最期の悪足掻き
「そ、そんな……! そんな馬鹿な!? 【フィナーレ】が破壊されただと!? あいつらは何をやっているんだ!?」
舞台は再び、ハウヴェント城屋上に戻る。
【Word】第二形態となり、ユーゴと死闘を繰り広げていたアビスは、計画の肝となる超兵器【フィナーレ】が轟音を響かせながら機能を停止する様を目にして、驚愕の叫びを上げた。
その頂点には収集した魔力で構成された巨大な弾丸が禍々しい光を放っているものの、今の【フィナーレ】にはそれを発射する機能はない。
実質的に計画が阻止されたことに愕然とするアビスへと、ユーゴが言った。
「見下していた相手に自分の計画を阻止されるってのはどんな気分だ? 全てを支配するコンダクター様が、随分と慌ててるじゃねえか」
「ユーゴ・クレイ……! 貴様は、なんなんだっ!? 全て私の脚本通りに進むはずだった! お前が、お前というノイズさえなければ、この世界は完璧な調和の下に滅びに向かうはずだったんだ! それを、貴様が――っ!!」
「答えてやるよ、アビス。俺は、世界の平和と人々の自由を守るために戦う一人の人間だ! この世界に生きる全ての命は、お前のくだらない舞台のために支配していいものじゃない! 俺はおまえを倒す!! この世界に生きる全ての人々と、俺が守りたいと思う者たちのために!」
「この……っ! 青二才がぁっ!!」
アビスが吠え、振り抜く拳と共に魔力弾を放つ。
それを横っ飛びに回避したユーゴは、手の中に棍を生成するとアビスに向けて投擲した。
「ぐあっ!?」
クリーンヒット、空を貫きながら投擲された棍の先端がアビスの顔面にぶち当たる。
呻き、よろめき、数歩後退った彼が棍が当たった鼻先を押さえる中、アビスが見せた隙を見逃さなかったユーゴはそのまま高く跳躍した。
「たあっ!!」
「!?!?!?」
威勢のいいユーゴの叫び声に顔を上げたアビスは、先ほど彼が投げた棍が空中で静止している様を見て、目を見開く。
跳躍し、その棍を両手で掴んだユーゴはまるで鉄棒を使って大車輪を行うように回転し、その勢いを乗せて呆然とするアビスへと飛び蹴りを放った。
「喰らえ、アビス! これがこの島に生きる全ての人たちの怒りだ! 『Xブラスタァァッ・キィィィックッ』!!」
「ぬっ!? ぐっ! があああああああああああっ!!」
予想だにしない動き。想像もできない技。【X】のクリアプレートの力によって【Word】の防御を完全に無効にしたユーゴ必殺の一撃が、アビスの胴を強く打つ。
一瞬、その一撃の威力を耐えようとしたアビスであったが、抜群の破壊力を持つユーゴの跳び蹴りを耐え凌ぐことはできず、あえなく吹き飛ばされてしまった。
「がふっ! が、ぐがっ……!! ぐああああああああああっ!!」
【フィナーレ】が設置されているすぐ傍の壁に体をめり込ませたアビスが、呻きの後に悲鳴を上げる。
直後、体にX型の光を浮かび上がらせた彼は光が弾けると共に大爆発を起こし、その中に飲まれていった。
「……終わった。これで、世界も救われたはずだ」
アビスの魔力が弱まっていくことを感じたユーゴが、小さな声で呟く。
これでウインドアイランドを襲ったクリアプレート事件も、そこから続く世界の滅びも止められたはずだと、アビスの敗北を以て一連の事件に決着がついたことを確信した彼であったが……?
「まだだ、まだ……終わってはいないっ!!」
「っっ!?」
唸るような叫びの後、煙の中からアビスが飛び出す。
怪物めいた第二形態から、再び人型の第一形態に戻ったアビスは城の頂点へと跳び、【フィナーレ】が溜めた巨大な魔力の砲弾の傍に立つと、呼吸を荒げながらユーゴへと叫んだ。
「ユーゴ・クレイ……いや、呉井雄吾。どうやら私はお前には勝てないようだ。しかし……お前を倒す必要はない。【フィナーレ】は破壊されたが、既にかなりの魔力をチャージしてある。あと少し、ここに私の魔力を加えれば……この島を滅ぼすのに十分な威力になるでしょう」
「【フィナーレ】は破壊された! 砲弾が完成しても、発射することはできないはずだ!」
「ええ、そうですね。ですが……発射せずとも、ただ落とせばいいんです。こんなふうに、高いところからね!」
「なっ……!?」
アビスの言葉が合図であったかのように、【フィナーレ】の砲身部分でもあった城の塔部分が切り離される。
突然、ハウヴェント城の崩壊に巻き込まれたユーゴが揺れる足場のせいで体勢を崩す中、充填された魔力と一緒に切り離された塔をロケットのようにしながら上空へと飛び上がっていったアビスは、高笑いしながら自らの勝利を宣言した。
「あなたはよくやりましたよ。だが、最後に笑うのはこのコンダクター・アビスだ! この島と共に消え去れ! ユーゴ・クレイっ!!」
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