西の戦場!

 一方、西の戦場では、ウインドアイランドの住民たちを中心とした戦力が魔鎧獣たちと激戦を繰り広げていた。


 警備隊の数こそ東の戦力より多いものの、戦闘訓練等を受けていない人々も多いこちら側は、魔鎧獣たちにやや苦戦している。

 ただ、アビス側の戦力も本来この場で指揮を執る役目を任されたトリンがロストに倒されてゲームオーバーになってしまっているため、十全に力を発揮できない状態でもあった。


「なんとしても結界を生み出している魔道具を破壊するんだ! 警備隊、進め!!」


 シェパードが指示を出しつつ、自身もまた敵の真っただ中へと突っ込んでいく。

 警備隊員を始め、戦いの心得がある者たちもまた彼に続いて魔鎧獣の軍勢に立ち向かう中、エレナもまた召喚魔法で魔物たちを呼び出していた。


「お願い、お願い、お願いっ! みんな、手を貸してっ!!」


「エレナ、無理をするな! 戦える魔物たちは既に全員呼び出している! これ以上呼びかけても誰も来ない! 魔力の無駄だ!」


「カニカニカ~ニ~ッ!」


「でも、何もせずに見守ることなんてできないよ! この島の住民じゃないマルコスたちが命を懸けて戦ってるんだから、私だってやれることは全部やりたいの!!」


 シャンディア島の仲間たちと共に戦うエレナが、同じく武器を手に魔鎧獣を蹴散らすカルロスへとそう叫ぶ。

 娘の必死の行いを目の当たりにしたカルロスはまた敵を薙ぎ倒しながら、無理だけはするなと言ってポルルと共に軍勢の中へと突っ込んでいった。


「もう少しだ! あと少しで魔道具に手が届くっ!!」


 一方、最前列を走るシェパードは、結界を生み出す魔道具にあと少しで手が届くというところまで辿り着いていた。

 もうひと踏ん張りだと仲間たちを鼓舞し、自分もまた剣を手に魔鎧獣を叩き斬った彼であったが……そんな彼らの前で、魔鎧獣たちが信じられない行動を取り始める。


「なっ、なんだっ!?」 


「魔鎧獣たちが、集まって……!?」

 

 倒された魔鎧獣たちと、残る魔鎧獣たち。彼らが急に集まり出したかと思えば、肉体が一つになり始める。

 百近い個体たちが合体し、一体の巨大なイカの魔鎧獣に変貌したことに唖然としたシェパードたちの耳に、その変身を見ていた一人の島民の声が響いた。


「く、クラーケンだっ! 魔鎧獣が合体して、クラーケンになったっ!!」


 倒された者たちの怨念が、クリアプレートの力によって生み出された空っぽの魔鎧獣たちの肉体に憑りついてまた新たな怪物へと変貌した。

 家屋よりも大きな体を持つクラーケンは十本の脚を無茶苦茶に振り回し、仲間である魔鎧獣たちごと魔道具に迫る人間たちを吹き飛ばしていく。


「ぐっ! ううっ! ぐあああっ!!」


「退避だ! 警備隊以外は退避しろっ! クラーケンの攻撃が届かない位置まで下がるんだっ!!」


 人間も魔鎧獣も関係なく、全てのものを薙ぎ倒していく十本の触手たち。

 あとわずかといったところで出現した大ボスの反撃をどうにか剣で受け止めながら、シェパードが叫ぶ。

 警備隊員たちも武器と魔力障壁を使い、どうにか攻撃を防いでいるが、防御でいっぱいいっぱいになっているせいで反撃ができずにいる。


 どうにかしてクラーケンを倒さなければ、魔道具を破壊することもできない……と、目的を達するためにはこの巨大な魔鎧獣を倒すしかないとシェパードが考える中、また別の触手が島民たちの集団を攻撃すべく上空から襲い掛かった。


 十数の人々を叩き潰すべく振り下ろされた触手であったが、逆に下から突き出された銛の一撃を受け、大きく跳ね上げられてしまう。


「急げ。今の内に逃げろ」


「あ、あなたは……ゴメスさん!」


「ありがとうございます! 助かりました!」


 もうダメだと思っていたところを救ってくれた巨漢へと、感謝を述べながら退避していく島民たち。

 クラーケンが隙を見せるや否や、シェパードは彼の下へと駆け寄り、声をかける。


「ゴメスさん、来てくださったんですね」


「当たり前だ。この島が滅ぼされるかどうかの瀬戸際なんだからな。それに、牢から出してくれたお前や、あの子に借りを返さなくちゃならねえと思って来たんだが……自分が思っていた以上に、役には立てなさそうだ」


「っっ!?」


 よろりと、ゴメスの体がよろめく。

 どうにか銛を杖の代わりにして立っているゴメスは、クリアプレートを使った者たちが味わう副作用に苦しめられているようだ。


 彼は今、こうして立っているだけでも急速に魔力を吸われ続けている。

 その状態でクラーケンを弾き飛ばすだけの攻撃を放ってみせたゴメスの精神力と強靭さにシェパードが改めて驚愕する中、体勢を立て直した巨大イカを見つめながらゴメスが口を開いた。


「クラーケンなら何度も倒してきた。奴の相手はお手の物だ。だが……今の俺はまともに動けそうもない。気合で奴の近くに行ったとしても、そんなんじゃまともな技も繰り出せないだろう」


「何か、何か方法は……っ!?」


 クラーケンを倒すには、ゴメスの強力な一撃が必要だ。

 しかし、今の彼はまともに動くことすらできそうにない。


 何か方法はないのかと、二人が状況を打開する術を模索し始めた、その時だった。


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