルダナ村への直通馬車があるんですか?」
近場の街で来たとき、まさかの新情報を教えられてカイルは驚いた。
「おお、ここ最近、人の出入りが増えたんで、増設されたんだよ」
「へえ、出入りが増えた……? どうしてですか?」
「どこかの商会が開発を始めたらしい、くらいしか知らねえな」
カイルはびっくりした。
自分で言うのもなんだが、本当に何もない――大自然がある! くらいしか取り柄のない田舎を開発しようとしている商会がある?
どうにも腑に落ちない。
村に向かう馬車に乗ってみると、肉体がガッチリした土木業に強そうな男たちと一緒になった。彼らの会話をそれとなく聴いていると、どうやらエルダナ村の開発業に従事するらしい。
(本当なんだ……)
しかし、あまりにも唐突でカイルには現実感が持てない。どこかの商会が開発を進めている――商人を動かすには利が必要だ。
そんなものが故郷の村のどこにあるんだろう……?
半信半疑だったカイルだが、それが嘘ではないことを目の当たりにした。
エルダナ村はまさに開発が進んでいていた。村人ではない人たちがあちこちをうろうろと歩き、作りかけの建物があちこちにある。全く整備されていなかった村内の道も整備が進んでいる。
(……こ、これは……)
おそらく工事が始まって間もないのだろう、まだ様変わりとは言えないが、様変わりしつつある故郷の姿に好奇の視線を向けながらカイルが歩いていく。
すると、知り合いのルト爺さんと出会った。
「おお、カイル坊ちゃん! 帰ってきたか!?」
「久しぶり。またすぐに王都に戻るけどね」
「いや〜、さすが坊ちゃんだ! 王都に向かってすぐに、こんな手柄を立てちまうなんて!」
「え、俺? こんな手柄?」
話がいまいち理解できずにカイルは首を傾げる。
どうやら、この村の発展はカイルのおかげだとルト爺さんは言っているが、カイルにはその自覚が特になかった。
「そうだよ、親父さんがカイルのおかげだ! って言っていたぞ!」
「……そうなの?」
理解不能なカイルは、これは父親を捕まえないとわからないな……と思いながら、領主の館――実家へと戻った。
玄関に入り、戻った旨を伝えると、興奮した様子で父親をはじめとした家族たちがぞろぞろと奥から出てきた。
「おおおおお、ようやく帰ってきたのか、カイル!」
「父さん、ただいま」
日頃から、やや感情過多な父親ではあるが、どうにもその表情と声色には、久しぶりにあった愛息子への愛情を超える何かがある。
おそらくは、外での状況と関係あるのだろう、と思いながらカイルは話を振った。
「父さん、外の状況はどういうこと?」
「うん? なんだ、お前、知らされていないのか? てっきり王太子様から聞かされていると思っていたよ」
「ナリウス様……どんなこと?」
「うち、男爵になった!」
「え!?」
「この村、この周辺の戦略的拠点にするらしく、大規模開発することになった!」
「え!?」
「しかも、担当してくれるのは王都で一番大きなグレン商会だ!」
「えええええええええええ!」
なんだか、色々なものが様変わりしていて、カイルは頭がクラクラするのを感じた。
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