今の自分に何ができる?

「くそっ! 何故、急に城が崩壊し始めたんだ!? いったい何が起きている!?」


「ユーゴ殿とアビスの戦いに決着はついたでござるか!?」


「あっっ! みんな、あれを見て!!」


 一方、【フィナーレ】を破壊したマルコスたちは、その直後にハウヴェント城が激しく揺れ始めたために急いで外に脱出していた。

 ユーゴとアビスの戦いに進展があったのかもしれないと思いつつ、敵の首魁と戦うユーゴのことを心配しつつ城の外に飛び出した彼らは、上空を見上げたメルトが指差した先を見て、愕然とする。


「城の一部が、飛んでいってる……!? 光ってるのは、【フィナーレ】が集めた魔力じゃ……!?」


「アビスも一緒にいます! ですが、いったい何を……!?」


「あいつ……! あの魔力を上空から落とすつもりだ! 追い詰められたアビスは、最期の悪足搔きをしようとしてるんだ!!」


 その場面を目にした仲間たちが状況を把握できずに困惑する中、技師であるアンヘルがアビスの思惑を看破する。

 怪物のような姿から再び人間に近しい魔鎧獣の形態に戻っていることから考えても、アビスはユーゴに追い詰められ、最後の手段に出たのだろう。


 【フィナーレ】を破壊され、砲弾の発射機能こそ失ったが、十分な魔力だけは残っている。

 あとは必要な魔力を自分の魔力を使って補填し、上空から落下させるだけで大爆発と共にウインドアイランドを破壊できると……アンヘルの話を聞いて状況を理解した仲間たちもまた、愕然とすると共に再び上空を見上げた。


「ユーゴはどこ!? 無事なの!?」


「アビスと一緒にいるようには見えない! 多分、置いて行かれたんだ!」


「どうするでござる!? あのままじゃ、アビスが魔力弾を投下して、全てが破壊されてしまうでござるよ!?」


 アビスと戦っていたユーゴの姿が傍にないことを見て取った一同が、彼が城の屋上に置いて行かれたことを理解すると共に自分たちの行動について話し合う。

 しかし、そうしている間にも徐々に天高くに昇っていくアビスと城の塔部分の姿を見ていたマルコスは、苦悶の表情を浮かべながら必死に頭を働かせていた。


(どうする? 今、この状況で私ができることはなんだ? 私が全力を尽くしてすべきことは、いったい……!?)


 ここまで何度も言われてきたこと。大事なのは、今の自分ができることを全力でやり続けることだという格言を振り返りながら上空を見上げ、膨れ上がっていく魔力の光を見ていたマルコスは……あることに気付き、はっと息を飲んだ。

 そのまま振り返った彼は、自分と同じく上空を見上げていた仲間たちへと大声で叫ぶ。


「お前たち! 私を攻撃しろっ!」


「は、はぁっ!? ちょっとマルコス、急に何を――!?」


「私を上に飛ばすんだ! 急げっ! 時間がないっ!!」


「っっ……! そういうことか!」


 【ギガシザース】を構え、仲間たちへと叫んだマルコスの意図を理解した一同が小さく頷く。

 それぞれが魔道具を取り出し、呼吸を整える中、メルトが口を開いた。


「【フィナーレ】の破壊に結構魔力を使っちゃったけど、まだ一発は本気でぶちかませる。マルコス……任せたからね!」


「覚悟しろよ? 相当痛い目を見るぞ?」


「ああ、わかっている。さあ……こいっ!!」


 ぐっ、と拳を握り締めたマルコスへと、まずはアンヘルがハンマーを振りかざす。

 下から上へ、かち上げるようなアッパースイングで彼の体を浮かび上がらせた後、高々と打ち上げられたマルコスに紫色の魔力剣が飛んでいった。


「頼んだよ、マルコスっ!」


 無数の魔力剣が断続的に盾に押し寄せ、少しずつ彼の体を浮かび上がらせていく。

 その最中に魔力を溜めたセツナとサクラが、同時に地面を打ち鳴らして突風と間欠泉を生み出し、さらに上空へとマルコスを押し上げた。


「これが私たちの全力! あとは――!」


「マルコス殿っ! お頼み申すっ!!」


 アッパースイングからの連続攻撃で随分と高く打ち上げられたマルコスは、まだ勢いに乗り続けている。

 どうにか空中でバランスを取り、少しずつアビスに近付いていく彼へと、ライハが最後の一撃を繰り出すべく息を吸った。


「この力は、忌むべきものかもしれない。だけど、今は……っ!!」


 深く息を吸い、両目を開く。

 長い前髪に隠していた龍の瞳を見開き、その力を解放したライハは、口から激しい雷を吐き出した。


「雷龍咆哮!!」


「うっ! うおおおおおおおおおっ!!」


 荒れ狂う雷を盾で受けたマルコスが、猛烈な勢いでアビスへと向かっていく。

 空中で反転し、仲間たちに押し上げられた勢いのままに飛んでいくアビスの下に向かうマルコスであったが……アビスはそんな彼を一瞥すると、ニヤリと笑いながら口を開いた。


「羽虫が。今さら、お前程度に何ができる?」

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