全無効!驚異のチート能力!

 叫び、黒鉄の装甲を纏ったユーゴが同じく白と黒の魔鎧獣へと変身したアビスへと一直線に突っ込む。

 握り締めた拳を彼へと繰り出すユーゴであったが、その拳は相手に当たる寸前で妙な感覚と共に止まってしまった。


「なっ……!?」


「無駄ですよ。【殴るPunch】という攻撃は私には届かない」


 まるで拳とアビスとの間に見えない壁でもあるかのように攻撃が届かなくなったことに驚くユーゴ。

 しかし、だからといって攻めの手を緩めるつもりのない彼は、今度は回し蹴りを叩きこもうとしたのだが――


「それも無意味だ。【蹴るKick】も無効化済みですからね」


「ちっ! なんだ、これ……!?」


 再び、繰り出した蹴りが妙な壁のようなものに阻まれて止まってしまう。

 困惑するユーゴをアビスが楽し気に見つめる中、背後から大きな声が響いた。


「ユーゴ、退けっ! うおおおおおっ!!」


「せやああっ!!」


 その声に反応したユーゴが背後へと大きく飛び退けば、その左右から盾を構えたマルコスと薙刀を振り上げたサクラがアビスへと突っ込んでいった。

 それぞれの武器を振るい、アビスへと同時攻撃を仕掛ける二人であったが……それもまた彼に届くことはなく、奇妙な現象にマルコスもサクラも困惑しながら立ち尽くしてしまう。


「効いていない……? いや、そもそも届いてすらいないのか!?」


「この能力は、いったい……!?」


「ふふふふふ……! 素晴らしいでしょう? これが私のクリアプレート、【Word】の力です!」


 そう言いながらアビスが腕を振るい、マルコスとサクラを吹き飛ばす。

 何とか自分たちの武器でその攻撃を防いだ二人に代わって、今度はアンヘルとライハが攻撃を繰り出した。


「【技師七つ道具セブンス・ツール】、火吹きふいご!」


「これでどうですっ!? 雷龍の爪っ!」


 燃え盛る炎と空を切り裂く雷。二属性での攻撃を繰り出す二人であったが……アビスは、それもまた悠々と受けてみせる。

 炎は彼の体を避け、雷もまた左右に分かれてアビスへの直撃を避ける様を目にした二人が愕然とする中、その攻撃を隠れ蓑にしてメルトとセツナが仕掛けた。


「だったら、これでっ!」


「撃って撃って撃ちまくるっ!!」


 魔力剣を、風の矢を、雨あられのように降り注がせる。

 その攻撃によってアビスにダメージを与えようとする二人であったが……まるで見えない傘でもあるかのように放った攻撃全てが綺麗に彼を避け、アビスは全くの無傷のままに全ての攻撃を凌いでみせたではないか。


「俺たちの攻撃が、当たらない……!?」


「無効化って、どういう能力でござるか!?」


「ふっふっふっふっふ……!! いいですねぇ、その困惑の表情! 相手の実力と能力に愕然とし、自分たちとの差を感じると共に絶望が侵食していく様を見るのは、最高に楽しいですよ!」


 愉悦に声を弾ませたアビスがゆっくりと腕を上げ、指先をユーゴたちへと向ける。

 その先端に黒い魔力が集結する様を目にした一同がそれぞれの方向に飛び退けば、次の瞬間に細いレーザーが彼らが居た場所へと飛んできた。


「ふふっ、勘が良い。先ほど倒した英雄候補たちとはまるで格が違うようだ。しかしまあ、私の敵ではないんですけどね」


 そう言いながら、自分へと向かってくる魔力弾を一瞥したアビスがリラックスした様子で首を回す。

 ポキッ、という骨が鳴る音を響かせた彼は、攻撃されている雰囲気などまるで感じさせない様子で飛んできた魔力弾を雲散霧消させてみせた。


「これも駄目なのか? だったら――!」


「無駄無駄無駄。全部無駄ですよ。【Punch】も【Kick】も【Slash】も【Shoot】も、ぜ~んぶ無効になるよう設定してありますので。言葉を操る【Word】の力は、あなたたちの想像を絶するほどに強大なのです!」


 単純な打撃も、魔力を用いた遠距離攻撃も無効化された。

 ついさっき戦ったシアンのように、攻撃は当たるがダメージを無効化されるという次元ではない。そもそも、攻撃が当たらないのだ。


「おいおい……! 自分に対する攻撃を無効化する能力だって? 厄介が過ぎるだろうよ……!!」


「攻撃が効かないだけなら突破口を見出すこともできたかもしれません。だけど、そもそも当たらないとなると……!」


 当たるけど効かないのと、そもそも当たらないというのでは状況に天と地ほどの差がある。

 前者はダメージを蓄積させたり、弱点となる部位や属性を見つけ出せれば光明が見い出せるが、後者は自分たちだけでは状況を好転させられる可能性がかなり低い。


 あり得る逆転の可能性とすれば、アビスの魔力が切れ、変身や【Word】の能力が維持できなくなるくらいのものだが……期待するにはあまりにも薄い可能性だ。


 この状況をどうひっくり返すか……? 自分の知識を総動員して策を練ろうとしたユーゴは、そこでマルコスが何か妙な表情をしていることに気付いた。

 アビスの能力に圧倒されているわけでも、策を考えているような雰囲気でもない。なにか、自分でも形容し難い感覚に襲われている雰囲気の彼へと、ユーゴが声をかける。


「マルコス、どうかしたのか?」


「……いや、わからん。わからんのだが、何か……妙なんだ」


「妙って、何がだよ? アビスの能力のことか?」


「そうだ。私は今、猛烈な違和感を覚えている。しかし……その正体が何なのかがわからないんだ」


 一見、意味不明なマルコスの言葉。だが、ユーゴには彼が直感的に突破口となる何かを感じていることを察知した。

 この気付きが、自分たちの逆転のきっかけになるかもしれないとユーゴが考える中、女子たちがアビスへと再び攻撃を仕掛けていく。


――――――――――

最近、感想返信ができずに申し訳ありません。

本当に忙しくてなかなか余裕ができず、皆さんに返信できないのですが、ちゃんと読ませていただいてます。


色々と忙しくなっている理由を説明できる日が来ればいいなと思いつつ、もう少しお待ちいただけると幸いです。


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