We're One!

 仲間たちに自分を攻撃させて飛ぶという強引な手段を用いてまでこちらへと迫ろうとしているマルコスを嘲笑ったアビスが、彼に向けて人差し指を向ける。

 そこから何発もの光線を放ち、雨のようにマルコスへと浴びせながら、アビスは高らかに笑った。


「お前たちごときが【フィナーレ】を破壊したことは褒めてあげましょう。しかし、それで思い上がってもらっては困ります。あなたは文字通り、私の足元にも及ばない存在なのですからねぇ!」


「ぐっ、ぐうっ!!」


 自分へと雨あられと降り注ぐ光線をギガシザースで防ぐマルコスであったが、アビスの攻撃を受ける度に上昇の勢いは確実に弱まっている。

 敢えて一撃でトドメを刺さず、痛めつけることで徐々に弱まっていく勢いをマルコス自身に自覚させているアビスは、鼻を鳴らしてから彼へと言った。


「勘違いするな。この状況であなたにできることなど何もない。あなたごときが私に敵うはずもないし、そもそも私はあなたの手が届くような存在ではないんですよ」


「ぐっっ! ぐああああっ!!」


「そんなっ!? マルコーースッ!!」


 上空へと飛び立つ城と、そこに向かって飛んでいく黄金の盾を遠くから見ていたエレナが、ついに上昇の勢いを完全に殺され、逆に落下していくマルコスの姿を目にして悲鳴を上げる。

 ゆっくり、ゆっくりと落ちていく彼のことを見つめていたアビスは……マルコスもまたこちらを見ていることに気付き、目を細めた。


「アビス……お前の言う通りだ。今の私ではお前には勝てないどころか、この手を届かせることもできない。だが――


「……!!」


 落ちていくマルコスの顔には、絶望や悔しさといった感情が浮かんでいなかった。

 むしろ、堂々とした態度を見せながら不敵な笑みを浮かべている彼は、こうなることを予想していたようにしか見えない。


「ありがとう、アビス。お前が私を攻撃してくれたおかげでに来ることができた。本当に感謝しているよ」


「っっ!?」


 ――マルコスの声に紛れて、何か音が聞こえたような気がした。

 力強く、何者かが地を蹴るような音。しかし、空中でそんな音が響くわけがないと無意識下で考えたアビスは、その瞬間にあることに気が付く。


 彼の気付きを肯定するようにその音はどんどん大きくなり、そして……アビスの視界に、白銀の鎧を纏った戦士の姿が飛び込んできた。


「行かせるかよ、アビスっ!! ぜってぇに逃がさねえっ!!」


「ユーゴ・クレイ!? 馬鹿なっ!? 私を追ってきていたのか!?」


 ハウヴェント城の屋上に置いてきたはずのユーゴが、飛び立った塔部分から零れ落ちていたわずかな破片をブラスタの微粒子金属で補強し、それを足場にして自分を追ってきていたことに気付いたアビスが驚きに息を飲む。

 完全に予想外の展開に焦った彼は、そこでマルコスの目的に気が付いて目を見開いた。


「まさか貴様、最初から――!?」


「ああ、気付いていたさ。そして、信じていた。ユーゴならば、必ずお前を追ってここまで辿り着くとな!!」


 上空へと飛んでいくアビスを目で追っていたマルコスは、同時に彼を追って跳ぶユーゴの姿も目にしていた。

 最後まで諦めない彼ならば、間違いなく宿敵の下に辿り着く……そう信じたマルコスは、ユーゴをアシストするためにここまで飛んできたのである。


 仲間たちの攻撃を受け、敢えて音や衝撃を響かせることでアビスの注意を惹く。

 全ては彼を追跡し続けるユーゴの存在を気付かせないために取った行動であり、嗜虐的かつ人を見下す癖があるアビスがじっくりと時間をかけて自分をいたぶることが予想できていたからこそ、わざと苦しむふりをすることで時間を稼いでいたのである。


 アビスがマルコスを嘲笑っている間に、ユーゴは十分に接近することができた。

 同時に、アビスの攻撃を受けながら落下することで位置を調整し……マルコスは、ユーゴのすぐ傍に落ちることができたのである。


(は、嵌められたのか、この私が!? あんな男の浅知恵に!?)


 自分の性格、現在の状況、持っている技術。全てを存分に活かしたマルコスの計略にまんまと嵌ったことを自覚したアビスが愕然としながら目を見開く。

 そんな彼に対して、マルコスは不敵に笑いながらこう言い放った。


「お前の言う通りだ、アビス。今の私ではお前には勝てない。だが……!!」


 敢えて泥に塗れ、敢えて無様を演じ、敢えて嘲笑われた。自分が信じている男を勝たせるために、自分にしかできないことを全力でやり遂げた。

 ……否、まだマルコスの役目は終わっていない。彼にはまだ、最後に残された大事な使命が残っている。


(しまった……! 【ギガシザース】の能力は――っ!?)


 そのことに、アビスもようやく気が付いた。自分がしてしまった行為が自分の首を絞め始めていることにも気が付いてしまった。

 そんな彼の目の前で大きく跳躍したユーゴへと、マルコスが叫びかける。


「ユーゴ! このマルコス・ボルグがわざわざお前の踏み台になりに来てやったぞ! さあ、来いっ!!」


「ああ! 行くぜっ!!」


 マルコスが構えた盾の上に、ユーゴが飛び乗る。

 深く膝を曲げ、次なる跳躍の準備を整える彼に対して、ここまで受けたメルトたちの、そしてアビスからの攻撃で【ギガシザース】に溜まった魔力を解放しながら、マルコスは叫んだ。


「私たちの想い、お前に託すぞっ! 世界を救ってこい、ヒーロー!!」


 ユーゴはマルコスへと何も言葉を返さなかった。ただ強く、高く、アビスに向かって跳ぶことで仲間たちの想いに応えてみせた。

 そして、そんな彼の背を【ギガシザース】から放たれた黄金の波動が強く押す。


 Xブラスタの白銀の体が徐々に金色に染まり、それに比例するかのように自分目掛けて加速してくるユーゴの姿を目にしたアビスは、十秒もしない内にこの戦いに決着がつくことを予感すると共に叫んだ。

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