諦めない気持ちが、突破口を生む!

「残念、属性や魔法に関しても同じです。あなたたちの攻撃は、何も私には届かない」


 四属性同時の魔法攻撃も、アビスには意味を成さなかった。

 炎も水も風も雷も、全てが彼を避けていく光景に舌打ちを鳴らす一同であったが、即座に攻撃方法を切り替える。


「なら、これでどう!?」


「ほう……?」


 ここまで攻撃を仕掛けていなかったメルトが、仲間たちが作ってくれた時間を使って練り上げた魔力を解放する。

 百を超えるであろう無数の紫の剣が自分を取り囲む様を目にしたアビスがその圧巻さに声を漏らす中、メルトは一気にその全てを彼へと差し向けた。


「【ソードストーム・フルハウス】ッッ!!」


 雨か、嵐か……紫の輝きを放つ魔力剣が次々とアビスへと襲い掛かる。

 並みの魔鎧獣ならば、避け切れぬ量と勢いを持つこの攻撃を前に全身ハリネズミのようになって息絶えるところであろうが……アビスはメルト渾身の攻撃すらも意に介さず、剣の雨の中を悠々と歩いてみせた。


「一生懸命頑張っているところ申し訳ありませんが、無意味ですよ。全身くまなく攻撃して、剣が通るところを見つけ出そうとする考えと気概は評価しますが……む?」


 キンキンキン、と音を響かせながら自分の周囲で砕け散る魔力剣を見ながらメルトへと語りかけたアビスであったが、その最中に地面が隆起し、水が噴き出してきたことに驚いて足を止めた。

 真下から迫る間欠泉のような水鉄砲へと視線を向ける彼の姿に、ユーゴたちはこの不意打ちは通るのではないかと期待を募らせるも……残念ながら、その水すらも搔き消されてしまう。


 ……いや、消えたのは真下から迫っていた水だけではない。それを隠れ蓑として頭上から迫っていたセツナの風の矢もだ。

 メルトの魔力剣を囮に繰り出されたサクラの水の一撃。それをさらに囮として直撃を狙ったセツナの一射も、おそらくはアビスが知覚していないというのに彼に当たらなかった。


「これは、これは……! 正直、驚きました。まさかあなたたちがここまで策を練ってくるとは思いませんでしたよ。ただまあ、全部無意味なんですけどね」


「本当に無意味かしら? 少なくとも、ここまでの攻防の間にあなたの能力についての情報は集まりつつあるわよ?」


「だからなんです? 私の【Word】を突破する方法なんて見つからないでしょう? 頑張って情報を集めた結果、あなたたちは私に勝てないという事実を認めるしかなくなるだけ……あなたたちが足掻けば足掻くほど、絶望は近付いていくんですよ」


 ニヤリと、口元を歪めて邪悪な笑みを浮かべながらアビスが言う。

 腹立たしいが、彼の言っていることは決して的外れというわけではない。


 物理、魔法両方で複数のバリエーションを持つ攻撃を叩き込み、四方八方から攻撃が通る場所を探すように仕掛け、さらにそれを隠れ蓑にした不意打ちを繰り出したが……その全てがアビスに当たることはなかった。


 アビスが意識していなくても攻撃は防げるし、先ほどからやっているような攻撃方法を声に出さずとも全自動で【Word】の能力は発動する。

 知れば知るほどに絶望的なまでの能力が露わになっていく展開であったが、その中でマルコスは猛烈な違和感を覚えていた。


(声に出さずとも攻撃を防げるというのなら、どうしてさっきは声に出した? 何故、アビスはそんな無意味な行動を……いや、違う。そうじゃない。この違和感は、それ以前の段階にあるものだ。違和感の正体はなんだ!?)


 今、見たように何もせずとも相手の攻撃を防げるというのならば、どうして最初にアビスはわざわざ声に出して自分たちの攻撃を無効化したのだろうか?

 初期設定として声に出す必要があったのかもしれないと考えたが、彼が言っていない攻撃方法も全自動で防がれている。


 シアンたちと戦った時にその攻撃を無効にする設定をしたのかもしれないと考えたが、それならば逆にその戦いの中でも普通に繰り出されていたはずのパンチや斬撃といった攻撃を再び無効にするために声に出したのはおかしい。


 この妙な現象に困惑するマルコスであったが、少し前から感じている違和感はそれより前の段階にあるものだと感じ取っている彼は、こんがらがった糸のようになっている思考をどうにかすべく、必死に頭を働かせている。

 ユーゴもまた、【Word】の突破口を見出そうと懸命に知識を総動員する中、ついにアビスが攻撃を開始した。


「さあ、そろそろいいでしょう。あなたたちに付き合うのも飽きてきた頃ですしね!」


「っっ!?」


「きゃっ、きゃあああっ!!」


 指先に魔力を集中させたアビスが、それをレーザーのような鋭い光として放つ。

 咄嗟に回避した女子たちであったが、着弾地点で起きた爆発に体を煽られ、ジャンプしていたメルトはアビスの方へと吹き飛んでしまった。


「おっと! 興奮した観客が飛び込んでくるとは、面白い展開になりましたね」


「メルトっ!!」


 自分の方へと飛んでくるメルトを見たアビスが、両腕を広げて彼女を迎えるようなポーズを取る。

 余裕綽々の態度を見せ、自分など歯牙にもかけないといった様子のアビスを目にしたメルトは、明らかな挑発であるその反応に怒りを募らせながら拳を握り締めた。


「くっ! こんのぉ……っ! 舐めないでよねっ!」


「ふふふ……! かわいらしい反抗ですが、何をしても無意味ですよ」


 ユーゴの叫びが響く中、アビスへと吹き飛んでいくメルトが反骨精神を燃え上がらせる。

 アビスはそんな彼女の攻撃を敢えて待ち、それを無効化した上で反撃してやろうと考えていた。


(落下の勢いを乗せた攻撃。あるいは空中で魔力剣を生成してくるか……まあ、何をしても【Word】の能力の前では意味がありませんがね!)


 一切の防御姿勢を取らずに立ち尽くす彼は、次のメルトの攻撃をシミュレートしている。

 彼女がどんな攻撃を繰り出そうとも自分の能力の前には無効化されるだけだと信じ切っている彼であったが……その慢心が、ほんのわずかな隙となった。

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