B-G-X/想いが呼ぶ、奇跡の風

「舐めるなっ! 勝つのはこの私、コンダクター・アビスだっっ!!」


 迫るユーゴに向けて叫ぶアビスの中では、勝利のプランが出来上がっていた。


 あと少し、手元にある砲弾に魔力を注げばユーゴごとこの島を破壊するのに十分な破壊力を持つ武器が完成する。

 そのために必要な時間を稼ぐため、アビスは念動力を使って破壊された城の瓦礫を集めると、それをユーゴの進む道に並べて盾としてみせた。


(勝ったっ! ユーゴ・クレイはあの瓦礫を破壊するだろうが、時間は稼げる! そして、突撃の威力も弱まるはずだ)


 文字通りの時間稼ぎ。ユーゴの脚を止め、こちらに有利な展開を作り出さんとするアビスの作戦は、シンプルながら効果的なものだった。

 ……がいることを忘れてさえいなければ。


「なっっ!?」


 彼の目の前で作り出したはずの瓦礫の盾が綺麗に一刀両断され、ユーゴが通る道が作り上げられる。

 折角作った壁が叩き斬られたことに驚愕したアビスは、今の斬撃が飛んできた方向へと視線を向け、そこに立つ人物の姿を見て怒りを滲ませた。


「まさかと思うが……僕がいることを忘れてたわけじゃあるまいな?」


「リュウガ・レンジョウ……っ!! 貴様ぁぁっ!」


 援護のため、崩れる城の最上階から斬撃を飛ばしたリュウガが不敵な笑みを浮かべながらアビスを挑発する。

 相手からの怒りの視線を受け流した後、アビスに向かって飛ぶ相棒の姿を見つめたリュウガは、彼に向けて小さく声援を送った。


「お膳立てはした。あとは任せたよ……相棒!!」


「ぐっ! うおおおおおおおおおおっ!!」


 もう、アビスには時間がなかった。魔力を注ぎ込むために作り出した盾が破壊され、ユーゴの足止めが叶わなくなった時点で彼にできることはほぼなくなっていた。

 この状況で彼ができることは、手元にある魔力の砲弾をユーゴに向けて撃ち出すのみ……それを理解しているアビスは、怒りとプライドを込めながら吠える。


「負けない! 負けるはずがない! この私がっ! 数々の世界を劇的な方法で滅ぼし、オーディエンスを唸らせ続けてきたコンダクター・アビスが! こんなところで敗北するはずがないっ! 踏んできた修羅場の数が違う! これで……終わりだぁぁっっ!!」


「!!」


 怒りを、誇りを、勝利への執念を……全て込めた巨大な魔力弾が撃ち出される。

 緑色に輝くそれはウインドアイランドを破壊すべくゆっくりと落下していき……その進路上を飛び、破滅を防ぐべく真っ向から勝負を挑むユーゴは、残された魔力全てを解放しながら吠える。


「勝負だっ!! アビスっ!!」


 白銀が黄金に染まり、迸る魔力もまた美しい金色へと変わっていく。

 マルコスから届けられた仲間たちの想いを背に飛ぶ彼の黄金の輝きは、戦いを固唾を飲んで見守る島中の人々も目にしていた。


「やっちゃえ! ユーゴ!!」


「行け、ユーゴ……行けぇぇっ!!」


「信じてるから、ユーゴ。あなたなら、絶対……!!」


「拙者たちの命、託したでござるよ! ユーゴ殿っっ!!」


「ユーゴさん……お願いします……!!」


 ユーゴとアビスの最後のぶつかり合いをその真下で見守るメルトたちは、祈ると共にユーゴへと信頼を込めた眼差しを向けていた。

 禍々しい緑の巨大な魔力に立ち向かう黄金の戦士が勝つことを信じているのは、彼女たちだけではない。

 他の場所でも、ユーゴに向けて声援を飛ばす者たちは数多くいた。


「師匠! 信じています!! あなたは負けない! だってあなたは……私たちのヒーローだから!」


「勝てっ! ユーゴ!! 勝てぇぇっ!!」


「クレイ……! 行ってこい!! お前を信じているぞっ!!」


「勝って! ユーゴさんっ!!」


 ミザリーが、ジンバが、ウノが、ネリエスが……ルミナス学園の仲間たちが、ユーゴに向けて声援を送る。

 西地区で見守る人々もまた、彼らに負けない熱と想いを彼へと送っていた。


「ユーゴっ! 私たち全員、あなたを信じてるよーーっ!!」


「カニッ! カニッ! カニィィィッ!!」


「頼んだぞ、ユーゴくん……!」


「……これだけの人たちがお前を応援してるんだ。負けるわけないよな? ヒーロー!」


 エレナやポルル、シェパードや島の人々が声が枯れるまで声援を送る様を目にしたゴメスが、微笑みを浮かべながら呟く。

 そして……船の上では、避難民たちと共にフィーとユイもまたユーゴへと声援を送っていた。


「負けないで、ユーゴさん……! 負けないで……!!」


「頑張れ、頑張れ、頑張れ……っ!!」


 両手を合わせ、祈り続けるユイ。その隣で柵から身を乗り出さんばかりに兄を見つめていたフィーが、ぐっと拳を握り締める。

 この声が届くかどうかなんてどうでもよかった。ただ、自分たちを守るために戦う兄へと、ありったけの想いを届けたいと思った。


 その思いのままに……フィーは兄に届けとばかりに大声で叫ぶ。


「頑張れっ! 兄さ~~んっ!!」


「……聞こえてるよ。みんなの想いは、ちゃんと俺に届いてる」


 沢山の人々の、仲間たちからの声が、想いが、ユーゴの背中を押す。

 その声に応えるように風の島が起こした風が上昇気流となり、ユーゴをさらに勢い付ける。


 音速の壁さえ越え、天へと駆ける黄金の流星と化したユーゴは、全ての魔力を両脚に集中させながら叫んだ。


「みんな……行くぜっっ!!」


「なっ、なんだとっ!?」


 ここにきてさらに加速したユーゴの姿を見たアビスが驚きの叫びを上げる。

 しかし、この島を一撃で破壊する破壊力を持つ砲弾が負けるわけがないと、そう自分自身に言い聞かせる彼の前で、全ての想いを背負ったユーゴは最後の技を繰り出した。


「ブラスタ――!!」


 ドロップキックを繰り出すように揃えられた両足に、魔力が宿る。

 それがXの文字を描き始め、鋭い刃へと変わっていく中、ついにユーゴと魔力弾がぶつかり合う。


「ゴールデン――!」


「なっ――!?」


 ――激突は、呆気なく終わった。

 僅かにユーゴを押し込んだ魔力弾であったが、直後にその全体にX状の切れ目が走ったかと思った次の瞬間、四つに分かれて吹き飛んでしまう。

 そのまま空中で雲散霧消する自分の切り札と、その中心から自分目掛けて飛んでくる黄金の戦士の姿を目にしたアビスが後退る中……ユーゴは、ありったけの思いを込めて叫んだ。


「エクストリィィムッッ!!」


「ぐっ! ぐおああああああああああああっ!?」


 X状の魔力を纏った飛び蹴りが、アビスへと叩き込まれる。

 ユーゴに蹴られたまま彼と共に宙を舞ったアビスは、痛みと衝撃に目を見開きながら呻いた。


「え、エクストリームの綴りは、【Extreme】、だろうが……! な、なぜ、【X】のクリアプレートで、これほどの力が……!?」


「いいんだよ、これで! お前のちっぽけな物差しで測れるもんじゃねえんだ、ヒーローってのはよ!」


「負ける、のか……? この私が、コンダクター・アビスが、こんな形で、劇的な死を……? は、ははは……! 久しぶりですね、死ぬのは……! は、はははっ! はははははは――ぐああああああああああああああっ!!」


 誰もが、この島で起きた全ての事件の絵図を描いていたコンダクターである自分さえも予想できなかった、劇的な結末。

 久方ぶりに感じる死の感覚と、ここまで予想外の展開を作り出した舞台と自分自身の幕切れにある意味での満足感を抱いたアビスは高笑いを上げ……やがて、大爆発を起こした。


 ユーゴの勝利を見届けた人々が歓喜に沸く中、落下していくマルコスを掴まえつつ降下していったユーゴは、地面に着地すると共に変身を解除する。


「……終わったんだな、全て」


「ああ、終わった……俺たちが勝ったんだ」


 そう、改めて自分たちが勝利したことを噛み締める二人が、どちらともなく手を挙げる。

 強く、強く……お互いの右手をぶつけ合い、健闘を称え合った二人は、駆け付けてきた仲間たちと合流し、もみくちゃにされながら……全員で激闘に勝利したことを喜ぶのであった。


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