入学 08

 俺達が待機している扉の先から拡声器のような超遺物アーティファクトで拡大された声が漏れてきている。


『今期もこの中央学院セントラルアカデミーは新たな節目を迎えた……』


 あれから数週間、俺達は失われた中央ロストセントラルに潜り続け、着々とダンジョン深度を進めていった。


 ダンジョンにもエリアがあってそれぞれのクラスにより攻略方法が変わっている。ダンジョンは進んで行くごとにエリアが枝分かれしていって、実力のあるクラスが攻略している深度になると数十エリアにまで分かれている。


『このオリジャース大陸の繁栄の為に各国が協力して……』


 俺達のような後ろ盾の無いクラスは基本的には一つのエリアに絞って攻略していくものなのだが、大国になると自国所属の有能な冒険者を支援して複数クラスを使っていくつものエリアを同時に攻略していく。

 既に五つの大地を支配している神聖エルスタリア帝国などは、王族が自力で王の資格を得るのは難しいため、多くの冒険者を支援して領土を増やす戦略を行っている。

 仮に裏切り者が出ても即座にその国を攻め滅ぼして属国にすれば良いという考えらしく、支援している冒険者の数もかなり多いらしい。


『始まりの英雄の祈願である大陸共同統一を果たすべく……』


 もちろんダンジョンへ潜っているだけでは駄目らしい。今はまだ新学期が始まっていないからダンジョン三昧だが、いずれは座学の授業を受けて試験に合格する必要がある。

 それ以外にも技術、文化交流なども評価されるらしく、王族として蛮族のように強くあればいいとはいかないようだ。


 最も俺達に関してはそこは全く問題は無い。


 座学の内容も色々な手を用いて脳内コンピューターアドブレインを利用した予習を開始している。もちろんマリチャパやリリア達のような脳内コンピューターアドブレインが使用出来ない面子には睡眠学習があるので、これも有利な点と言えるだろう。


 技術や文化に関しては圧倒的な様々なアイテムを作成出来る高レベルファクトリー持ちの俺がいるからアドバンテージがあるのは言わずもがなだ。


『そして今日新たな我々の二クラスの同志達を……仲間達を迎える事になる』


 現在、中央学院セントラルアカデミーの集会場前で待機中だ。今日は俺達の入学式であって学院生にとっての始業式となる。

 毎年……新入学生のいない年もあるが……恒例の行事で、新しい面子はここで全学生と初顔合わせとなるようだ。


『それでは入場してもらおう……まずはクラス名:ギャラクシーアーク』


 おっと、呼ばれたな。クラス名は俺達が所属していた連合の名前にした。ギャラクシーアークに帰還できたときに色々便利だからな……可能性がどれ程あるかはわからないが。


 開かれた扉を潜ると集会場に入っていく。外から見てわかっていたがかなり広い建物だ。俺達の進む左右に立っている大勢の生徒達がざわついている。

 生徒達の格好は特に自由なようで格好はバラバラだ。ただ、自国で身分の高い人間は明らかに豪華な衣服を纏っている。そういや以前遭遇したフレッドも良い所の王子様な格好をしていたな。


 そして対する俺達の格好は……


「おい、なんだあの礼服は……なんて洗練された服だ」「しかも全員が同じ服を……いったいどれだけの資金があるんだあのクラスは」「嘘だろう何処の国の支援も受けていないクラスだろう」


 俺達はレイドガーディアンの礼服……というか黒い軍服を着用していた。向こうではなんて事の無い服もこの星では再現の難しい技術が施されている。

 それをクラス全員が着ているのだから驚かれるのも無理は無いだろう。


 そのまま事前に説明のあったスペースに俺達は並び立った。


『続いて、二クラス目……クラス名:ワレワール王国』


 リリアのクラスが呼ばれた途端に先程よりも大きなざわめきが起こる。


「ワレワール? あの国は滅びたはずじゃ……」「王女が生き延びていたという噂は本当だったのか」「ファーガスはどうするつもりだ」「エルフの姫……美しいな」「偽物じゃ無いのか?」「さっきのクラスと同じ礼服だと?」


 そのざわめきの中リリアは堂々と胸を張って歩いてくる。俺達と同じのデザインの礼服を着ている……こちらは深緑色だ。

 これで、俺達が同盟を組んでいる事は周知出来ただろう……遠回しにワレワールに手を出したらギャラクシ-アークが黙っちゃいないとな。


 良くも悪くも俺達の入場に会場の生徒達は驚いた事だろう。


『静粛に……それではまずはギャラクシーアーク代表エイジ、壇上で挨拶をするように』


 言われるがままに壇上に立つと集会場全体が見渡せる。並んでいる学園生からは好奇心、猜疑心など様々な表情が見える。


「今期から学園に入学となったギャラクシーアーク代表のエイジだ。共に王の資格を目指す仲間として、また、好敵手ライバルとしてよろしく頼む」


 俺の無難な挨拶で会場が拍手に包まれる。そのまま脇にある階段を降りて自分の暮らすに戻った。


『続いてワレワール王国代表リリアーヌ・エル・ワレワール』


 続いてリリアが壇上に上がる。そして何かを喋ろうと口を開いたその時……


 壇上の左右の舞台袖から……頭上から飛び降りてくるように……さらには壇上に近いクラスの列の中から生徒を押しのけて現れ……黒装束の者がリリアに迫る!!

 黒装束の者達全てが手には刃物などの武器を持っている。明らかな敵意とともにリリアに襲い掛かかった。


 その刹那会場に複数の大きな音が鳴り響いた。


 音の発生源の一つは俺の両手からだ……両手の 二丁拳銃ケルベロスは適確にリリアの頭上の黒装束……いや、もはや暗殺者で確定だろう……を撃ち抜いた。


 舞台袖の左右の暗殺者はワレワール王国のエルフ達が精霊魔法で拘束。生徒に紛れていた暗殺者は俺達ギャラクシーアークのメンバーが取り押さえている。


 そしてその事態が起きている最中でもリリアは微動だにしていない……まるで、この程度は大した事は無いとでも言うように。


『警備兵!! 急いで来い!! 不法者が紛れ込んでいる!!』


 慌てて進行役の職員が警備の者を呼ぶ中、俺達の元に別の教師がやって来る。


「武器の持ち込みは禁止されている……持ち物検査はしたはずだぞ一体それは!?」


「襲撃がある事はわかっていたからな……規則にも緊急時の武器携帯は認められているのは確認済みだ。襲撃犯に知られぬように学院側には黙っていたがな」


 俺は 二丁拳銃ケルベロスを持つ両手を背中に隠すとDSに収納、手を戻した時には素手となった。


「襲撃がわかっていた!? しかし、一体何処の誰が?」


『決まっておるわ、ファーガス王国以外に妾を暗殺したい国などあるはず無かろう』


 リリアの声が大きく拡声器を通して会場に響いた。


『挨拶の途中でつまらぬアクシデントがあったの。改めて自己紹介をしよう……妾がワレワール王国代表であるリリアーヌ・エル・ワレワールじゃ』


 暗殺者の出所を断定したリリアの言葉に会場がざわめき始める。それに構わず彼女は言葉を続ける……


『ファーガス王を信頼し裏切られた父上に代わり国を取り戻すためにここに来た』


「いい加減な事を言うなワレワールの姫よ!! 我々は襲撃者の事など関知していない!!」


 どこかのクラスから叫び声が上がる。あの場所はファーガスのクラスのようだ。先頭に立っているフレッドは難しい顔で黙り込んでいるが、この前会った時にいた取り巻きのゴツイ男がリリアの言葉を否定している。


『ならば一体何処の誰が妾を殺して得をするというのじゃ? 説明するが良い』


「そ、それは……だが、俺達は知らないし、ワレワールの姫に殺意など無い」


 リリアの返しに言葉を詰まらせながらも反論する男。


『そうか、ならば言い換えよう、其方達の知らないファーガスの暗殺者じゃ。証拠も見せておこう……エイジ、頼むぞ』


「了解だ」


 俺は暗殺者の一人の装束を剥ぎ取ると素顔が露わになる。そして、ネジコに命令すると壇上の情報に立体映像が映し出される。それを見た生徒達が「何だあれは!? 絵を見せる超遺物 アーティファクト!?」「しかし、向こうが透けている……どういう技術だ」「暗殺者と同じ顔が写っている……あの場所は」


『妾たちは襲撃がある事を予想して、とある3カ所の人の流れを全て確認しておった。その場所は、ワレワール側、ファーガス側の中央セントラルの門と、ワレワールとファーガスを繋ぐ精霊橋エレメンタルアーチの検問所じゃ……この絵は精霊橋エレメンタルアーチの検問所を通る所じゃな』


 会場はまだざわついている。


「あんな詳細な絵が記録出来るとは」「学園にいたのにどうやって」「まさか、学園外にも協力者が……」


 良い感じに誤解でもしてくれれば軽率な行動を取る者も減るだろう。


『この者は精霊橋エレメンタルアーチ、そしてワレワール側の門を通って中央セントラルへやって来おった。その後は第九区画中央の宿屋で今日まで過ごしておる。使っておる偽名も把握済みじゃ』


 仲間達が次々と捉えた暗殺者の顔を晒すと、それに合わせて壇上の情報に検問や門を通る様子が映し出される。


『まぁ、確かにファーガスの者の言うとおり、この者達がファーガス王国が放った刺客という証拠は無いが、果たしてこれだけの人数の者達が全てファーガスとワレワール方面からバラバラにやって来て、今日という日に息を合わせて妾を暗殺しに来るもんかの?』


 この言い分ではたとえ証拠が無かろうとファーガス王国の関与を否定する者はいないだろう。


『まぁよい、こんな有象無象がどれだけ来ようと無意味じゃ。もうよいぞ、そやつらを解放してやれ』


「「「「なっ!?」」」」


 リリアの物言いに職員達が慌てる。まぁ、それはそうだろう。


『別にそやつらが生きていようが死んでいようが妾の人生に何の影響も無いわ。好きにするが良い……おおっと、じゃが安易にファーガスに戻らぬ方が良いぞ。妾の目は遠くまで見渡せるが故にな……ふっふっふっ』


 拘束を緩められると暗殺者達は一斉に建物から逃げ出した。武装解除はしてあったから再度リリアを襲おうと考える者はいなかったようだ。


『やれやれ、ただの挨拶の予定が妙な余興が入ってしまったの。それでは簡単に挨拶しておこうかの……』


 リリアの演説が再開するとざわめいていた会場が静まった。


『改めて妾がリリアーヌ・エル・ワレワールじゃ……王たる資格を得て、国を興した暁には……妾は……』


 会場に緊張感が漂っている。皆がリリアの言葉を待っている……そして彼女が再び口を開くと……




『妾はファーガスに宣戦布告するのじゃ!!』




 この日、国を滅ぼされた亡国の王女は一人の少女である立場でありながら強大な王国へ宣戦布告をしたのだった。




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ここで3章は終了です……しばらくストック充電に入ります。予定では10万文字ほど1章分を書き溜めたら4章『中央学院編』を開始するつもりです。

そろそろ仕事も忙しくなってくるので時間は掛かるかも知れませんが、どうかお待ち頂ければと思います。


あと、ワレワールは一応まだ滅びてはいないんですが、実際は滅びたも同然の状態なので主人公の主観で滅びた的な言い回しをしています。あまり深く考えないで「ふーん、そうなんだ」と流して下さい。


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俺はファンタジー世界を自重しない科学力(ちから)で生きてゆく……万の軍勢? 竜? 神獣? そんなもん人型機動兵器で殲滅だ~『星を統べるエクスティターン - rule the Stars EXT -』 ヒロセカズマ @E-N

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