ある冒険者の話
@styuina
本編
むかしむかし。
あるところに、若者がいました。
ある日、かれの住んでいた村が、魔族に襲われたので、かれは、
「魔族め、やっつけてやる!」
と決意したのでした。そして、旅に出ます。途中、山賊に襲われそうになったりもしましたが、持ち前の正義感の強さからか、
「悪い奴は許さないぞ!」
という強い気持ちが勝っていたのか、何とか切り抜けて、ついに悪の本拠地である城までやってきました。しかし、そこで待ち構えていた魔族は手強くてとても歯が立ちません。どうしようもなく困っていると、どこからともなく魔法使いが現れ、こう言いました。
「この剣を持っていけばいいよ」
「どうしてですか?」
「これを城に突き刺せば、たちまちのうちに魔王の城は崩壊し、世界中は平和になるのだ。でも……」
と、魔法使いは何だかもったいぶって、少し間を置きました。
「それには条件があるんだよ」
「どんなことでしょうか?」
「まず、勇者はこの城の中で、いちばん高いところに立っておくんだ」
それはつまり、城の一番上にあるバルコニーのことです。そこからだと、遠くまでよく見えるのです。
次に、
「そして呪文を唱えながら剣を振りかざして飛び降りる。そのとき、勇気のある人は『ウワーッ!』と叫ぶように」
……そんなわけのわからない条件つきなのです。
しかし若者は悩みました。
もしもその通りにしないと魔法が解けないとなると大変だし……。
何よりも彼は正義の心を持った若者だったから、約束を破ることなどできません。それに、
「きっとあの人が言おうとしていることは何か深い意味があるに違いない。……そうだ!きっとそうに決まってる」
こう思い込んでしまったら、もう疑いようがない性格なのです。だから当然のように青年はその通り実行することに決めてしまいました。すると突然どこからともなく不思議な光がさしてきます。
「わあ、すごい!やっぱりあの人は魔法使いだったんだ!」
……気がつくと、かれは真っ暗な闇のなかにいました。
「な、なんだ、どうしたんだ?」
混乱したかれは叫びますが、答えるものはいません。
若者はこうして一生闇の中で生きていくことになったのでした。
ある冒険者の話 @styuina
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