結末は、俺たちが変える!

 雄叫びとも絶叫とも取れるアビスの声が響いた後、巨大な爆発が彼を包む。

 轟音と爆炎と衝撃に両腕で顔を庇うような体勢を取ったメルトたちは、周囲に静寂が戻り始めると共ににじむような興奮を露わにしながら口を開く。


「やった……! ユーゴが勝った! アビスを倒したんだ!」


「あの攻撃をまともに受けては、流石のアビスもタダでは済まないでござるよ! これで、きっと――!」


 ユーゴの光線技をまともに受け、大爆発に巻き込まれたのだ。アビスが無事でいられるわけがない。

 勝負の行方を決定付けるような致命的なダメージを受けた彼は、もうまともに戦えるわけがないとメルトたちは思っていたのだが……?


「まだだぁぁぁっ! まだ、終わってないっ!」


「なっ……っ!?」


 大きな叫びを上げながら周囲に漂う煙を振り払ったアビスの姿を目にした瞬間、メルトたちは己の目を疑った。

 魔鎧獣と化しているアビスの肉体は先ほどよりも一回り大きくなり、人間よりも怪物に近しいフォルムになっている。


「追い詰められて本気を出したということか。奴め、完全になりふり構わずに来るぞ!」


「ぐおおおおおおおおおおおおっ!!」


 コンダクターを名乗っていた頃のスマートさをかなぐり捨て、ただ目の前に立つ不快な敵を粉砕すべく自身の力を振るうアビス。

 叫びながら、がむしゃらに繰り出された攻撃を回避し、どうにか距離を取ったユーゴは、体勢を立て直すと共に仲間たちへと言う。


「みんな、アビスの相手は俺に任せて、【フィナーレ】を壊しに行ってくれ。多分、城の中に動力源みたいなものがあるはずだ。それを破壊してくれれば、ウインドアイランドを救える」


 自分たちの目の前にあるのは、いわば【フィナーレ】の砲門部分だ。

 アビスの目を搔い潜りながらあれを破壊するのは難しいだろうが、城の中には動力源や魔力を集める機関などが隠されているはず。


 それを破壊し、【フィナーレ】を動かなくしてしまえば……アビスの計画は完全に瓦解する。

 ここは自分に任せてくれというユーゴの言葉を受けた仲間たちは、顔を見合わせた後で大きく頷いた。


「……悔しいけど、アビスに対抗できるのはあなたしかいない。ここは任せたわよ、ユーゴ」


「代わりに【フィナーレ】は私たちに任せて! ぶっ壊して、アビスの計画をおじゃんにしてやるんだから!」


「ああ……任せたぜっ!!」


 頷き、自分にアビスとの戦いを任せてくれたセツナと、サムズアップしながら自分に応えてくれたメルトの答えを聞いたユーゴが地面を思い切り殴る。

 そこに空いた穴に飛び込むよう、仲間たちを促しながら……彼は再び、自分が相対すべき敵と向かい合った。


「ユーゴ……!」


「マルコス、行くぞ! アタシたちがここに残っても、ユーゴの脚を引っ張るだけだ!」


「今の自分にできることを全力でやる……マルコスさんが全力を尽くす場所はここじゃない、そうでしょう?」


 自分の想像を超えた強敵と互角以上に戦う好敵手の背中を見つめ、彼に全てを託してしまうことに悔しそうな表情を浮かべるマルコスへと、アンヘルとライハが言う。

 自分の無力さに震えつつも、その言葉に頷いたマルコスもまたユーゴへと信頼を込めた眼差しを向けた後、穴の中に飛び込んでいった。


「ユーゴ・クレイ……! お前は私を本気で怒らせた! 凄惨かつ残虐かつ悲劇的な死を以て、その罪を贖わせてやる!!」


「罪を贖わせるだって? ……それはこっちの台詞だ。自分がどれだけの罪を重ね、どれだけの人たちを傷付け、泣かせてきたのかわかってんのか!? 罪を数えるのはお前の方だ、アビス!!」


 クリアプレートという危険な道具を作り、たくさんの事件を引き起こすきっかけを作ったこと。

 こうして己のくだらない計画のために数多くの人たちを扇動し、悲劇を巻き起こして、ウインドアイランドに犯罪の嵐を呼び起こしたこと。

 自分の仲間たちを侮辱し、傷付け、見下したこと……アビスの罪は、ユーゴにだって数え切れないくらいに存在している。


 しかし、アビスには己の罪を直視するつもりなど毛頭なく、鼻を鳴らした後でユーゴへと言い切ってみせた。


「はっ……! 罪を数える、だと? そんな必要は欠片もない! 全ての支配者たる私に、罪を問える者などどこにもいないのだからな!」


「……わかったよ。お前は、自分の罪を数えるつもりすらないってことか。どこまでも救えねえ悪党だな」


 己の罪など数え切れないと断言した悪には、自分が罪を犯しているという自覚があった。

 しかし、アビスにはそれがない。どこまでも純粋に、自分は何をしてもいいと思っているからこその残酷さがそこにある。


 彼の答えを聞いたユーゴは、息を吐くと共に自身の背後に九本の剣を生成した。

 そして、最後の一本を作り出し、それを握り締めたユーゴは、正真正銘の怪物と化したアビスを睨みながら言う。


「だとするなら、お前に投げかけるべき質問はねえ。代わりに、剣豪であり文豪でもある男の言葉を借りて、一つ宣言させてもらうぜ」


 手にした剣の切っ先をアビスに向け、闘志を漲らせるユーゴ。

 銀河に瞬く星々のような輝きを放つ剣たちを背負いながら、彼はこの島にいる全ての人々の想いをも背負いながら叫んだ。


「アビス……てめえが手掛ける馬鹿げた舞台はここまでだ。物語の結末は、俺たちが決める!!」


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