心を一つに!
『サンライト号にいる全ての人々へ、この声が聞こえているだろうか?』
サンライト号の無線を通し、船に乗っている人々へと語りかけるマルコス。
突然聞こえてきた彼の声に乗客たちが驚く中、マルコスは話を続けていった。
『私の名前はマルコス・ボルグ。今、私は仲間たちと共にハウヴェント城にいる。そして……アビスをあと一歩のところまで追いつめた!』
「!?!?!?」
誰もが予想していなかった展開に目を見開き、驚きを露わにしていた。
あのアビスを、警備隊員たちがまるで歯が立たなかった不気味な敵を、あと一歩のところまで追いつめたのかと……マルコスの話に希望を見出した乗客たちが押し黙り、彼の言葉に耳を傾けていく。
『今、私の友であるユーゴとリュウガが、アビスとその配下と死闘を繰り広げている。我々は、このウインドアイランドを攻撃しようとしている【フィナーレ】を破壊する任務に就いているのだが……その周囲に結界が張られ、手が出せない状態だ』
「結界……!? そんな! じゃあ、攻撃は止められないの!?」
「い、いや、待て! 黙って話を聞こう!」
絶望的な報告に聞こえるマルコスの話だが、わざわざそれを自分たちに聞かせるのには理由があるはずだ。
そう考えた乗客たちが懸命に耳を澄ませる中、マルコスは話の本題に入っていく。
『この結界は、島の東西に設置された魔道具によって作り出されている。それさえ破壊できれば、【フィナーレ】を破壊できるはずだ。我々が現場に向かいたいが……時間が足りない。それでは間に合わなくなる』
「……!!」
もうここまで聞けば、マルコスが何を言おうとしているかが大半の人間には理解できていた。
その人々が迷いを消した力強い面持ちを浮かべる中、マルコスの必死の叫びが響く。
『だから……誰でもいい! 今から送る座標に向かって、魔道具を破壊してくれ! そこには敵が待ち構えているだろう。厳しい戦いを強いられると思う。だが……もうそれしか方法がないんだ! 今、ユーゴはアビスを止めるために一人で戦っている! あいつに報いるためにも、私たちはなんとしても【フィナーレ】を破壊し、アビスの計画を阻止しなければならない! だから頼む! 手を貸してくれ! 共に戦ってくれ!』
必死に、懸命に、人々へと呼びかけるマルコス。
なんとしてでもアビスと一対一の死闘を繰り広げるユーゴに報いなければと、そんな想いを込めた彼の叫びは、確かに人々の心を揺り動かした。
「マルコス! 私の声が聞こえる!?」
『エレナ……? エレナか!?』
「私が魔道具を壊しに行くよ! だから座標を教えて!!」
誰よりも早くに通信室に飛び込んできたエレナが、フィーから通信機を受け取りながらマルコスへと叫ぶ。
そのまま、通信室から外に出た彼女は……そこで待っていた人たちの姿を見て、小さく笑った。
「エレナ……そこは私が、じゃなくて私たちが、に訂正すべきじゃないか?」
「ふふっ……! そうだね。一人じゃあ行けないみたいだ」
エレナの父であるカルロスが、警備隊と共に避難誘導に当たっていたウノが、島の各地で魔鎧獣と戦っては人々をここに連れてきていたシェパードが、扉の外で待機していた。
船の外ではルミナス学園の生徒や警備隊員たち、さらには島の人々までもが戦闘準備を整えており、皆がやる気満々といった様子を見せている。
「一部の隊員を警備としてここに配置し、残りを分割して魔道具の破壊に向かわせます。私は西の部隊の指揮を執りましょう」
「では、我々ルミナス学園の兵力は東に向かいます。指揮は私が執らせていただきましょう」
「戦える島民は西に向かう。ここは俺たちの島だ、外から来たユーゴやマルコスたちだけに戦わせるわけにはいかない」
最低限の会話で連携を取り、部隊を分け、作戦準備を整えていった三人が船から飛び降りる。
エレナもまた彼らに続いて船を降りれば、そこで待っていた仲間たちが迎え入れてくれた。
「ようやく、ユーゴさんに恩返しができそうです。気合を入れていきますよ!」
「師匠……肩を並べて戦うことはできずとも、私たちの想いは共にあります。私たちは一つです」
ユーゴがアビスとの死闘を繰り広げていると聞いたネリエスとミザリーが、気合いを入れながら呟く。
ヘックスたちもまた武器の様子を確認しており、ユーゴのためにもとやる気を見せていた。
「シャンディアを救ってくれたマルコスくんたちの頼みだ! 我々も死ぬ気で戦うぞ!」
「カニカ~ニ~ッ!」
ホーロンとポルルもまた、島の住民たちと共に気合いを見せている。
自分たちの島を守るために、子供たちだけに戦わせないために、そうやって戦う気持ちを漲らせる彼らを見たエレナは、通信機に向かって語りかけた。
「一緒に戦うから……! 近くにいなくても、想いは一つだよ。一緒に戦おう、マルコス! それで――!!」
『ああ……! 勝とう! 共に勝利を掴み取るんだ!!』
雄叫びが、咆哮が、島に響く。
三流の脚本化が書いた顛末通りに滅びてなるものかという想いを胸に、絶対に勝って明日を迎えるぞという気持ちで一つになった軍団は戦いに向けて進んでいく。
正真正銘、この島の、戦いの行く末を決める大戦争が……幕を開けようとしていた。
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