入学 07

 ファーガスの王子フレッドとの遭遇後、俺達は学生寮へやって来た。寮自体はかなり大きな建物で、1フロアにちょうど俺達2クラス分の人数が住める部屋数が用意されていた。


 ベッドの数が一部屋6つある……ちゃんとクラスで別れるよう部屋割りを決めろという事だったな。


「もちろんボクはエイジと一緒の部屋だからね」


「マリチャパも!!」


「なんじゃと、妾も一緒が良いのじゃ」


「駄目だって、話聞いてなかったのか。リリアはクラスが違うからちゃんとワレワール組で部屋割りを決めないと駄目だからな」


「なん……じゃと」


「残念だけどクラスが違うんじゃ仕方がないね~」


「ぐぬぬぬ……」


 わいわいと楽しそうに話しているが、部屋割りはリリアの部屋も含めてちゃんと決めないといけない。


「リリア自身が言っていたように刺客が送られてくる可能性が高い。俺とリリアの部屋は隣り合うようにするぞ。侵入者にはたっぷりと後悔させてやる」


「お、おうなのじゃ」


 俺の意気込みを見て若干引き気味に同意するリリア……お前のためなんだからな。それから俺は寮の配置図とにらめっこしながらネジコのアドバイスをもらいつつ部屋割りを決めていった。


「何という事じゃ、ウキウキ気分で部屋割りを決めるのかと思ったら、敵の侵入経路から何処に罠を張るかとか妾の考えていた内容とほど遠かったのじゃ」


「もう既に戦いは始まっていたというわけだね」


「その通りだ、それこそ今日の夜にも刺客が送られてくる可能性がある……だから俺達以外を検知するセンサーやトラップをしかけるぞ」


「わかったぞ、罠を仕掛けて獲物を捕るのは基本」


「オラも攻めてくる奴らに容赦しないぞ」


「あちしも~」



□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 こうして俺達のいるフロアは寮と言うよりは要塞のほうが適切と言えるほどの防御力を手に入れた。


「今更だけど勝手にトラップとか設置しても良いの?」


「実際過去にライバルを暗殺した者もいたようじゃから問題ないの。むしろ自衛出来ぬ奴が王になるなどと片腹痛いわ」


「……と言う事だ」


「うわ~学園とは名ばかりの魔の巣窟だね」


 とは言え人畜無害な人間がトラップに掛かっても困るので、通路には警告の看板だけは立てておいた。さすがに警告を無視して入ってきた場合は責任は取れない。


 なんて思っていた矢先に……

 

「はわわーーーーっ!! なんですかこれぇーーーーっっ!?」


「さっそく侵入者? なのかな?」


「とりあえず行ってみるか」



 俺達は声のした方へ向かうと、そこには片足をロープに吊り下げられているエルフ女性がいた。エルフと言っても着ている服がスーツ……教師なのだろうか? スカートが短いせいでかなりきわどい格好になっている。


「イナーシャ? あなたはイナーシャではありませんか?」


 エイシャが驚きの声を上げる……どうやら知り合いのようだ。


「エイシャですかぁ? すみません、看板を見ようとしたら転んでしまって、気付いたらこんな事になってしまいましたぁ」


 警告メッセージが書かれている看板の向こうの床にハイヒールが転がっている。どうやら転んだようだが、特に足を取られるようなものは無いのだが……天然キャラか?


 イナーシャと呼ばれるエルフが仲間の手で下に降ろされると、衣服を整えてビシッと直立した……片方は裸足だが。


「私があなた達二つのクラス担任になるイナーシャと申します。ワレワール出身ですが、同胞といえども平等に接するのでそのつもりでよろしくお願いします」


 先程のポンコツぶりが嘘のようにキリッと自己紹介を始める。


「了解だ、俺はエイジ……ワレワール組ではない方の代表と言えばいいのか」


「教師の一人の立場でこう言ってはいけないのですが、我が国の姫様を救って頂いてありがとうございました」


 俺は差し出されたイナーシャの手を握った。とりあえずトラップはこの人に反応しないよう設定しておかねばな。


「それで担任と言うからにはこの学園の事について教えてくれんだな?」


「はい、これから入学までの流れを説明します。質問があれば最後にお願いします」


 とりあえず入学まではこの学園で自由に行動して良いらしい。準備が整っている学生は入学前から失われた中央ロストセントラルへ向かうんだとか。


 学園が始まれば座学や実技の授業も行われ、定期的に能力を測る試験もあるという事だ。ここら辺は俺達の知っている一般的な学校と同じようだ。


「座学も実技も試験結果が半分以下だと退学となります」


「えぇ~厳しくない? 赤点は30点くらいじゃないの?」


「あか? 三割程度の実力しか無い程度の王が治める国など恐ろしくて住みたくありませんよね?」


「確かにのう」


「座学はどうとでもなるだろう。実技がどういう内容かによるよな」


「残念ながら今教える事は出来ません」


「父上も学園での学びごとは教えてくれなんだ」


 意外としっかりと情報統制しているんだな。いや、まて真面目にやっている国もあればこっそり教えている所もありそうなもんだよな。


「実は学園に設定されている超遺物 アーティファクトで学ぶ内容が認識出来なくなるんです。だから情報が漏れた事は無いんですよ」


「記憶操作とか恐っ!!」


 その後もイナーシャから入学式までにやるべき事、やれる事などを確認した。話を聞いた結果、俺達がやるべき事は……


「まぁ、やっぱり失われた中央ロストセントラル一択だろう」


「エイジならそう言うと思ったよ」


「ちなみに俺達はこの前の続きから探索出来るのか?」


「いえ、あの場所はファーガスの王子が探索している最深部ですので、あくまで新入生は一からの探索となります」


「そううまい話は無いか……あの場所がどれくらいでたどり着けるかによるが、しばらくの間はぬるい探索になりそうだな」


「確かに最深部のボスを倒していますが油断はしないで下さい。失われた中央ロストセントラルには恐ろしいトラップがあって毎年死亡者だって出ているんですから」


「まことか!? 何とも恐ろしいのじゃ」


「マリチャパも罠をかけるのは得意だけど罠を外すのは苦手だぞ」


「あちしも~」


 多分、ドローンのサーチを使った探索で問題ないと思うが、わざわざここで言う必要は無いな。


「もちろん油断はしない……とは言え俺達のダンジョン探索の練度はここの第一線の奴らに劣るとは全く思えない。さっさとぶち抜いて全制覇してやろう」


「相変わらず凄い自信じゃのう。じゃが頼もしいぞ、さすが妾のエイジじゃ」


「リリアのじゃ無いから!! どさくさ紛れに既成事実を作ろうとしないようにっ!」


「え? まさか姫様、エイジさんと!? 不純異性交遊は禁止です!!」


 おい、何も知らない教師に誤解を与えてしまったぞ!? 後々面倒だから説明しておかないと……


「ちがうぞ、リリアとは何も無い。あくまで頼りにされているだけだ」


「そうだよ、エイジは僕の恋人なんだから!」


 すかさずフレーナが腕に抱きついてくる……相変わらずけしからん柔らかさがマイアームを包み込んでくる。


「妾だけ除け者にするなど許さんのじゃ」


 そしていつものようにリリアが反対の腕に組み付いてくる……フレーナほどでは無いが、なかなかのけしからなさだ。


「マリチャパもあるじが好きだぞ!!」


 そう言って俺の背中に飛び乗ってくる。後ろから回された手がぎゅっとしまると、必然的に背中にあらたなけしからん感触が伝わってくる。


「エイジさん……これは生活指導が必要なようですね」


 しまった、けしからん感触に心を奪われて目の前の危機への対応を怠ってしまった。


「違うぞ、これは死線を乗り越えた仲間なりのスキンシップであり、邪な心根などそこには存在しない崇高な行為だ」


「今日の湯浴みは妾と一緒じゃぞ」


「お前はわざとか? わざとなんだろう!?」


 良い笑顔のリリア。くそ、ちょっと可愛いと思ってしまった。


「駄目だよ!! 今度はボクがエイジに洗ってもらうんだから!!」


「お前もわざとやってるよな!?」


 相変わらず凶器を俺の腕に押しつけてくるので心拍数を保つのが大変だ。


「マリチャパはあるじを洗ってあげたい。マリチャパは尽くす女だと村で噂」


 くっ、首筋をクンカクンカ匂いを嗅ぐのはやめろ。


「相変わらずエイジ殿は不純、不潔、ふしだら極まりないですね」


「不当な印象操作だ!!」


「エイジさん……見損ないました、そんな人だったとは……」


 だんだん収集付かなくなってきていつものパターンになりそうだ……そうはいくか、ネジコやれ!


『ダーリン、それは問題の先送りだニョ……でも愛しのダーリンの言う事に逆らえないチョロいんなネジコだニョ』


 その途端にトラップの一つが発動してパンと音を立てる。全員の気がそちらに集中すると、俺は素早く両腕を抜き、マリチャパの腕を外すとダッシュで逃げ出した。


「あ、あるじ逃げた!!」


「おのれエイジ、まだ湯浴みの返事を聞いていないぞ!!」


「逃げるなんて駄目だよ!! 今日こそボクとだよ!!」


「エイジ殿、逃げるとは卑怯です!!」


「エイジさん、これからの学園生活についてお話があります~!!」


「こんな所にいられるか、俺は逃げるぜ!!」




 ……色々やる事はあるのだが、とりあえず目先の安全を確保だ。




______________________________________


面白かったら★評価、フォロー、応援、レビューなどなどお願いします……物語を紡ぐ原動力となります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る