閑話

投稿を悩んでいた母娘の会話です。

読まなくても問題ない話ではありますが裏でこんな会話をしていたんだってくらいに思っていただければ。

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 少し時間は遡ってセリシェールとセラシュヴェールがお風呂に入ってすぐのこと。母親に詰め寄ったセリシェールが声を荒げた。


「お母様、あんな言い方しなくても良かったんじゃないですか!」

「あんな言い方とは?」

「『貴方が私の娘に不浄なものを食べさせたのですか?』です。そんな言い方をされたら罪悪感を感じてしまうじゃないですか!」

「それは私達がお肉や魚を食べないと偏見を向けて来る者が多くいるからです。それに為人ひととなりを知るにはこういう問いかけに対する反応を窺うのも一つですよ」

「やり方がよくないと言ってるんです。お母様!」

「このくらいの意地悪は許されると思うのですが?」

「よくないです! 謝ってください! すぐに!」

「いやです」

 プイッと顔を背けてまるで子供のようなことを言うセラシュヴェールに頭を抱えたい気分になったセリシェールだった。けど、いまはそれよりもと思い直して再び口を開く。


「いいから謝ってください! 私達種族が変な目で見られることになるんですから!」

「貴女がお肉や魚を口にすることを禁じられていたのは真実じゃないですか?」

「でも、言い方があるじゃないですか!」

「言い方と言われても人種ひとしゅの慣習など母にはわかりません」

「それがわかっているということはわかっているのではないですか!」

「知りません。それよりこのお風呂というのは良いものですね」

「もう、また話を逸らして!」

「まずはレオさんの話を聞かせてください。貴女からの便りだと要領を得なかったので」

「むぅ……」

 済ました顔でそんなことを言うセラシュヴェールに話を逸らされたという思いは強まったけど自分の送った便りが要領を得なかったと言われてしまうと話さない訳にはいかないと半ば諦めに似た心境のままこれまでのことを話すことにした。


 セリシェールが話し始めたところで「これはどう使うのですか?」と洗髪料の入った小さな壺を手にセラシュヴェールが娘を振り返る。

(まったく…… この人はいつもいつも話の腰を折って……)

 子供のように無邪気に珍しいものに興味を向ける母親に呆れた視線を向けるが、他の者に言わせればたぶんセリシェールも似たようなものだと言われそうなほどには似たもの母娘であった。

 セリシェールも目新しいものを見ては目を輝かせていたのだから。


 結局、入浴中に話は終わらなくてセリシェールがセラシュヴェールにこれまでのことを話し終えるのに一晩かかってしまった。


 話が終わってもまだ礼央れお達に謝ろうとしない母親にプンプンと怒ったセリシェールが「ちゃんと謝ってくれないともうお母様なんて知らない!」と叫んだことでセラシュヴェールが降参した。

「わかりました。きちんと謝りますから。落ち着きなさい。ね」

「本当ですね。きちんと謝ってください」

 時間が時間だったので『謝罪は翌日に』ということになった。


 

 そんな会話の裏で人間同士でさえ考え方の違いや習慣の違いから揉め事になることがあるのに種族が違ったらもっとその違いが大きくなるということを失念していたと自戒する礼央れおだった。

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三章充電中【改訂版】勇者召喚に巻き込まれて二年が過ぎました。〜幼馴染二人は勇者と聖女で、いい加減養われている事に耐えきれなくなった俺は二人の元を離れます〜 鷺島 馨 @melshea

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