第20話

電車の中吊り広告にある、芸能人のスキャンダルの見出しに目を向ける。特撮出身の若手俳優が、恋愛禁止で有名なアイドルグループのメンバーと交際、裏アカ流出で炎上と盛り立てている。やはり、プライベート用のアカウントというと、リアリティがあるなと達観する。

グレーな投稿ばかりだと、だんだんオブザーバーが信憑性はないと判断し、離れていく。だから、時々ギリギリのラインで投稿をする必要がある。

早瀬純の一件で、私のビジネスは業界の中では認知されつつある。今までは相手側は素人をヘッドハンティングのような形で選ばざるを得なかったが、今では顧客同士のニーズに合わせ、組み合わせることが出来るようになった。


小さなマンションの前に、読者モデルとそのマネージャーが私を待っていた。予定よりもだいぶ早かったから、百貨店で買った化粧品の紙袋を下げての対面となる。個性はないが華やかな読者モデルに、ただの一般人で地味な女のくせに高価な化粧品を使っているなんて必死だな、と蔑まれている気がする。そんな気持ちを抱きながら、丁寧に挨拶をし、セキュリティを解除して二人を通す。

話を聞いてみると、弱小事務所に所属しているモデルのいつものパターンである。炎上商法での売名行為。


小さい頃は嘘はいけないという意識が強いが、大人になるにつれて、嘘が必要な場面があることを知る。表現の自由は法律で規定されている。だから、嘘をついても違法行為にはならない。嘘で何か掴み取ることができるなら、嘘を一概に禁止するというのはおかしな話だ。

どんなに虚構であっても、一度目に入ったらそれは真実だ。理科の時間に作図した凸レンズの虚像はなぜかいつも点線で書かれていたけど、現実では虚像が実像のように実線になりうる。凸レンズを覗いた者にこれが実像だと思わせれば良い。

そもそも実像なんて誰も気にしていない場合もある。万華鏡の美しい模様は虚像で構成されている。ビーズやガラス等のオブジェクトの位置が少し変わっただけで、華の表情が変わっていく。実際のオブジェクトの動きなんて、目で追う必要はない。万華鏡は覗くことに意味があるのだから。

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カレイドスコープ 陣ちとせ @jin_chitose

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