総力戦に臨め!

「結界を作り出してる魔道具が二つあるってこと!? どっちも破壊しないとダメなの!?」


「片方だけ破壊すれば、どうにかなるという可能性は……?」


「多分、ダメだ。片方だけでどうにかなるっていうんなら、二つに分割する意味がない。多少は結界の強度は弱まるかもしれないが、機能を完全に停止することはできないだろう」


 ライハからの報告を受けたアンヘルが、技術者としての観点から意見を述べる。

 破壊すべき目標は二つ。それを両方壊さなければ、【フィナーレ】に手出しができないと聞いた一同の表情に、深刻な焦りの色が浮かび始めた。


「今からチームを二つに分けて、魔道具を破壊した上でここに戻ってきて、【フィナーレ】も破壊しなければならないとなると……時間が足りないわ」


「きっと、魔道具の傍にはウォズとトリンがいる。他にもアビスが何かを仕掛けてるかもしれないし……」


「アビスが【フィナーレ】の発射を予告してからもう随分と時間が足ってる。今から移動して、戦いを終えた後で魔道具を破壊して、その後でフィナーレを破壊するだなんて、時間どころかアタシたちの魔力も足りないぞ」


 【フィナーレ】に意識を集中させることで作戦の肝となる兵器を守る結界を生み出す魔道具から目を逸らさせることも、アビスの計画の中に含まれていた。

 まんまと引っ掛かる形になってしまったメルトたちは、この状況をどうにかできないかと考える中、マルコスがアンヘルへと声をかける。


「アン、通信機は持っているな?」


「ん? ああ、でも、それでどうするつもりだ?」


「……三つの通信機のうち、一つはユーゴが、もう一つはお前が、そして最後の一つが……フィーの手にある。あいつは今、他の生徒たちと一緒に避難しているはずだ」


「……!!」


 この場にいるメンバーだけではこの状況を打破できない。時間も魔力も人員も、何もかもが足りないからだ。

 ならば……それを補えるだけの面子を揃えるしかない。その方法を見出したマルコスは、アンヘルから通信機を受け取ると共に仲間たちと自分に言い聞かせるように言う。


「ここからは総力戦だ。全員の力を合わせて……絶対に勝つぞ!!」




―――――――――――――――




『フィー! 私の声が聞こえるか、フィー!?』


「ま、マルコスさん!? どうしたんですか!?」


 ウインドアイランドからの避難のために警備隊が用意した遊覧船……あの『サンライト号』に乗り込んでいたフィーは、突如として聞こえてきた声に驚きながら反応した。

 フィーからの返事を聞いたマルコスは、大声で彼へと叫び続ける。


『悪いが、詳しく話している時間がない! お前の力を貸してくれ!』


「僕の力……? いったい、何をすればいいんですか?」


『誰でもいい! 戦える連中と話をさせてくれ! そいつらに私の声が聞こえる状況を作ってくれればそれでいい!』


「戦える連中って言われても……!!」


 マルコスからの指示を受けたフィーであったが、彼の周囲には、同じ初等部の子供たちしかいない。

 教師たちは避難誘導のために出払っているし、警備隊もどこにいるのか詳しくはわからない状態だ。


 この状況で、戦える人間に話を聞かせろと言われても……と焦るフィーであったが、同じく話を聞いていたユイが言う。


「フィー! 通信室よ! 船の無線を使って、乗客と周りにいる人たち全員に話を聞いてもらえれば、どうにかなるはずよ!」


「そ、そっか! それだ!!」


 あっさりと問題を解決したフィーが、立ち上がると共に初等部の子供たちが集まっている部屋から飛び出す。

 一度乗ったことのある船だからこそ、ある程度の構造は把握できていた。無線が置いてある通信室の場所も頭の中に入っている。


 ただ……船の中には避難のために乗り込んだ島民たちでごった返しており、上手くそこまで移動ができないことがネックになっていた。


「うわっ!? くっそぉ……! 急がなくっちゃいけないっていうのに……!!」


「ちょっと! そこの君! ダメじゃないか、変なことをしちゃあ!」


 人の波を搔き分けて進もうとするフィーであったが、体が小さいが故に力負けしてなかなか前に進めないでいる。

 さらにそこを避難民に捕まり、余計な時間を取られる羽目になってしまった。


「放してください! 急いで通信室に行かなくっちゃいけないんです!」


「今は大変な状況なんだから、我がまま言わないの! 友達と一緒に部屋の中に――!?」


 フィーのことを狭い部屋の中に居続けることが我慢できなくなって逃げ出してきた子供だと考えた乗客が、彼を元の部屋へと連れ戻そうとする。

 しかし、そんな彼の腕を丸太のような太い腕から続く大きな手が掴み、その動きを止めた。


「せ、船員さん……? 何を……?」


「君……前のシージャック事件を解決してくれた学生さんの弟くんだよね? 何かあったのかい?」


「っっ!!」


 以前、この船で起きた事件を覚えていた船員が、フィーを見つめながら問いかける。

 この助太刀を神の助けと感謝したフィーは、船員へと慌てた口調で事情を伝えた。


「今、城の中で戦ってる兄さんたちから連絡があったんです! この通信を大勢の人たちに聞かせなくっちゃならなくって、それで――!!」


「……なるほどな、事情はわかった。通信室に行きたいんだね?」


 屈強な大男の問いかけに、首がおかしくなるのではないかと思わせるくらいにぶんぶんと頷くフィー。

 彼の答えを確認した後、振り返った船員は大声で他の仲間たちへと呼びかけた。


「みんな! 道を開けてくれ!! この子を通信室に行かせるんだ!」


 その言葉を合図にしたかのように、散らばっていた船員たちが避難民たちの協力を得て、フィーが通る道を作る。

 なんだなんだと乗客たちが驚く中、船員はフィーに向けて言った。


「さあ、行くんだ。それと、あの時は君の勇敢さにも助けられた。ありがとう」


「あ、ありがとうございます! 助かりました!!」


 敬礼をしながら自分を見送ってくれる船員たちに感謝を告げつつ、一目散に彼らが作ってくれた道を駆け抜けるフィー。

 目的である通信室に辿り着き、機器を操作して、船内全体に最大ボリュームの通信ができるように設定した後……彼はマルコスへと叫んだ。


「準備できました! マルコスさん、お願いします!!」


『助かったぞ、フィー!』


 ここまでの流れを通信機越しに聞いていたマルコスがフィーを称賛する。

 その後、咳払いをした後……彼はこの場にいる全ての人々へと、話を始めた。


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