【フィナーレ】のフィナーレ
『マルコスさん! みんながやってくれました! 魔道具は二つとも破壊されました!!』
「ああ、わかっている! これなら……!!」
所変わって、ハウヴェント城内。全てをルミナス学園の仲間やこの島の人々に託して待機していたマルコスは、【フィナーレ】を守る結界が急に乱れ始める様を目にして、作戦が上手くいったことを確信していた。
フィーの通信に応えつつ、協力してくれた全ての人々に感謝した彼が結界に向けて鋏を繰り出せば、先ほどまでの頑丈さが嘘であるかのように堅牢だったはずの結界が粉々に砕け散った。
「いける、いけるぞ!」
「みんな! 思いっきりぶちかまそう!」
敵の作戦の肝である巨大兵器を守る壁は消えた。あとは、自分たちがみんなの想いに応える番だ。
魔力を漲らせ、それぞれの魔道具を構えたマルコスたちは、【フィナーレ】に向かって全力の攻撃を繰り出していく。
「いっくぞ~っ! 『ソード・ストレート』ッッ!!」
巨大な魔力剣を生成したメルトがそれを思い切り振り下ろす。
彼女が【フィナーレ】を天辺から叩き斬ろうとする中、その傍ではアンヘルが文字通りのハンマー投げの構えを見せていた。
「持ってけっ! 『ジャイアントハンマー・スイング』!」
最も破壊力があるハンマー形態にした魔道具に魔力を込め、それを標的に向けて放り投げる。
やっていることはシンプルだが、それであるが故に威力もすさまじいその攻撃が【フィナーレ】に直撃し、そのまま内部へとめり込んでいく。
「サクラ、ライハ。久々にあれをやるわよ」
「了解でござる! 腕が鳴るでござるな~!」
「いくよ、二人とも! せーのっ!!」
「「「『三位一体・嵐龍招来』!!」」」
セツナが風を、サクラが雨を、ライハが雷を……と、それぞれ得意とする属性の龍を繰り出し、それらを見事に調和させた戦巫女たちが、技の名通りの嵐の龍を生み出す。
メルトとは逆に根本から頂点へと駆け上がっていく龍によって【フィナーレ】が破壊されていく中、その中央に黄金の鋏が出現した。
「これで終わりだ! 『ゴールデン・カッティング』!」
魔力剣によって頂点から叩き斬られ、ハンマーを内部の奥深くまでめり込まされ、嵐の龍に根元から食い破られ……そうやって甚大な損傷を受けている【フィナーレ】が、マルコスの攻撃によって真っ二つに両断される。
もはや、完全に修復不可能なダメージを受けた巨大兵器は爆発を繰り返しながら煙を上げ、やがて魔力を収集する機能をストップすると共に完全に動かなくなった。
「やった! やったよ! 【フィナーレ】を壊した!」
「これでアビスはこの島を破壊できなくなったわ! あいつの計画も、全ておじゃんよ!」
「ユーゴ殿も心置きなく戦えるでござる! 我々の勝利まで、あと一歩でござるよ!」
「やったな、マルコス。お前がみんなを説得してくれたおかげだ」
「私は大したことなどしていないさ。この島の全ての人たちが手を貸してくれた……我々は最後の一押しをしたに過ぎない」
アビスの計画の肝である【フィナーレ】を破壊したことを、メルトたちがハイタッチしながら喜び合う。
彼女たちがお互いの活躍を称え合う中、城の入り口方面を見たライハは小さな声で呟いた。
「これできっと、リュウガさんの戦いも楽になるはず……! 頑張ってください、リュウガさん……!!」
――――――――――――――――――――
「ば、馬鹿な……!? 【フィナーレ】が破壊されたのか!? アビスは何をやってるんだ!? まさか、あいつがやられたのか!?」
同時刻、ハウヴェント城入り口付近。
リュウガとの戦いを繰り広げていたシアンは、轟音を響かせながら【フィナーレ】が破壊される様を目にして、激しい動揺を露わにしていた。
結界を生み出す魔道具はウォズとトリンに守らせていたはずだし、城の中にはアビスもいたはず。
それなのに、作戦の根幹を成す超兵器が破壊されたということは、彼らは既に倒されているのでは……? と考え始めた彼へと、リュウガが言う。
「どうやらお前の仲間たちはユーゴに倒されたようだな。残すはお前のみ……その趣味が悪い金メッキも剥がれ始めているみたいだぞ」
「あ、ああっ……!?」
『自分は無敵である』というシアンの想いも、徐々にリュウガに追い詰められていたことで弱まっていた。
そこに【フィナーレ】の破壊というきっかけが加わった結果、彼の不安をせき止めるダムは決壊し、【Invincible】の能力も完全に失われ、シアンの全身で輝きを放っていた黄金もまたくすんだ色になり下がってしまっている。
「アビスに与えられた【無敵】の力も消失した。これで遠慮なく、お前を叩き斬れる」
ここまで、シアンの心をへし折るための戦いを繰り広げていたリュウガが、それが果たされたことを確認すると共に獰猛な笑みを浮かべる。
怯えるシアンの前でゆっくりと愛刀を構えた彼は、その目に斬るべき標的を見据えながら、静かに吠えた。
「さあ思い切り……振り切るぜ!!」
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