一方その頃、全てを見届けた黒幕たちは……

「いや~! 最高にスリリングかつドラマティックな展開だった! ブラボー! ブラボー!!」


「うっそ……!? ヒーローくんたち、本当にアビスに勝っちゃったよ……!!」


 歓喜に沸くウインドアイランドを眺めながら興奮するロストと、予想だにしていなかった結末を目の当たりにして唖然としているドロップ。

 ユーゴが勝利したことを自分たちの目で確認した彼らは、それぞれ対照的な反応を見せている。


 クリアプレートというアイテムまで制作し、用意周到に準備を重ねてきたアビスがまさかの敗北を喫したことに驚きを隠せないドロップは、笑みにも見える表情を浮かべながら呟いた。


「あれだけ自信満々だったアビスが負けるなんて……いや、自信満々だったから負けちゃったのかな? 【Word】の能力を過信し過ぎた結果が、これ?」


「う~ん……ちょっと違うかな? 良くも悪くも、アビスはエンターテイナーだったんだよ。世界を支配するコンダクターを名乗っていたけど、彼の本質はそっちじゃなかったんだ」


「へ? どういう意味?」


 アビスの敗北は、正しくは彼の油断が招いたものではないというロストの意見を聞いたドロップが首を傾げる。

 口元を歪めたアビスは、先ほどまでの興奮を多少は静めた状態で彼女へとこう言葉を続けた。


「全てを支配する、世界の運命を操る……そう言っておきながら、アビスの計画は付け入る隙が多く存在した。でもそれは油断したというより、場を盛り上げるための悪役ヒールムーブと言った方が正しい。まあ、我々の立場からすればそうするしかないんだけどさ」


「まあ、確かに……ヒーローくんたちがハウヴェント城まで来た時、転移魔方陣じゃなくて全滅ぶっ殺す系の罠を仕掛けていればそれだけでアビスの勝ちは決まってたはずなのに、そうしなかったもんね……」


「本気で勝ちに執着していたら、あるいはエンターテイナーとしての本分を忘れることができていたら、結果はまた違うものになったとは思う。でもそれができないのがアビスという男なのさ。だから彼は最後まで、傲慢で愚かで倒されるべき悪役として振る舞い続けたんだ」


 それはもしかしたら、アビス本人ですら気付けていなかった彼の本性なのかもしれない。

 勝つためではなく、舞台を盛り上げるために。見る者全てを満足させることが自分の満足につながるような性格をしていたからこそ、彼は敗北した。


 無論、他者を見下す傲慢な部分が嘘だったというわけではない。

 ただ……ユーゴに倒される際、彼は自分が敗北するという予想外の展開に直面してもどこか満足気な態度を見せていた。


 最後の言葉が恨み言ではなく、ドラマティックな結末を楽しんでいるような言葉だったことから考えても、アビスが求めていたものがわかる。

 彼は勝利を求めていたのではない。このを求めていたのだ。


「……アビス、君とは色々あったけど、その精神性だけは素直に尊敬するよ。この劇的な結末は君の脚本には載っていなくとも、間違いなく君が作り上げたものだ。さようなら、コンダクター。悪くない……いや、最高の舞台だった」


 今は亡きアビスへと敬意を込めた言葉を贈りながら、ロストが小さく微笑む。

 そんな彼のことを細めた目で見つめていたドロップは、ため息を吐いた後で声をかけた。


「じゃあ、そろそろ行こうか。あんたもアビスの計画の邪魔をしたんだし、ペナルティを受けないとね」


「あ~……そうだった。マイヒーローの活躍に心奪われて、完全に忘れてたよ」


「悪いけど、ドロップちゃんはその辺のことはしっかりしてるからね? いや、仮に私が忘れてたとしても、なあなあにはできないって」


「わかってるよ。君には感謝してる。こうしてマイヒーローとアビスとの戦いを最後まで見届けられたのは、君のおかげだ。ありがとう、ドロップ」


「……なんかキモイんだけど。ちょっと鳥肌立ったわ」


「ひどくないかい? 素直に感謝しただけでそこまで言うほど、私のことが嫌いなの?」


 漫才のようなやり取りを繰り広げながら、ロストとドロップが広がる暗闇の中に入っていく。

 最後、仲間たちと勝利を喜び合うユーゴの姿を見て、満足気に微笑みながら……ロストは、ひと夏の思い出にあふれる風の島を後にするのであった。


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