「大変身!!」

 自分が得た力を理解したユーゴが、それとブラスタの力を組み合わせた変身を披露する。

 美しい銀の光が広がり、収まった後……その場に立つ彼の姿を目にした一同は、驚きに息を飲んだ。


「バッテン型の傷……つまり、そういうことだったんだな。それが俺を選んだクリアプレートの文字だったんだ」


「それは……! その、姿は……!?」


「【Xブラスタ】! お前を倒し、このウインドアイランドを救うための力だ!」


 普段の漆黒に染められた黒鉄とは違う、白銀の装甲。

 所々に元のブラスタの色合いが残ってはいるが、大きく印象が変わったその姿にアビスだけでなくマルコスたちも驚きの感情を見せている。


 手足に埋め込まれた魔力結晶や、それを辿るラインも変化はしていない。

 色以外に大きな変化があるとすれば、その顔面に刻まれたアルファベットくらいのものだろう。


 眼の上部分と、口周りのマスクを縁取るように埋め込まれた大きなパーツが、一つの文字を浮かび上がらせている。

 交差した線と線、その左右で紅に輝く瞳を目にしたアビスは、目の前の光景が信じられないとばかりに呻いた。


「馬鹿な……!? 魔道具とクリアプレートを合成させ、進化させたとでもいうのか? この土壇場で、そんな奇跡が起きるはずが……!?」


「お前の勝手な常識でヒーローを語るな。むしろ、土壇場で奇跡を起こすのがヒーローってもんなんだよ」


 ぐっ、と立てた親指で自分を指差しながらユーゴが言う。

 仲間たちと宿敵の視線が突き刺さる中、奇跡を起こした彼は不敵に笑った後で口を開く。


「まさか、夏の劇場版限定フォームが作れちまうだなんて……この部分に関してはアビスに感謝だな!」


「ふざけるな! 何が【Xブラスタ】だ!! 私の【Word】こそ全てのクリアプレートの頂点に立つ存在! たかだか一枚だけのプレートの力で、その優位が覆されて堪るか!!」


「お前がそう思うのは勝手だが、現実を見ろよ。さっきから、お前の能力は俺に通用してないだろ?」


「ぐっ、ううっ……!!」


 アビスの言う通り、これは本来絶対にあり得ないことであった。

 仮に他のクリアプレートが驚異的な能力を得ていようと、【Word】はその能力そのものを無効化できる。つまり、クリアプレートの使用者は絶対にアビスには敵わないのである。


 しかし、ユーゴはそのあり得ない現象を引き起こしてみせた。

 全てを無効化できるはずの【Word】が、あべこべにその能力を無効化されている状況にアビスが焦りを募らせる中、棍を生成したユーゴがそれを構えながら吠える。


「行くぜっ、アビスっっ!!」


「っっ!!」


 跳躍、からの棍での一撃。

 頭上から振り下ろされたそれを慌てて腕で防いだアビスは、やはり攻撃が無効化されずに自分の体に当たったことに動揺を深める。


(馬鹿な! 武器による打撃も無効化しているはずだぞ!? それなのに、どうして……!?)


 鈍い痛みが腕に響き、思わずガードを下げてしまうアビス。

 彼が動揺によって思考を停止させる中、やや短めにした根を片手で二度振るったユーゴが、その体にX型の斬撃を叩き込む。


「『X・スラッシュ』!!」


「ぐあああっ!」


 叩き込まれた斬撃に鋭い痛みを味わったアビスが悲鳴を浴びながらよろめく。

 斬撃は確かに無効にしたし、先ほどまでも防げていたはずなのにどうして……? と困惑する彼へと一歩踏み込んだユーゴは、そのまま手にしている棍の先端を相手に向けると次なる攻撃を繰り出した。


「『Xロッド・ロングポール』!」


「んなっ!? がはぁっ!?」


 刺突のような構えを見せつつも、腕を伸ばすのではなく如意棒のように棍そのものを勢いよく伸ばすことで疑似的な突きの攻撃を繰り出してみせたユーゴの作戦によって、腹を打たれたアビスが体を折り曲げて叫ぶ。

 久しく感じていなかった痛みに跪き、背後にあった城の壁に叩きつけられた彼は、必死に冷静さを取り戻そうとしていた。


(か、考えろ、考えるんだ! 今はあいつに良いようにされているが、能力の正体さえわかってしまえば私の勝ちだ! 考えるんだ! 奴が使っている、【X】から始まる言葉を!!)


 ユーゴがどんな力を使おうとも、【Word】の力があればその能力を無効化できる。

 彼のクリアプレートが生み出した力の正体さえわかれば、この逆境も十分に撥ね退けられるはずだ。


 今はダメージを負ってもいい、ユーゴの能力を見極めることに全力を注ぐ……! そう決意したアビスであったが――?


「うおおおおおおっ! 『Xロープ・電気ショック』! 『ロングポール・ストライク』! 『X・スラァァッシュッ』!!」


 雄叫びと共に棍が変形して生み出されたロープが自分を拘束し、電撃を浴びせられる。

 怯んだところをいつの間にやらまた変形させた長い棍によって滅多打ちにされ、またしても変形させた武器によって斬り刻まれる。


 変質でもない。電気でもない。格闘術でもない。Xというアルファベットから始まる言葉の中に、これら全ての力を含むものなど存在していない。

 考えれば考えるほどにユーゴの力の正体がわからなくなってきたアビスは、その苛立ちを爆発させると共に指先に溜めた魔力を解き放った。


「この、三流役者がっ!! 私の脚本を乱すなぁぁっ!!」


「うっっ!」


「ゆっ、ユーゴッ!?」


 攻撃を繰り出さんと武器を振り上げていたユーゴの隙を突き、繰り出された光線が彼の胸を貫く。

 彼の体をブラスタごと貫通した攻撃によって、ユーゴが動きを止めたことを見て取ったアビスは勝利を確信し、笑みを浮かべたのだが……?


「ぐあっ!? な、なんだ? 武器だと……?」


 その体を叩き斬る一撃を受けたアビスが、驚きに顔を上げる。

 そうすれば、ユーゴが手にしていた武器が地面をバウンドし、また宙へと跳ねる様が目に映った。


 先ほど、彼が攻撃をしようとしていたところを狙い撃ったから、残っていた勢いのままに手の中から滑り落ちたのかと……これがユーゴの最後の反撃かと自分を倒すまでに至らなかった一撃の威力にほくそ笑んだアビスであったが、その目に信じられない光景が飛び込んでくる。


「は? おい、待て。どうしてまた武器が戻って……っ!?」


 なんと、地面をバウンドした武器が剣へと姿を変え、再びアビスに向かって飛んできたのだ。

 どう考えてもあり得ない動きをしたその剣にまたしても体を斬られたアビスが困惑し呻く中、またまたあり得ないことが起きる。


「油断大敵だぜ、アビスっ! 俺の動きを見切れるかっ!?」


「そ、その声は……ユーゴ・クレイだと!? 何故剣からお前の声が!?」


 先ほど、自分の攻撃に体を貫かれたユーゴの声が剣から聞こえてきたことに驚きを隠せなかったアビスが放置されているブラスタへと視線を向ければ……空いた穴の中に、ユーゴの肉体が残ってないことに気付いた。

 まさかあの鎧はブラフで、ユーゴの本体はこっちの剣にあるのか? というあり得ないがそうとしか思えない現象に驚くしかない彼が目を見開く中、放置されていたブラスタの下へと戻ったユーゴがそれと合体し、白銀の鎧に色彩を与えながら合体してみせる。


「よっしゃあ! フルカラーで参上だっ!! 行くぜ行くぜ行くぜ~っ!」


「……なあ? 今、ユーゴの奴、アビスにぶち抜かれたよな?」


「その後、剣になって飛んでいったかと思えば、戻ってきて目がちかちかするような鎧を纏って元気に突撃しに行ったでござるな……」


「こ、こう言っていいのかはわからないけど……理解が追い付かないわ。ユーゴはいったい、何をやっているの?」


 全ての色で戦う剣士と化したユーゴが、アビスを相手に巧みに斬撃を浴びせている様を見つめながら目を点にするアンヘルたち。

 そんな彼の活躍を見ていたメルトは、ぷっと噴き出すと……笑みを見せながら仲間たちへと言った。


「わかんない! わかんないけど……あれがユーゴなんだよ!」


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