雨と蛍

@sumnmer_0725

雨と蛍

私は雨の中、夜の住宅街を歩いていた。車が隣を通っていく。するとどこからか一匹の蛍が目の前に現れた。

「こんな都会の、しかも冬に蛍がなんで」私はそう思ったと同時に懐かしい記憶がよみがえった。

 それは昔、まだ私が片手の指で年齢を数えられる程の時だ。私には兄がいた。まるで今のような、雨の中田舎の夜の道を二人で歩いていた。すると目の前に蛍が現れた。まるで私たちと一緒に家に帰りたいと言っているかのように私たちの歩く速さと同じ速さで蛍は飛ぶ。

そんなことを思っていると蛍は私たちから離れていった。私はその蛍を追いかけると同時に前に転んだ。後ろを見ると血と兄が見えた。それからしばらくして知らない男の人の緊迫した声が聞こえた。目の前を蛍が飛ぶ。そのあと私は意識を失った。

 あの時から私は後悔しかしていなかった。なぜあの時車道に出た…なぜあの時蛍を取ろうとした…なぜあの時…後悔を上げればきりがない。

 目の前には蛍がいる。もしかしたらこの蛍を捕まえればあの時に戻れるかもしれない。そんな思いを抱いて蛍へ手を伸ばした。蛍に触れる。雨の中隣には車が通る。どこからか声がする。高いような子供の声。私はすぐわかった、これは兄の声だ。

「××××」何を言っているのか分からない。次の瞬間トラックが大きな音を立てて横を通った。何も無くなっていた。兄の声も蛍でさえも、さっき見たことは全て夢だったのか、私には何一つわからなかった。でも心が少し軽くなった気がした。兄は私のそばにいる。そうだ、あの時、兄が自分の人生をなげうってでも助けてくれた命を、私は後悔で今まで台無しにしてきた。

 兄が救ってくれた命、兄の分もこの鼓動に乗せて前を向いて進んでいこうと思えた。

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