入学 06
「帰還しましたか、大丈夫です……か?」
「怪我人はあとから俺達を暗殺しに来たこいつらだけだ。俺達は傷ひとつ負っていない」
「暗殺!?」
「違う、こいつらが助けに来た貴族である私を不意打ちで襲ってきたのだ! 早く此奴らを拘束しろ!!」
ゲート前で待機していた人達は一瞬どちらの言葉を信じればいいのか混乱したが、貴族という言葉を聞いて厳しい視線をこちらに向けてくる。
「本当にそんな強引で穴だらけの言い分で押し通せるとお前は考えているのか? おめでたい楽天家だな」
「言っている意味がわからん、救援に来た私達をこのような目にあわせてただで済むと思うな」
調子を取り戻したのか薄笑いを浮かべた表情をこちらに向けてくる。思っている事が顔に出すぎだぜ。
「浅はかなおっさんだな。身分を笠に着せ強引に自分を正当化出来ると思っていたのかもしれないが、何で俺がお前を殺さずにここに連れてきたかよく考えるべきだったな」
「何だと、ふん、負け惜しみを……」
「わかったぞ、いつものアレじゃな?」
リリアは気付いたようだ。まぁ、一緒にいる仲間にはすぐにわかるだろう。それじゃ、いつもの行ってみようか?
『貴様ら、何故ここにいる……ルームガーダーはどうした?』
「!?」
どこからともなく聞こえた自分の声に驚くゲイオン。その仲間も辺りをキョロキョロ見回す。
……
『ふざけるな!! ここは我らファーガスの……学院アカデミートップクラスだけが挑める深層エリアだぞ!!』
……
『ここは元々ファーガスの探索している深層エリアだ、その報酬を受ける権利があるのは我々ファーガスにあるのだ!! もう一度言うぞ、答えろ……命が惜しければ』
……
『何を言おうとお前達はここから帰らぬ人間だ……死んで後悔しろ』
例の如く先程の会話を周りに大音量で流すとゲイオンの顔が真っ青になる。
「いつもやり過ぎると思っていたが」「これは酷いな」「いつもの職権乱用だ」
その証拠音声を聞いて周りにいた人間もざわついている。
「ち、違う!! こいつの罠だ!! こいつが私を陥れようとしたのだ!!」
『ち、違う!! こいつの罠だ!! こいつが私を陥れようとしたのだ!!』
「んなっ!?」
ゲイオンの発した言葉をすぐに再生する。顎が外れるんじゃないかと思うほど大きく口を開けて驚いているようだ。
「お前みたいな三下の悪党は相手を追い詰めると、大概自分の悪事をペラペラペラペラ喋ってくれるから証拠に困らなくて楽だぜ」
「ぐぬぬぬっ」
「そう言う事でこのゲイオンというおっさんは自国のファーガスに不利益になりそうなワレワールのお姫様を暗殺するために、入学試験の転送先を難易度の高い場所へ転送させた。
そして救助という名目で証拠隠滅でも謀ろうとしたが俺達は問題なくボスを討伐。
その実力も考えずに成果を奪って暗殺しようとして返り討ちに遭ってここで呻いていいるわけだぜ」
「ち、ちがう!!」
「おじさ~ん、さすがにこの状況で誰も信じないよ」
「本当に愚かな男じゃの……こんな男のいる国に騙されたのかと思うと情けないわ」
「姫様、さすがにこのような愚か者ばかりでは無いでしょう……とはいえ、愚か者ばかりの方が私達にとっては嬉しいのですがね」
「マリチャパはお腹がすいてきたぞ」
「オラは肉が食いたいぞ」
「あちしも~」
仲間達の過剰な追い打ちにおっさんフルボッコだ。
「ゲイオンさん、我々
受付嬢の残念そうな発言の後、ゲイオンのおっさん達は衛兵に連れられていった。
余計な時間を食ってしまったのでさっさと休みたい。さっさと手続きを済ませよう。
「それで行き先は予定と違っていたらしいが、ちゃんとボスを倒したから入学試験は合格になるのか?」
「異例ではありますが問題ないでしょう。あなた方の力は十分以上に証明されました」
「それは良かった、それで早速だけど手に入った
「それは可能ですが良いのですか?
「全く問題ない。だいたい簡単に倒せる
「
俺の言葉に周りがざわついた。どうやら
「あ、成果は俺とリリアのクラスで二分は出来るのか?」
「問題ありません。それでは
「そいつは良かった」
「エイジ!! 妾は嬉しいのじゃ!!」
リリアが感激しながら抱きついてきた。戦闘をこなしたとは思えないようなボディソープの良い香りが鼻をくすぐる。
「あーーーっ!! またどさくさに紛れて~!!」
「次、マリチャパもやるべし!!」
「姫様、人前ではしたないです!!」
いつのまにかいつものノリになってしまった。受付嬢が呆然と俺達の様子を見ている。
「とにかく、試験合格おめでとうございます。本日はお疲れでしょう、本日はゆっくりお休み下さい。それでは寮へ案内します」
そのあと、俺達は
そういうわけで、受付嬢に先導されて寮へ向かっていると……
「リリア!!」
男の叫び声が聞こえると声の先に5人ほどの集団がいた。声を上げたであろう先頭の男がこちらを確認すると駆け出してくる。
「リリア、無事だったんだな!!」
リリアへ向かって来る男を遮るように何人かのエルフが武器を抜いて立ちはだかった。それを見て男の連れも武器を抜いて男の前に躍り出る。
「何の用じゃ裏切り者の子供が」
「リリア誤解だ。俺は裏切ってなどいない」
「それ以上近づかないで頂きたいファーガスの王子」
エイシャがいつもに増して鋭い視線で相手の男を制する。ファーガスの王子だと?
「なんじゃフレッド、裏切り者の父に妾を捕らえてこいとでも言われてきたか?」
「確かに父上がワレワールを攻めたのは事実だ、だが俺は何も聞いていなかった。だから父上より先にリリアを見つけて匿おうとしたんだ」
ファーガスの王子……フレッドが言うには、ワレワール攻めについては何も聞かされていなかった。その事実を知りリリアがまだ無事だと知った途端に全大陸に捜索願を出したらしい。
どうやら遠隔通信の
「それを素直に信じろと言うのか? どちらにせよ妾の引き渡しをお前の父が要求してくるじゃろ、それを断れるとも思えん」
「何とかする、俺がお前を守る。だから俺の元に来い!!」
「結構じゃ、妾は自分の力でワレワールを取り戻す。父上の
「リリア……」
「人の愛称を馴れ馴れしく呼ぶ出ない、其方とは敵国同士の赤の他人じゃ」
片や滅ぼされた国の姫、片や滅ぼした国の王子。仕方がないとは言えリリアの拒絶は苛烈だ。しかし、ここで問答していてもな……エルフ組以外は何も出来ずに呆然としている。
「あー、募る話もあるのかも知れないが、俺達は入学試験を終えたばかりだ、日を改めて会話の場を設けたらどうだ?」
「何だお前は……俺はいまリリアと大事な話をしている」
「妾に其方と話す事など何も無いわ。それにこのエイジは妾の命の恩人じゃ、其方の話よりもこの男の方が大事じゃ」
「……そうか、リリアを助けてくれたのだな。感謝する……だが、これは俺とリリアとの問題だ、口出ししないでもらおう」
リリアに対する気遣いは伝わっては来るが、基本的に「俺は王族だ、どけよ」ってタイプの人間なのか。こいつの国は出来たばかりなのに王族としての態度はずいぶんご立派な事だな。
「関係はある、俺とリリアは協力関係にある。そしてこれから始まる
「ここまでリリアに協力してくれたのは感謝するが今後は必要ない、後は俺が守るからお前は自由にしろ」
「わからない奴だな、お前にリリアを守る事は無理だ……端的に言えば
「……そうか、俺は愚弄されるのは嫌いだ。リリアの恩人だからと言って尊大な態度が許されると思うな」
「出来たばかりの国の王子様が態度ばかりはご立派だな。既にリリアはこの学園で暗殺されかけた……お前達ファーガスの手によってな。
それでどの口で彼女を守ると言っているんだ? 口先だけ達者な奴をどう信用しろと言うんだ」
「なっ、本当なのか!?」
「本当じゃ、其方の国のゲイオンという男が
「
演技かわからないがゲイオンの件は知らないような素振りを見せている。どちらにせよリリアを渡す理由など一欠片も見当たらない。
「リリア、今日の所は引き下がる、だが俺はお前を守る……たとえ今は信じて貰えずとも信頼を取り戻してみせる」
「ふん、白々しい口上など立てずに好きなだけ暗殺者を刺し向けてくれば良かろう……全て返り討ちにしてくれるわ」
熱血風なフレッドに対して絶対零度のリリア。フレッドは決意を固めた表情のまま立ち去っていった。
……やれやれ、何やら面倒な事になりそうだな。
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