合流、ハウヴェント城前

「まったく! 数だけが取り柄の有象無象どもがうじゃうじゃと……!」


 一方、ハウヴェント城付近。アビスの根城に向かうマルコスたちは、そこで待ち構えていた大量の魔鎧獣たちとの戦いに臨んでいた。


 マルコスが叫ぶ通り、魔鎧獣一体の強さは大したことがないのだが……数が多過ぎる。

 彼も今、三体の魔鎧獣の突撃をギガシザースで防いでおり、敵は圧倒的な数の利を活かした攻撃を仕掛けてきていた。


「あ~っ! 邪魔だってば! 退いて退いてっ!」


「厄介な奴らだ! お前らに構ってる暇なんてないっていうのに……!」


 随分と倒したはずなのにまだまだ数がいる魔鎧獣たちを見つめながらメルトが魔力剣を飛ばし、アンヘルがハンマーを振るう。

 その攻撃でまた数体の魔鎧獣が消滅したが、それでも敵は次から次へと出現している。


「もうっ! どれだけの魔鎧獣が生み出されてるのよ!?」


「島の人たちがパニックになっているせいで、魔鎧獣が増え続けているのかも……!」


「くっ……! この先にはアビスやクリアプレートを手に入れたシアンたちが待ち受けている。できる限り消耗は避けたいというのに……!」


 事前にアビスが生み出していた個体も数多く存在しているのだろうが、最後の一枚となったクリアプレートを探し求める人々が生み出してしまった魔鎧獣もここには集まっているのだろう。

 それだけの人々が暴走し、争っていることや今も島中で多くの魔鎧獣が生み出されていることを理解し、状況が自分たちの想像を超えたマズいものになっていることもまた理解したマルコスたちが呻く中、彼らの背後から声が響いた。


「みんな、三つ数えたら跳んでくれ。一気に片付ける」


 その声に振り向いたマルコスたちは、刀を鞘に納めて居合の構えを取るリュウガの姿を目にして、動揺した。

 同時に、彼が何をしようとしているのかを先日のシージャック事件の際に見た光景を思い返すと共に理解した一行は、慌てて跳躍の構えを取る。


「三、二、一……!」


 カウントダウンの声が響く度、リュウガから発せられる魔力の量が増え、その鋭さが研ぎ澄まされていく。

 それを肌で感じ取ったマルコスたちが全力でジャンプした次の瞬間、目を開いたリュウガが鞘から愛刀を引き抜くと共に、横一線にそれを振るった。


「シッッ……!」


「ギャガッ……ッ!?」


 小さな息遣いの後、数十体はいた魔鎧獣たちの動きが一斉に止まる。

 その体に横一文字の線が刻まれていく中、仲間たちの着地と同時に【龍王牙】を鞘に納めたリュウガが響かせたキンッという音を合図に、魔鎧獣たちが一斉に消滅した。


「うわぁ……! 流石は海を叩き斬った一撃だね……!」


「ありがとうございます、リュウガさん。おかげで助かりました」


「……礼を言っている暇があったら、敵の根城に突入しろ。またいつ魔鎧獣が群れを成して襲ってくるかわからないんだからな」


 海を斬れるリュウガにとっては、この程度のことは朝飯前なのだろう。

 自分に感謝を述べるライハへと彼がぶっきらぼうに返事をしたところで、逆側の道からユーゴが手を振りながら走ってきた。


「お~い、みんな!」

 

「ユーゴ殿! 良かった、無事に合流できたでござるな!」


「心配はしていなかったけど、島の人たちを助けに行くなら私たちにも声をかけてくれれば良かったのに……」


「怪我はしてない? 私、回復魔法で治療するよ!」


「ああ、大丈夫だ。みんなの方こそ、無事で良かった」


 想像を絶する非常事態であるこの状況、無事に仲間たちが揃ったことをまずは安堵し、喜ぶユーゴ。

 そんな彼へと、マルコスが言う。


「フィーは今、教師たちと一緒にいる。ミザリーやヘックスが警備についているから、安全なはずだ」


「キャッスル先生が指揮を執ってくれてるしね! 今頃、船で島を脱出するために動いてるんじゃないかな?」


「そうか……なら、安心だな」


 信頼できる教師と仲間が一緒にいてくれるなら、弟の安全は保障されているはずだ。

 そのことを知って安堵するユーゴであったが、冷静なリュウガが口を開く。


「でも、アビスが【フィナーレ】を起動したら話は別だ。島全体が破壊されてしまえば、どこに居ようと関係ないからね」


「島の皆さんやルミナス学園のみんなを守るためにも、アビスを倒し、あの兵器を破壊しなくては……!」


 【フィナーレ】が起動する前にフィーたちが脱出できるかはわからないし、そもそも島民全員が船に乗って脱出することは時間的に不可能だろう。

 島から離れようとする人々に対して、アビスが何らかの手を打っている可能性もある。


 今、この島の人々全員を守るためには、アビスの撃破と【フィナーレ】の停止を絶対に成さなければならない。

 自分たちの目的を改めて確認するユーゴたちであったが、そんな彼らを馬鹿にするような声が響いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る