第19話

小さな頃から、私は見栄っ張りで嘘をつくのが上手かった。

嘘で何かを得たのは、小学二年生の時だ。当時、靴隠しが流行っていた。犯人は子どもたちの間で諸説あったが、結局分からず仕舞いだった。もしかしたら親の中では周知されていたのかもしれない。

子どもの成長は早い。年々足が大きくなっていくため、成長に合わせて靴も替えなければならない。気に入っていた靴が履けなくなり、仕方なく新しい靴を買いに行った。しかし、惹かれるものはない。物欲があまりなかった私は、騒ぐことなく、親が選んだものを受け入れた。

しかし、時期が悪かった。靴を買い換えて一週間経った頃から、運動会の練習が始まった。一ヶ月前に控えた運動会のために、仲良しグループでお揃いの靴にしようと言い始めたのである。皆はちょうど買い替え時とあって、賛成、と声を揃えた。私は、替えたばかりだったが、仲間外れは嫌で、賛成と皆の声に合わせた。

しばらくすると、友達の足元は、ピンクのラメで縁取られた、いかにも女児が好きそうな可愛らしいスニーカーに変わっていった。しかし私だけ、白のスニーカーのまま。それも、新しいとはいえども、運動会の練習でグラウンドの土が染みつきつつあり、男の子か女の子かといえば、どちらかというと前者の印象が強いもの。買ったばかりの靴だし、洗えばまた白に戻る。親に新しい靴をねだるのは難しかった。

そこで、私は自分で自分の靴を隠すという行為に及ぶ。学校の裏庭にある、使われていない花壇で土を掘る。靴がすっぽり隠れそうな深さまで掘って、靴を穴に落とし、埋めた。買ってもらってから一ヶ月もたっていない靴を埋めているのだと思うと、親に申し訳なかった。だけどそれでも、仲間外れにされたくないという思いが勝った。

初めて上履きで帰り道を歩く。ちょうど良いのか悪いのか、雨が降ってきたことで、土まみれだった上履きがだんだん白に戻って行く。一刻も早くその場から逃げだしたくて、昇降口にある傘を取らず一歩一歩、とぼとぼと歩いた。マンションの自動ドアの前で、いつも明るく迎えてくれる管理人さんの笑顔を見たとき、取り返しのつかないことをしてしまったという思いと、人の温かみに触れたことの安心感からか、涙が溢れて座り込んでしまった。母が私をエントランスまで迎えに来てすぐに足元に目がいったのは、管理人さんから泣いている理由を聞いたからだろう。

母は、私に何も罪がないことを何度も繰り返し伝え、私の頭をポンポンと撫でた。その所作は私の悲しみをより増幅させた。私は母が思っているのとは違うことでわんわんと涙を流していた。ラムネの瓶のように、喉にビー玉が入ったようで苦しかった。

私は喉のビー玉と引き換えに、可愛らしい靴を手に入れた。いつかこのビー玉に殺されるのではないかと、しばらく生きた心地がしなかった。

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