大好きな幼馴染が処女じゃなくなった、ゾンビになる前に殺さなければいけない社会で生き残る方法

華川とうふ

第1話 プロローグと俺たちのこと

 それは突然始まった。


「十六歳お誕生日おめでとう〜♡ ほら、お誕生日いわいに孕めや❣️」


 中年男性が少女を犯していたその時、今まで何もできなかった少女の体はけいれんし、次の瞬間男の首筋を噛みちぎっていた。


 少女がゾンビ化する事象が初めて観測されたのは。

 もちろん、それ以前にも少女が突如ゾンビ化して人間の肉を食いちぎる事件はあったのかもしれない。だけれど、あの事象はあっというまに起こり社会に混乱をもたらした。

 この事象が最初のものと言われるのは、中年男性が悪趣味なことに少女を犯す一部始終を記録しようとビデオカメラを回していたため映像として残ったからである。


 ※※※


「それでは皆さん、今日も清く正しく生きましょう」


 学校の教師のセリフは耳にタコができるくらい聞いている。

 十六歳になった少女がゾンビ化して、人々を襲う。

 そんな事件が日本中で起こっていた。

 原因はいまだにわからない。

 もちろん、ゾンビ化した少女の治療法なんてない。

 分かっていることはただ一つ、十六歳になる瞬間までに処女でいればその事象は生じないということだ。また、最初の事件が起きる前に十六歳になっていた人間もゾンビ化していない。

 そう、今日本中を騒がせているのはすべて少女のゾンビなのだ。


 少女のゾンビ化は日本という国を大きく変えた。

 一般市民が銃を持つことができるようになった。もちろん、使っていいのはゾンビにだけだけれど。

 当初はゾンビ化した少女たちの人権なども考慮しようという動きもあったが、ゾンビ化したら不可逆で彼女たちは何人もの人々を殺した。


 多くの人は銃を手にとり、少女たちに処女でいることを求めた。

 俺の幼馴染の茉優まひろもその例外に漏れず、貞淑であることを求められた。

 日本中の十六歳未満の少女たちは全員処女であることを世間から求められていた。


 茉優は可愛い。

 ミルクのように滑らかな肌に杏色の唇。眼鏡の奥の瞳は思ったよりも茶色くきらきらと輝いている。

 ものすごくまじめで学級委員って感じ。

 っていうか、実際に学級委員だし。

 髪はみつあみで、休日はコンタクトなくせに学校では眼鏡だし、制服なんて校則に書かれている通りなんじゃないかと思うくらいスカートは長く野暮ったい。

 だけれど、俺のことは小さいころからの癖で「りっくん」と呼んでくるし、手もつないでくる。

 俺たちは仲がいい。

 ただの幼馴染としてではなく、お互いを特別な存在だと思っている。


 だけれど、俺たちが男女としてお互いを好きなことをまだ誰にも言っていない。

 なぜなら茉優の家はすごく厳しいから。

 きっと、俺と茉優が付き合いだしたなんてことを茉優の親が知ったらもう会わせてもらえないだろう。

 まあ、男女交際が発展するとゾンビ化の可能性があるなんて可愛い娘を持つ親としてはなんとしても男という存在は遠ざけたいと思うのも無理はない。

 可愛い娘が殺人ゾンビにならないために、男に合わせない、セックスさせる機会を与えないというのは一番簡単な方法だから。


 俺と茉優はただの中のいい幼馴染。


 お互いに恋愛感情をもっていることは誰にも話したことがなかった。


 茉優が無事に十六歳の誕生日を迎えたら、周りに話そうと決めていた。


 それまでは、ただの幼馴染として一緒にすごす。

「好き」って言葉にもしないし、キスもしない。

 そう二人で決めていた。


 そして、来週はとうとう茉優の誕生日だ。

 やっと正式に俺と茉優は付き合うことができる。

『もうすぐだね!』二人で毎日のようにその日を指折り数えて楽しみにしていた。

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