ウォズVS学園の仲間たち!

「なっ、なんだ!? 何がどうなってやがるっ!?」


 結界を生成する魔道具。その内、東に設置されたものを守る任務を与えられたウォズは、目の前で起きている事態を受け入れられずに困惑していた。


 アビスからは楽な仕事だと、もしかしたら特にやることもなく計画は終わるかもしれないと……そう言われていた彼としては、割と呑気に構えていたわけだ。

 実際、アビスが生み出した大量の魔鎧獣と共に警備に就いた彼は、島の混乱を目の当たりにしながら自分の出番はないだろうと考えていた。

 ……のだが、事態は彼の予想を超えた展開を見せ始めている。


「行くぞっ! 魔導騎士を志す者として、勇気と使命を胸に戦えっ! そして死ぬな! 全員で生きてルミナス学園に帰るぞっ!!」


「おおおおおおおおおおおおっ!!」


「なんだよこれ!? なんなんだよこれはぁっ!?」


 剣を手に吠えるウノを先頭に、各々の魔道具を手にしたルミナス学園の生徒たちが突っ込んでくる。

 その中には警備隊員たちも紛れており、彼らがウォズが守る魔導具を破壊しに来たことは間違いない。


 自分と共に警備を務める魔鎧獣たちへと臆すことなく戦いを挑み、それを倒しながら徐々に近付いてくるかつての仲間たちの顔を見ながら、ウォズは完全にパニック状態に陥っていた。


(こんな展開になるだなんて聞いてないぞ!? アビスは何をやってるんだ!?)


 まだ手に入れたばかりのクリアプレートに慣れていないだろうから、ということで任されたこの任務は本当に楽なものになるはずだった。

 仮にこの魔道具を破壊しに来る者がいても、配下の魔鎧獣に任せればどうにでもなるレベルだろうと高を括っていた。


 それなのに、こんな戦争じみた戦いに放り込まれるだなんて予想外だと焦るウォズは、次々と倒されていく魔鎧獣たちの姿を目の当たりにしながら、大声で叫ぶ。


「こ、こちらウォズ! こちらウォズ! 敵が攻めてきた! こっちが劣勢だ! 至急、応援を頼む!!」


 ハウヴェント城で暇しているであろうアビスやシアンへと応援を求めるウォズであったが、彼らからの返答はない。

 どうして何も反応がないのだと、このままではマズいと本能でも思考でも自分の危機を察知し始めた彼が呼吸を荒くする中、空気を裂く音を響かせながら斧が飛んできた。


「うっ、うわぁっ!?」


「よう! 暇そうじゃねえか。だったら、俺と遊んでくれよっ!!」


 斧の接近に気付いたウォズが慌ててその攻撃をガードすれば、ブーメランよろしく宙を舞った斧が持ち手の下へと戻っていく。

 自らの得物をキャッチしたヘックスは焦るウォズへと獰猛な笑みを浮かべながら、再び斧を投擲してみせた。


「『飛刃・回転豪斧』っっ!!」


「ぐああああっ! ひぃ、ひぃ……っ!!」


 魔力を帯びた斧が、刃を光らせながら真っすぐに突っ込んでくる。

 横ではなく縦に回転しながらの一撃はウォズの防御を無視した破壊力を有しており、腕を斬られる痛みと猛烈な投擲の勢いに吹き飛ばされたウォズがヒキガエルのような声を漏らしながら呼吸を繰り返す中、次の攻撃が飛んでくる。


「オラオラオラッッ! へばってる時間なんざねえぞっ!!」


「わっ、わああっ!?」


 拳を握り締めたヴェルダが、雄叫びを上げながら突っ込んできた。

 その大柄な体に見合った大きな拳を振るい、迎撃準備を整えていないウォズを追い詰める彼は、渾身のフックを敵の顔面に叩き込む。


「ぶべっ!? おわ――っ!?」


「本当はシアンの奴に喰らわせてやりたかったんだがな、ここにいねえなら仕方ねえ! 代わりにてめぇにぶち込んでやらぁっ!!」


 横っ面を殴られ、よろめきながら振り向いた形になったウォズの腰をホールドしたヴェルダが、そのまま彼へとバックドロップを仕掛ける。

 ゴシャッ! という音と共に地面が割れるくらいの勢いで頭を叩きつけられ、意識を朦朧とさせるウォズへと、再びヘックスの斧が襲い掛かった。


「あぐあっ! げふっ! がぁぁ……っ!!」


 腰のホールドを解かれたウォズが斧の投擲攻撃を受け、そのまま吹き飛んでいく。

 痛みに呻く彼は握った拳を地面に叩きつけながら、何もかもが自分の想定より悪い方向に進んでいる現状に苛立ちを募らせていた。


「こんな馬鹿なことがあって堪るか……! 俺は主人公だぞ? クリアプレートの力だって【Hero】なんだ。それなのに、どうして……!?」


 英雄や主人公といった意味合いを持つ【Hero】のクリアプレートを手にしたはずの自分は、文字通りこの世界のヒーローになるだった。

 そういう思いがあるからこそ、自分はこのクリアプレートに選ばれたのだという自負がウォズにはある。


 しかし……それに対して、今のこの状況はどうだ?

 仲間は化物たち、それを倒すために集まった人間に寄って集って叩きのめされ、辛酸を舐めさせられている。


 これが主人公の姿かと、ヒーローどころかそれとは真逆に位置する存在の活躍っぷりではないかと、そう心に弱い感情を抱いた彼が立ち上がれば、その目に宙を舞う魔鎧獣たちの姿が映った。


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