解き放て!心と力をクロスさせて!

「マキシマムエックス・クリティカルパァァンチッ!!」


「ぐぼあぁっ!? がはっ! がふっ! ぐっ、ば、馬鹿な……! こんな、馬鹿なことが……!?」


 再び一人に戻ったユーゴが自身の右腕部を丸太のような太さに変形させ、さらに拳もそれに見合った巨大なサイズにしながらアビスを殴り飛ばす。

 ただ殴られただけではない芯から響くような痛みに悶絶しながら立ち上がったアビスは、完全に余裕を失った様子で自身の天敵と化したユーゴに向かって吠えた。


「なんなんだ、お前は……!? 【Word】の能力は無効化する! 意味のわからない攻撃を仕掛けてくる! お前のせいで何もかもが無茶苦茶だ! この私の、完璧なる脚本を乱す三流役者が! この世界の全ては、このコンダクター・アビスが支配するはずなのに……どうしてお前は私の舞台で勝手なアドリブをする!?」


「お前が支配する世界だ? そんなもん、どこにもねえよ。少なくとも、こうしてお前の言葉に左右されずに好き勝手に暴れてる俺がいる時点で、お前が世界を支配できてねえってことだ!」


「黙れっっ!! 全ては私の脚本通りになるんだ! 人々の感情も、未来も、絶望も! コンダクターたる私が支配する――ぐえっ!?」


 発狂して叫ぶアビスへと、ユーゴが今度はドロップキックを叩き込む。

 先ほどから彼にいいようにやられているアビスが苛立ちに地面へと拳を叩き付ける中、そんな彼を睨むユーゴが叫んだ。


「アビス! お前が支配していいものなんて、この世界のどこにもない!! この島に生きるものたち全ての命も、未来も、想いだって……お前の自由にしていいものなんか何一つだって存在してないんだ!」


「違う! 私は選ばれし存在だ! この世界を支配し、滅ぼし、最高のディストピアでありユートピアできる権利がある! だから、だから……お前たち箱庭の住民は、私に支配されるべきなんだよっ!!」


「……お前はさっき、俺になんなんだって聞いてきたよな? その質問に答えてやるよ、アビス。俺は……世界の平和と人々の自由を守るために戦うヒーローだ! だから俺はお前を認めねえ! お前がこの世界に生きる人々の自由を奪おうっていうのなら、俺はそれを止めるためにお前を倒す!!」


「いい加減にうんざりだっ! お前の意味不明さも、その反吐が出るような考え方も、お前の存在そのものが不愉快だ!! 消えろ、ユーゴ・クレイ! 私の前からいなくなれっ!!」


 ギュオン、という低く唸るような音が響くと共に、アビスの指先に大量の魔力が収束していく。

 これまで何度も繰り出してきた、指先からの光線の威力を最大級にまで上昇させようとしているのだと……その光景を見たメルトたちが息を飲む中、アビスの真正面に立つユーゴは小さく息を吐きながら拳を握り締める。


「この世界からいなくなるのはお前の方だ、アビス。この世界は、お前が自由にしていい箱庭なんかじゃない。お前の支配者気取りもここまでだ!」


 握り締めた右拳を心臓を叩くように左胸の前にかざしたユーゴが、叫びながら大きく腕を振る。

 その瞬間、彼の胸にX型の光が眩く輝き……周囲には電脳空間を思わせる青白い光が瞬き始めた。


「ほざくなっ! 消えろっ! ユーゴ・クレイィィッ!!」


「イィィィッ、シャァァァァ……ッ!!」


 これまでより太く、色の濃い光線が迫ったとしても、ユーゴは焦らない。

 深く腰を落とし、大きく両腕を振りながら体を捻り、周囲を取り囲む輝きと体内の魔力を膨れ上がらせていく。


 足元の地面から両脚へ、腰へ、胸へ、と駆け上ってきた魔力が両腕へと到達し、強い光を放った瞬間、兜の下で目を開いたユーゴはアビスに向けて両腕をクロスすると、全てを解き放った。


「ザナディウム・ブラスタァァァァッ!!」


「なっ!? なにぃいっっ!?」


 自分の光線に対して、同じく光線技で対抗してきたユーゴに驚きを隠せなかったアビスが思わず叫び声をあげる。

 魔力を最大級に溜め、圧縮した自分の光線とぶつかり合ったX型の光線は、一瞬だけ停滞を見せたが……即座にそれを押し込み、こちら側へと近付いてきた。


「ばっ、馬鹿なっ! こんなことが……っ! こんなっ、馬鹿なことがっ!?」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!」


 どれだけ必死に魔力を込め、押し返そうとしても……それ以上の気合いを込めたユーゴが放つ光の奔流が、自分の光線を押し込んでくる。

 言い訳のしようもないくらいに自分が圧倒されているという現実に直面したアビスがそれを受け入れられずにいる中、最大級の激しさと勢いを持ったユーゴの光線がついに彼の光線を完全に押し切り、アビスの体にぶち当たった。


「がっ!? ぐあああああああああああっ!!」


 光線の勢いに、威力に、体が浮く。そのまま光の奔流に押し込まれ、背後の壁に叩きつけられる。

 痛みに、熱さに、苦し気な呻きを上げながらも憎しみを込めた視線をユーゴへと向け、腕を伸ばしたアビスは、瞳から強い光を放ちながら唸った。


「まだ、だ……! まだ、私は終わらない……! 私は――ぐおおおおおおおっ!!」


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