偽Heroの最期
「こいつら、あなたのお友達でしょう? あなたに返してあげるわっ!!」
暴風を作り上げ、竜巻を生み出し、その中に魔鎧獣たちを巻き込んだピーウィーが杖を振りながら叫ぶ。
竜巻に巻き込んだ魔鎧獣を弾丸のように次々とウォズに向けて発射するというやや鬼畜な攻撃を見せた彼女は、そうしながらも他の魔鎧獣を暴風で飲み込み、弾丸を補充していた。
「くそっ! くそぉっ! どいつもこいつも役に立たねえ! 魔鎧獣はこの様だし、アビスも助けに来ねえ!! ふざけんな!! どうしてこうなるんだよっ!?」
「……それを選んだのは、あなた自身でしょう」
「っっ……!?」
頭上から降り注ぐ魔鎧獣砲弾の爆撃を避け、どうにか逃げながら自身の苦境を嘆きつつ、仲間たちへの恨み節を吠えたウォズは、自分を待ち受けていたミザリーの言葉にはっと息を飲んだ。
そのまま、左腕の【ワスプニードル】を拳の連打と共に繰り出す彼女は、避けることで精一杯の彼に向けてこう言い放った。
「そちら側に立つことを決めたのも、いざという時に信用できない仲間を選んだのも、全てはあなたが決断したことです。ルミナス学園の仲間や先生、この島の人たち全員を裏切って、あなたが選んだ道でしょう」
「うるさいっ! お前に、お前みたいな雑魚に、俺の何がわかるっ!?」
「わかるわけねえだろうが! 仲間のありがたみを知らねえ奴の気持ちなんて、知りたくもねえんだよ!!」
「俺たちは雑魚かもしれねえが、お前みたいに一人じゃあねえからな!」
「そう! ここにいないユーゴたちも含めて……私たちは一つになって戦ってる!!」
降り注ぐ魔鎧獣の砲弾を巧みに回避しながら、ミザリーが接近戦を仕掛けてくる。
その合間を縫うようにヘックスの斧が飛び、危険な時にはヴェルダが体を張って全員を守り、ウォズが何か行動を起こそうとすれば即座にピーウィーが魔法でその妨害を行う。
あまりにも完璧な連携だった。人数差で有利を取られているとはいえ、クリアプレートの力と優れたステータスを持つ自分が一方的に押し込まれているという事実に動揺するウォズは、大きく首を振りながら心の中で呻く。
(違う……! こんなことあり得ない。俺は、俺は主人公で、英雄で、この世界のヒーローのはずなのに……なんで――!?)
なりたかった自分の姿が、理想が、どんどん現実と乖離していく。
こんなはずじゃなかった。本当はこうして敵を追い詰めているのは自分で、ミザリーたちの中に自分もいるはずだった。
今の自分が【Hero】とは遥かにかけ離れた存在であることを自覚した瞬間、ウォズの体がずっしりと重くなり、力も入らなくなる。
「弱体化魔法をかけました! 今ですっ!!」
「おうっ! ありがとうな、ネリエスっ!」
「ここで決めましょう……皆さん、いきますよっ!!」
補助を担当するネリエスが仲間たちへと一斉に強化魔法をかける。
それぞれがそれぞれの役目を果たすべくポジションを取ったミザリーたちは、連携してウォズにトドメを叩き込むべく攻撃を仕掛けていった。
「おっしゃぁっ! 覚悟決めろよ、ウォズっ!!」
「うっ、うわああああっ!?」
仲間たちの準備を援護するように突っ込んだヴェルダが、タックルを仕掛けると共に倒れたウォズの脚を掴み、ジャイアントスイングを繰り出す。
大回転の後に放り投げられ、目を回して動けなくなったウォズがふらふらと立ち上がれば、周囲を竜巻が取り囲んでいることに気が付いた。
「捕らえたわ! 今よ、ヘックス!」
「ああ! ぶちかますぜっ!!」
「がっ! ぐあっ!? がはあっ!?」
竜巻の中から斧が飛び出し、四方八方から何度もその中心に立つウォズを切り裂いていく。
一撃、また一撃と攻撃が重なる度に竜巻の勢いによって威力が増していく斧の攻撃を受けるウォズは、堪らずその場に膝をついた。
「お、俺は……! 主人公に、なるはずだったんだ。この力で、何もかもをひれ伏させて、それで――」
主人公としての未来。英雄としての足跡。掴むはずだった数々の栄光。
それらが全て、消えていく。どんどん離れていく光を掴もうと頭上へと腕を伸ばしたウォズは、台風の目へと飛び込んでくるミザリーの姿を見て、息を飲んだ。
「これが私たちの力。私たちの想い。全てをここで……ぶつけるっ!!」
魔力による針の生成、及び強化。ネリエスの強化魔法と属性付与を含めて最大級に攻撃の威力を高めたミザリーがウォズの頭上から彼へと襲い掛かる。
握り締めた拳を、その先に作り出した針を、ウォズへと繰り出しながら……落下の勢いと仲間たちの想いを込めたその一撃を、彼女は叩き込んだ。
「『グループアップ・ライジング・スティング』!!」
「があっ! がっはぁあっ!!」
胸元に、深々と突き刺さった魔力の針が電撃を全身に走らせる。
痛みと痺れ、その両方を感じて叫んだウォズは爆発を起こすと共に、竜巻の中から飛び出した。
「うっ、うっ、うっ……ううぅ……! ううぅぅぅぅぅ……!!」
「……終わったみたいですね」
「ああ、そうだな」
爆発によって吹き飛んだウォズは、人間の姿に戻っていた。
泣きじゃくり、蹲ることしかできないでいる彼を見つめながら、大方の戦いが終わっている周囲を見回しながらそう呟いたミザリーにヘックスが同意する中、ウノの叫びが響く。
「総員、退避しろ!! 結界を生み出す魔道具は破壊したが、内部に残る膨大な魔力がオーバーロードを起こそうとしている! すぐにこの場から離れるんだっ!!」
何らかの装置と思わしき魔道具に剣を突き刺したウノが、周囲の生徒たちへと叫びながら自分も退避していく。
その間にも倒れる生徒たちを抱え、救助する彼の言葉を聞いたミザリーたちもウォズを回収して逃げようとしたのだが……?
「お、俺の、栄光……主人公としての未来、英雄としての幸せな人生……」
「う、ウォズっ!? 何を!?」
いつの間にか、彼は爆発を起こそうとしている魔道具に向けて歩いていた。
退避する生徒たちとは裏腹に、自ら危険地帯へと突き進むその姿に驚いたネリエスがどうにか彼を連れて行こうとするも、ピーウィーが彼女を制止する。
「ダメよ、ネリエス! もう、間に合わない……!!」
「でもっ! ユーゴさんなら、きっと――!」
「わかってる! だが、俺たちじゃどうしようもないんだ!」
たとえ敵であろうと、危機的な状況であろうと、ユーゴならウォズを見捨てない。身の危険を顧みず、彼を助けにいく。
ネリエスだけでなく、ピーウィーたちもそれは理解していた。だが……自分たちの力量では、それが叶わないこともわかっていた。
どうにかウォズを助けようとするネリエスを、ヴェルダが強引に抱えて退避していく。
同じく、後ろ髪を引かれる思いでウォズを見つめていたミザリーの手を掴み、引っ張りながら……ヘックスは叫んだ。
「爆発が起きるぞっ! みんなっ、早く逃げろーっ!!」
「俺は、俺は、俺は、俺は……主人公、に――」
誰も彼もが離れ、真の意味で孤独になったウォズが破壊され、魔力が暴走しつつある魔道具へともたれかかる。
涙を流した彼が弱々しい笑みを浮かべた瞬間……魔道具は爆発し、激しい衝撃が周囲を包んだ。
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