邪悪の白銀、再臨

「お前……っ!?」


 よく知った台詞を楽し気に言い放ったロストへと、ユーゴが信じられないといった表情を向ける。

 その反応に気を良くしたのか、ロストはさらに声を弾ませて言葉を続けた。


「いやぁ~! 一度言ってみたかったんだよね、この台詞! それにほら、劇場版でピンチになったヒーローを別のヒーローが助けに来るのはお約束だろう?」


「……お前はヒーローじゃあねえだろ」


「あははははっ! 確かに君の言う通りだ! でもまあ、今日は許してくれよ」


 至極冷静なツッコミを入れたユーゴは、それでも楽しそうに話すロストをじっと見つめる。

 トリンが放つ攻撃が作り出した岩の壁を破壊していく中、ユーゴは口にしかけた質問を改めてロストへと投げかけた。


「……どうしてお前は俺を助ける? お前はアビスの仲間なんだろ?」


「さっきも言ったけど、味方ではあるけど仲間ではないよ。個人的に彼はあまり好きではないし、君が彼と直接戦った方が面白そうだし、それに――」


 最初の質問の答えを繰り返しながら、ロストが笑みを浮かべる。

 邪悪さと純粋さを同居させた不思議な笑みを浮かべる彼は、ユーゴへとこう言った。


「私は君が好きなんだよ。個人的に応援してる。だから、ここで君の物語が終わってもらっちゃ困るんだ」


「………」


「ほら、行きなよ。友達が待ってるんだろう? 無粋な彼の相手は、私がしておくからさ」


 ひらひらと手を振って、自分を送り出そうとするロストを目を細めて見つめるユーゴ。

 彼の言う通り、仲間たちと合流しなければならない。トリンの相手は、ロストに任せた方が良さそうだ。


 完全に彼のことを信頼しているわけではないが故の不安はあったが……それでも踵を返し、ハウヴェント城へと向かおうとしていたユーゴは、不意に足を止めるとロストの方を向き、口を開く。


「……俺はお前がラッシュやネイドを利用したことも、他にも数多くの事件を起こしたことも許すつもりはねえ。だが……今日、この場に限っては、助けてくれたことに感謝するよ。ありがとな」


「……!!」


 予想外のユーゴの言葉に、ロストが驚きの反応を見せる。

 それだけを言い残して去っていったユーゴを見送り、彼の姿がちょうど見えなくなったところで……壁が破壊され、その向こう側から魔鎧獣に変身したトリンが姿を現した。


「あぁ? ユーゴはどこに行った? 逃げたのか?」


「……ふふっ! はははははっ! 私はなんて幸せ者なんだ! まさか、彼と直接会話できただけじゃなく、お礼まで言ってもらえるだなんて……! 私は今、最高に機嫌がいいんだ! 今すぐにどこかに消えてくれれば、見逃してあげなくもないよ?」


「はぁ……? 何言ってるの? っていうか、お前は誰だよ? 何者だ?」


 ユーゴと一緒にいたロストの存在に今さらながら気付いたトリンが、彼へと当然の疑問を投げかける。

 出会って早々、大笑いしながら意味の分からないことを言う彼を不思議に思うトリンであったが……質問を受け、笑うことを止めたロストは小さく息を吐いてからすっと相手へと向き直ってみせた。


「……逃げないってことは、そういう意味だって解釈していいんだよね? じゃあ、遠慮なく……消させてもらうよ」


 その声は楽しそうだったが、同時にどうしようもないほどの無邪気な残酷さがにじみ出ていた。

 魔鎧獣として、クリアプレートの力を得た者として、強い優越感を抱いていたトリンでさえ、ロストのその声を聞いた瞬間に底冷えするような寒さを感じて震える中、愉悦に口元を歪ませたロストが小さな声で呟く。


「――変身」


 その小さな呟きを合図に、ロストの体を黒い闇が取り囲む。

 渦巻く闇に包まれる彼を唖然としながら見つめていたトリンは、魔力が膨れ上がる共にその闇が弾ける様を目にし、その中から禍々しい銀色の何かが姿を現す様を見て、心臓を震わせる。


「……私が何者かだって? 見てわからないかな?」


 神々しさと邪悪さが同居した、銀色の戦士。

 思わず身震いしてしまいそうな恐ろしさを感じさせる姿へと変貌した相手を見つめるトリンへと、ロストは淡々とした声でこう告げた。


「私は――君の絶望だよ」


―――――――――――――――


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