大活躍!劇場版限定フォーム!

「わからないで済むかっ! さっきからお前は何をやっている!? どんな力を使っているんだ!?」


 意味不明かつ理解不能な力を行使して戦い続けるユーゴは、メルトたちからすれば心強い存在なのだろうが……彼に追い詰められているアビスからすれば堪ったものではない。

 クリアプレートの力をどんなイメージによって引き出しているのか? それが全くわからないでいるアビスは、ユーゴに圧倒されっぱなしな状況に危機感を募らせながら叫ぶ。


 剣になった直後に鎧と融合したかと思えば、今度は熟練の剣士のような戦いぶりを見せて華麗な剣技を繰り出してくるし、先ほどまでの棍術と武器変形を駆使した戦い方とは違う戦法に対応するのですら困難なのに、そこに相手の能力を突き止めるという作業まで加わるのだから、アビスの負担とストレスは半端なものではなかった。


(お、落ち着け! こいつの能力はわからずとも、こいつ自身の情報については調べてある! おそらく、何らかのヒーローの力を用いて戦っているに違いない! ならば――!!)


 作戦変更。まずは時間を稼ぐことを優先して考えることにしたアビスが、呉井雄吾としての過去を持つユーゴの思考から相手の能力のアタリをつける。

 詳しくはわからないが、間違いなくユーゴは彼が知っているヒーローの力をイメージして戦いに活用している。

 ならば、ざっくりとした【Hero】としての力を【Word】の能力で封じれば、完全な無効化はできずとも攻撃の威力を軽減することくらいはできるはずだ。


 それで持久戦に持ち込めばユーゴの能力も判別しやすくなるし、【フィナーレ】の起動準備も整うはず……と、時間をかけて戦うことで有利を握ろうとしたアビスは、早速【Word】の能力を発動する。


「ユーゴ・クレイ! 貴様が持つ【Hero】の力を無効化させてもらった! これでお前の戦法は封じた! さあ、今度はこっちの番です!」


 少しでも動揺を誘うべくそう叫びながら、ユーゴへと攻撃を繰り出すアビス。

 武器である剣を弾いた後で続けて叩き込まれたその一撃は確かに彼の体を捉えたように見えたのだが……ユーゴは、アクロバティックな動きでアビスの攻撃を回避すると、いつの間にか生成していたボウガンでのカウンターを仕掛けてみせた。


「何っ!? ぐあっ!!」


「残念。今の俺はヒーローっていうより……さ!」


 ボウガンによる銃撃でアビスを怯ませた後、ソバットで彼を蹴り飛ばしたユーゴが吠える。

 カラフルだった鎧が今度は金色に輝いている様を目にしたアビスがまたしても戦い方を変えたユーゴに対して苛立ちを募らせるも、即座に対応すべく【Word】の能力を再発動した。


「ならば、今度は【Police】の能力も封じ――!?」


 意味がわからないが、相手が警察官だというのならばその能力を封じればいい。

 後手後手に回りながらも対応策を打とうとしたアビスは、ユーゴが被弾を恐れずに自分の懐に飛び込んできたことに驚き、目を丸くする。


 至近距離からボウガンを構えた彼の鎧が再び銀色に戻り、代わりにその両肩に金色の砲門が作られていく中……引き金を引く寸前、ユーゴは不敵に笑いながらアビスへと言った。


「悪いな。だ。『スペリオルエックス・ぶっ飛んじまえシュート』ッッ!!」


「ぐああああああっ!?」


 ユーゴが手にしているボウガンと、両肩の砲門から発射された魔力弾を至近距離から叩き込まれたアビスが悲鳴を上げながら吹き飛ぶ。

 爆炎に巻かれながら地べたを転がり、痛みに呻きながら首を振った彼は、何もかもに困惑していた。


(ひ、ヒーローの力じゃあないのか? そもそも、あんな動きをする警察官や両肩に砲門を取り付けた怪盗がどの世界にいるっていうんだ!?)


 呻き、立ち上がり、意味不明な攻撃方法とユーゴの力に心の中で悪態を吐くアビス。

 顔を上げ、追撃に来ているであろうユーゴを迎撃しようとした彼は、直後に自分の目と耳を疑った。


「「よっしゃ! 行くぜ~っ!」」


「……は?」


 威勢のいい雄叫びを上げてユーゴがこちらへと突っ込んでくるその光景は、アビスの想像していた通りのものであった。

 ただ……どう考えてもおかしいのが、叫んだユーゴの声が二重にダブって聞こえてくることだ。


 いや、声が重なっていただけではない。アビスの目には、それぞれ白銀と黒鉄の鎧を纏った二人のユーゴがこちらへと突っ込んでくる光景が見えている。

 

「俺がお前で、お前も俺で! 俺たち二人でダブルエックスだ!」


「行くぜ、俺! 『ダブルブラスター・キック』!!」


「は、ははは、はははははは……!」


 息ぴったりの連携攻撃を繰り出してきた二人のユーゴに蹴り飛ばされたアビスは、もう笑うしかなかった。

 高速武器生成&変形からの電気攻撃からの武器への意識移行からの鎧と合体しての熟練の剣技からのアクロバティックな銃撃からのゴリ押し気味の大火力砲撃からの分身……これら全てが、ユーゴが手にした【X】のクリアプレートの力によって生み出されている。


 だが、どの言葉がこの戦い方を可能にしているのかがアビスにはわからなかった。

 というより、もう彼にはユーゴという存在が完全に理解できなくなっていた。


「わ、わからない……わからない……!!」


 ほんの数分前までのコンダクターとしての余裕はどこへやら、完全なる小者に成り下がったアビスが引き攣った表情を浮かべながら呻く。

 次にユーゴが何をしてくるのか? もはや、相手の能力に対する考察すら忘れて理解不能な存在と化した彼への恐怖しか感じていないアビスが、半狂乱になって叫ぶ。


「わからないぃぃぃぃっ! こいつの能力が、こいつ自身が何なのか、私でも全くわからないぃぃぃぃぃっ!!」


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