【無敵】が敗れ去る時
「くっ、来るなっ! 来るなぁぁっっ!!」
自分の能力が消失したこと、仲間たちも助けてはくれないことを悟ったシアンが半狂乱になりながら光弾を連射する。
両腕からマシンガンのように光弾をばら撒く彼であったが、リュウガはその全てを切り払い、回避し、着実に距離を詰めていった。
「なんでだっ!? どうしてこうなるっ!? 主人公である俺が、どうしてお前みたいなゲームのキャラに……っ!?」
「お前が何を言っているのかはわからないが、一つだけ言えることがある。お前は断じて、主人公などではない」
「うるせえっ! 俺は選ばれたんだ! すげえ力を手に入れて、誰にも負けない無敵の存在になった! この力で俺は世界の頂点に立つ主人公になるんだよぉっ!!」
「……いい加減に黙れ。お前のくだらない話に付き合うのも、いい加減にうんざりだ」
リュウガにはシアンが転生者であることはわかっていない。今の話も、アビスからクリアプレートを貰ったことを言っているのだろうと思っている。
そもそも、シアンの話をまともに聞くつもりもない彼は、腰に差してある鞘を手に取ると疑似的な二刀流の剣劇を見せ、シアンの攻撃を真っ向から撃ち落としていった。
「クッソォォォォッ! なんでお前は生きてるんだよ!? 本当なら死んでるはずなのに! お前が死んでれば、ライハたちだって俺のものになってたはずだったのにぃぃっ!! どうして死んでねえんだよぉぉぉっ!!」
「さっきも言ったはずだ。お前がどれだけ望もうとも僕は死なないと。そして、もう一つ――!!」
「っっ!?」
力を振り絞り、憎しみの雄叫びを上げながら、攻撃を放ち続けるシアン。
しかし、リュウガは平然とその攻撃を弾き、斬り、打ち、払って距離を詰めてくる。
本来ならば主人公である自分たちが見捨てた時点で、彼は死んでいるはずだった。
その彼が、どうして今、自分の計画の邪魔をするのだと苛立ちと憎しみを募らせていたシアンの目の前に、【龍王牙】の切っ先が突き付けられる。
「――僕に、質問をするな」
「う、が……っ!?」
自分との力量差を示すように、敢えて真っ向から攻撃の雨を突破してきたリュウガの脅しに、シアンが声を詰まらせながら呻く。
目を細め、硬直した彼を見つめながら、リュウガはシアンに選択を迫った。
「大人しく負けを認めてクリアプレートを差し出すのであれば、峰打ちで済ませてやる。まだ抗うというのなら……相応の覚悟があると見なす。さあ、どうする?」
「く、く、く……っ!!」
生成与奪の権利を握られているという事実に、明らかに見下しているリュウガの態度に、屈辱を覚えたシアンが拳を握り締めながら怒りに打ち震える。
あり得ない。主人公であるはずの自分がゲームキャラに敗北するなんて、あっていいはずがない。
自暴自棄。自尊心を傷付けられた怒りのままに賢くない判断を下したシアンは、カッと目を見開くとリュウガに向かって叫びながら握り締めた拳を繰り出した。
「舐めるなっ! 俺は、俺はぁぁっ!!」
残された力を振り絞り、魔力を極限まで込め、シアンがリュウガに渾身の右ストレートを放つ。
吠え、叫び、己のプライドの全てを懸けて抗ったシアンは……直後に、顔面に走った鈍い痛みによってその動きを止められる。
「ぐぶっっ!?」
「……ありがとう、礼を言うよ。実を言うと、お前には抗ってもらいたかったんだ」
左手に握った鞘を、その先端を突っ込んでくるシアンの顔面にカウンターとして叩き込んだリュウガが言う。
ぐらりと体勢を崩したシアンを見つめ、その隙を突いて攻撃を繰り出す直前、彼は静かにこう告げた。
「これで、何の遠慮もなくお前を斬り刻める」
先ほど、シアンが放った光弾を弾くための防御のために動きが、そのまま攻撃として繰り出された。
マシンガンの弾を弾くほどの剣捌きによって生み出される斬撃と打撃が、シアンの全身に襲い掛かる。
「グガガガガガガガガガガガッッ!?」
胸部から胴、両肩から腕、腰や脚に至るまでを徹底的に刀で斬り刻まれ、合間合間に鞘での殴打を打ち込まれたシアンにはもう、痛みの感覚が消え失せていた。
その代わり、とてつもない脱力感と共に意識が遠のく感覚が押し寄せてきて……完全に動きが止まった彼へと、風の魔力を込めたリュウガの逆袈裟斬りが叩き込まれる。
「嵐龍剣術・風の型……青嵐」
「ガッ、ハッ……!」
二歩、三歩……と、宣言通りにリュウガに全身を斬り刻まれたシアンがよろめきながら後退る。
そんな彼に背を向けながら愛刀を鞘に納めたリュウガは、それを腰に戻しながら皮肉るように言った。
「ゲームセットだ。くだらないゲームは楽しめたか、主人公?」
「ぐっ、がっ、があああああああああああああっ!!」
その言葉を受けたシアンの体が、大爆発を起こす。
爆発の中から吹き飛ばされ、転がり出たシアンの体から【I】のクリアプレートが排出されると共に、彼の体は粒子のように溶け始め、瞬く間に消えてなくなった。
「い、嫌だ。こ、こんな、ゲームオーバー、迎えたく、ない……う、うあああああああああ――!!」
「……どうやらアビスに何か細工されていたようだな。哀れな奴だ」
地獄の底から響くような断末魔の叫びを上げながら消滅したシアンを見送った後、わずかに憐みの感情を見せたリュウガが呟く。
直後、城の屋上で爆発が起きたことを感じ取った彼は、視線を上げると共にそこで戦っているであろう自分の相棒を気に掛けるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます