第43話 【急募】規格外に普通を理解させる方法
王都北部に森林地帯にカイルたちはやってきた。
第一騎士団と第二騎士団による混成部隊を前に、全体統括を務めるブレイズが話をしている。
「これより、大量発生したマイコニドを討伐するため、森に入ってもらう。まあ……特に危険もない場所で、マイコニドもそれほど強くはないのは知っての通りだ。よって広範囲を狩ることを優先するため、組み分けは行わず、単独で森に入ってもらう。もちろん、腕に不安のある人間は個別に腕を組んでもらって構わない」
そこで第二騎士団マクロンからの煽りが飛んだ。
「ブレイズ、不安だったら組んでやろうか?」
「ありがたい申し出だが、俺は腕を負傷しているので、本陣での待機組だ」
肩をすくめてからブレイズが話題を元に戻す。
「マイコニドはキノコの化け物だ。見たことがない奴もいるだろうが……まあ、一目でわかる。デカくて動く明らかにキモいキノコがいれば怪しいと思え」
ブレイズの大雑把な説明に、場がどっとわいた。
「マイコニドの額には魔石が埋まっている。そいつが討伐証明だから、倒した後は間違いなくくり抜いてこい」
魔石は魔道具を動かす動力にもなるので重要なアイテムだ。
討伐数を第一騎士団と第二騎士団で競うということだから、この魔石の数が比較対象となるのだろう。
「ないとは思うが、もし危険を察したり道に迷ったら遠慮なく支給の笛を吹け。近場の連中は援助を優先するように」
「援助1回は魔石5個の引き渡しでどうだ?」
マクロンの言葉に、ブレイズが強気の表情で返す。
「別に構わんが、そっちが困っても5個もらうからな?」
「当たり前だろ? 問題ないさ」
そして、ちらりとマクロンが視線をカイルに走らせる。
「そこの新人くん。困ったら遠慮なくいつでも笛を吹いてくれてもいいからな?」
「ははははは……」
そんなふうに当たり障りのない感じで愛想笑いで誤魔化したが、内心でカイルには期するものがあった。
(いい成績を残してやる!)
もう、王都に出てくる前までの、己の強さに無自覚なカイルではない。
どうやら自分が相当な腕前だと自信がある。
今は第一騎士団の人間なのだから、相応の実力を示すべきだろう。
だが、そんなカイルの決意に冷水が浴びせられた。
「――今日の作戦は夕方までだ。帰ってくるのが遅くなる分には構わないが、夕飯の炊き出しがなくなっても責任は取らないからな。以上だ」
話が終わり、騎士たちが準備に取り掛かる中、そっとブレイズがカイルに近づいてきた。
「カイル、少しいいか?」
「はい?」
「あんまり張り切るな。というか、ぶっちゃけ、手を抜け」
「……え、どういうことですか?」
「第二騎士団もいるからな。お前が目立つのはよくない。普通くらいの成績で我慢してくれ」
「わかりました」
少し煮えきれないものを感じたが、カイルに否はない。もしも、第二騎士団まで、カイルが欲しい! となったら大変だ。それに、ナリウスのカイルを表に出さない、という考えにもそぐわない。
(……仕方がないな)
別に自分が張り切るほどの仕事でもないのだろう。優秀な騎士たちが集まっているのだから。
そんなふうに割り切ってカイルは森林の中へと入っていった。
森林自体は故郷の村の周囲にもたくさんあった。歩き慣れているし、初見でも迷う心配もない。同じ場所に戻るだけなら絶対の自信もある。
なので、カイルは躊躇いなくスタスタと奥へと歩いていって――
「……あれは……?」
視界の先で、樹木にへばりついている大きなキノコが見える。
確かに背後から見るとキノコだった。赤い大きな傘に、にょきっと生えた白い体。だが、子供ほどもある大きさで足が前後4本ついている時点でかなり異質だ。
樹木が引き裂ける音を走らせ、意外と素早くキノコが振り返った。
目につくのは、胴体についている大きな口だ。鋭い歯が並んでいる。今まで樹木を齧っていたのだろう、樹皮の破片がこびりつき、樹液がてらてらと輝いている。
ああやって樹木にかぶりつき、樹皮を食らい、樹液を貪っているのだろう。あんなものが大量に発生すれば森が死ぬのは当然だ。
「ギィイイイヤアアアアアアアアアアアアアア! 」
キノコが耳障りな声をあげた。がちん、がちんと歯をうちらなして威嚇の音を鳴らしてくる。
その額には、紫色に輝く魔石が確かに輝いていた。
どうやら、この不気味な生き物がマイコニドらしい。ブレイズの『デカくて動く明らかにキモいキノコ』という表現はそれほど大雑把でもなかった。
「……倒すか……」
カイルは剣を引き抜いた。
それに触発されたのか、マイコニドも動きを加速、一気にカイルへと襲いかかる。
もちろん、カイルは焦らない。
斬――
ただの一撃でマイコニドを切り伏せる。両断されたキノコはぼとりと地面に落ちた。4本の足が苦しそうにピクピクと動いているが、やがてそれも止まる。
カイルは短剣を引き抜くと、動かなくなったマイコニドの額から魔石を引き抜く。
「よし、まずは一匹か」
幸先のいいスタートだ。気をよくして、ついうっかりもっともっと多くのマイコニドを狩ろうという気分になってしまうが、慌てて己を諌める。
(そうだそうだ、普通……普通の成績で収めなければ!)
そうブレイズと約束したのだから。
(じゃあ、普通程度に頑張ろう)
カイルは魔石をバックパックに放り込むと再び歩き出した。
だが、そもそも、カイル・ザリングスは『規格外』だ。彼が『普通』を意識して行動したところで、それがぴたりと『一般的な普通』と当てはまるわけがない。
人は1日に200キロも走れないし、とんでもない凶悪モンスターを軽々と一刀両断などできない。
だが、カイル・ザリングスにはできてしまうのだ。
(普通、普通……)
そんなことを思いつつ、カイルは森の奥へと歩いていく。
雑に歩いているだけなのに、明らかに常人よりも速い速度で。
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