Xブラスタのひみつ!

「あははははははっ! 最高だよ、マイヒーロー!! まさか、ここまでの活躍を見せてもらえるだなんて……! やっぱり君は最高だ!!」


 そんなアビスを遠く離れた位置から見守っていたロストが、手を叩いて歓喜する。

 お気に入りのヒーローの活躍を子供のようにはしゃぎながら彼が見守る中、一緒にユーゴとアビスの戦いを観戦していたドロップが不思議そうに呟いた。


「なにあれ? どういうこと? どうしてアビスの【Word】の効果が発動しないわけ? 確かにヒーローくんは意味不明なことをやってるけど、結局はアビスがクリアプレートの力で無効にしてきた射撃とか斬撃を繰り出してるじゃない」


 増えたり剣になったり意味のわからないことばかりしているユーゴの戦いぶりに翻弄されがちだが、彼は結局、最終的には剣での攻撃や格闘といった普通の攻撃をアビスへと繰り出している。

 しかし、それならば全てのクリアプレートの頂点に立つ【Word】の能力が勝り、ユーゴの攻撃は無効化されるはずだ。


 そもそも、Xブラスタなる新形態が登場する前の状態から、ユーゴはアビスの能力を無効化していた。

 あの現象はどうして起きているのかと疑問を抱いたドロップへと、ロストが楽し気に声を弾ませながら言う。


「いいところに気付いたね、ドロップ! あれこそが【X】のクリアプレートの力なんだよ!」


「ん? どういうこと? ヒーローくんが知ってる、Xに関係のあるヒーローの力を発動させられるって能力じゃないの?」


「それもあるけど、あのクリアプレートの本当の力は別のところにある。ある意味では、アビスはマイヒーローの真の能力が何なのかを理解しているんだよ」


 ここまでの戦いを見ていたドロップには、ユーゴが得たのは【X】という単語に関係のあるヒーローの力をイメージによって引き出す能力だと思っていたのだが……ロストによれば、それはあくまで副次的なものでしかないようだ。

 【X】のクリアプレートの真の能力とは何なのかと視線で尋ねてくる彼女へと、ロストはこう答える。


「正体不明の人物を『ミスターX』と名付けたり、未解決事件を『Xファイル』と呼称したり、正確にわかっていない数値を『X』と仮称したり……この【X】というアルファベットには、それ単体でという意味がある。マイヒーローが引き出したのはその能力さ。ここまで言えば、君にもわかるだろう?」


「……ヒーローくんは今、【X】のクリアプレートの力で存在そのものが『未知なるもの』になっている。だから、誰も理解できない。理解できないものはイメージができない。イメージできないものには……【Word】の能力は適用されない。つまり、アビスにとって今のヒーローくんは、と呼べる存在なんだ……!!」


 正解、とドロップが出した結論を笑顔で肯定したロストが再び戦いを観戦していく。

 イメージが追い付かない存在と化したユーゴという天敵と遭遇し、徐々に追い詰められていくアビスの姿を楽し気に見守る彼へと、ドロップは驚きをあらわにしながら問いかけた。


「あんた、こうなるってわかってたの? ヒーローくんがアビスをピンポイントでメタる能力に目覚めるって……!」


「ん~? いいや、確証はなかったよ。ただ、なんとな~くそんな気はしてたけどね」


 自ら計画の実行に乗り出したアビスに対して、「不確定要素が存在している」ことや「足元を掬われるかもしれない」とロストが言っていたことを想いだしたドロップがそのことも踏まえてこの展開を読んでいたのかと問いかければ、彼は呑気な声で否定気味な返答をしてきた。

 その後、彼女の方を見ないまま、ロストはどうしてそう考えたのかという理由を話していく。


「私的にはマイヒーローは【Hero】の力を得ると思っていたんだよ。だけど、【H】のクリアプレートは彼以上に相性がいいとは思えないような人物の手に渡った。どうしてそうなったかって考えた結果、マイヒーローは【H】以上に相性のいいクリアプレートに選ばれてたんじゃないかなって思ったんだよ。それが【X】のプレートだとか、アビスの天敵と成り得る能力になるだとかはわからなかったし、ここまで面白くなるとは思ってもみなかったしね」


 薄々は感づいていたが、最後のクリアプレートの在りかもその能力もわかってはいなかったというロストの発言にドロップが納得したように頷く。

 確かに、こんな出来過ぎた脚本みたいな展開は逆に想像できないかと考えた彼女は、ロストの話を引用しつつこう述べた。


「でも、確かに納得できちゃうかもね。『未知・理解不能・未知数』だとか、ヒーローくんにぴったりの能力じゃん」


「そうだねぇ……! その未知の存在の力を予測できなかった結果、こうしてアビスの計画が狂い始めているのを見ていると、特にそう思うよ」


 アビスは味方ではあるが、仲間ではない。彼の計画が成功するよりもお気に入りのヒーローが活躍してくれた方が嬉しいロストは、自分の想像をいい方向で越えていく展開にご満悦だ。

 ユーゴに追い詰められていくアビスを愉悦に満ちた瞳で見つめながら、実に楽しそうで邪悪な笑みを浮かべたロストは、彼に向けて小さな声で言った。


「だから言ったのに。ユーゴの意思と爆発力を舐めない方がいいって……最後まで諦めないヒーローの底力を見誤ったんだ。これは全て君のミスだよ、アビス」

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