始まる、ラストバトル

「リュウガ、大丈夫かな……? 誰か一緒に残った方が良かったんじゃ……?」


「平気さ、リュウガは負けねえ。俺たちを先に進ませてくれたあいつの想いに応えることを考えようぜ」


 ハウヴェント城内に突入したユーゴたちは、自分たちを先に進ませるためにシアンの相手を買って出たリュウガのことを心配しながら、【フィナーレ】を目指していた。


 このウインドアイランドを破壊する超兵器……その起動時間が来てしまえば全てが終わると理解している彼らは、何よりもまず兵器の破壊を優先しようとしている。

 無論、アビスたちの妨害は予想しているが、それでも自分たちがやらねばならないことやリュウガに託された役目を果たそうと走る一同は、やけに静かな場内に不安を覚えてもいた。


「……入口で待ち受けてシアンの他に、ウォズとトリンもいるはずだ。奴ら、どこに隠れている?」


「それと、アビスも。あいつらがこのままサクサク進ませてくれるとは思わない方がいいよね」


「………」


 残る敵陣営である三人を警戒するマルコスたちであったが、ユーゴにはその内の一人、トリンがこの場にいないことがわかっていた。

 みんなと合流する前にロストが足止めを買って出てくれたことを知っている彼は、二人がどうなったかを想像して口を閉ざす。


(どうなったかがはっきりわかるわけじゃねえ。ただ、ロストがアビスと同等の力を持っていると考えると――)


 おそらく、トリンはロストに倒されている。無論、ロストがトリンを見逃した可能性はあるが、これまでラッシュやネイドを始末してきた彼がわざわざトリンだけを助ける理由はないだろう。

 せめて、トリンが死んでいないことを望むユーゴであったが……今は目の前の問題を解決することを最優先にすべきだと考えを切り替えた。


「ユーゴ! 多分、【フィナーレ】はこの先だ! 馬鹿デカい魔力反応のせいで大概の探知機器が役に立たなくなってるが……逆にここまで強い反応なら、位置を肌で感じ取れる!」


「問題は、【フィナーレ】を無事に破壊できるかって部分ね。間違いなく何らかの防御魔法を仕掛けているでしょうし、それに――」


「残る兵力をそこに集中させている可能性が高いでござるな。各々方、気を引き締めてかかるでござるよ!」


 仲間たちからの報告を受け、頷くユーゴ。

 彼自身も強い魔力を感じ取り、この道の先に【フィナーレ】が設置されていることを感じ取る中、不意に足元が怪しい赤色に輝き始める。


「なっ、なんだっ!?」


「これは……転移魔方陣か!?」


 突然の事態に驚いたユーゴたちが叫んだ次の瞬間、赤い輝きが大きく膨らんだ。

 その光に飲まれた一同が顔を覆い、光が消え去ってから目を開けば……周囲の光景が変化していることに気付く。


「ここは……城の屋上か?」


「さっきの魔方陣でここに転移させられたってわけね。でも、ちょうどいいかもよ」


 どうやら自分たちはアビスが仕掛けたトラップに引っ掛かってしまったようだ。

 しかし、転移先の屋上の最上部には魔力で構成された緑色の光の球が禍々しく輝いており、あれが【フィナーレ】の弾丸であることを理解したユーゴたちは、近くに兵器の本体があることも同時に理解する。


 ただ、わざわざ敵が何の策もなく自分たちを【フィナーレ】のすぐ傍に転移させるはずがない。

 それもまた理解しているユーゴたちが警戒を強める中、ついに敵の首魁が姿を現した。


「ふふふふふ……! お待ちしてましたよ、無謀で愚かで矮小な抵抗者の皆さん」


「っっ……!!」


 ゆっくりと、空中から降りてくるアビスが邪悪な笑みを浮かべながらユーゴたちへと言う。

 屋上に着地し、大きく両腕を広げた彼は、まるで舞台俳優のような大袈裟な動きを見せながら話を続けた。


「あなたたちがここに来ることはわかっていました。諦めずに戦おうとするその勇気は称賛しますが……相手が悪い。この私、コンダクター・アビスが敵でさえなければ、奇跡だって起こせたかもしれないのに……残念ですね」


「何がコンダクターだ。ただの犯罪者が、気取ったことを言ってんじゃねえ!」


「ふふふ……っ! 私の芸術性が理解できないとは、なんとも残念な感性をしていらっしゃる。しかし、まあいいでしょう。どのみち、あなたたちはここで死ぬんですからね」


 そう言って不敵に笑うアビスを見つめながら、ユーゴは彼もまた自分と同じ転生者だというロストからの話を聞き、歯を食いしばった。

 どうしてこんなことをするのか? 狂った思考の犯罪者に問いかけても無駄だとは思うが、世界の平和を乱し、何の罪もない人々の命を危険に晒すアビスの行動は、決して看過することなどできない。


「アビス……お前が何者で、何を考えているかなんてどうだっていい。俺たちは、お前と【フィナーレ】を止める!」


「無理ですよ。あなたたちは私には勝てない。この【Word】の力を持つ、私にはね……!」


 そう言いながら、アビスが【W】の文字が刻印されたクリアプレートを取り出す。

 彼の敵意と魔力が膨れ上がったことを感じたユーゴたちが戦闘態勢を取る中、口の橋を歪めて愉快気に笑ったアビスが、弾んだ声で言った。


「では、始めましょうか……コンダクター・アビスが手掛ける舞台とこの世界の最終章。題して、『勇士の敗北』……最後の最後まで、オーディエンスを楽しませてくださいね?」


「この世界を終わらせたりなんかしないさ。止めてやるよ、俺たちがな……!」


 アビスがクリアプレートを体に突き刺す。ユーゴが拳を握り締め、腕輪に魔力を集中させる。

 白と紅の光が膨れ上がる中、ユーゴは嘲りの笑みを浮かべるアビスを真っすぐに見据えながら、ありったけの想いを込め、吠えた。


「変身っっ!!」


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