ヒーローは助け合いでしょ?
「……そうか、それもそうだよな……」
不覚ながら、ユーゴはロストの言っていることに納得してしまった。
自分が大好きなあの映画の中でも、最後まで残ったラスト一本のアイテムは状況を逆転させるきっかけになった、文字通りの切り札だったはずだ。
あの映画をアビスが知っているとしたら、わざわざ相手に勝ち筋を残した状態で最後の計画を実行に移すわけがない。
もしくは、残された最後のクリアプレートを用いても自分には勝てないと高を括っているか……と考えたところで、ユーゴはまた別の疑問を抱く。
「……どうしてアビスは二十五枚しかクリアプレートを回収しなかったんだ? なんでラスト一枚だけを回収せずに動いた……?」
「おっと! いいところに目を付けたね! 色々理由があって、私的にも説明できない部分があるから多くは語れないが……理由の一つは、アビス自身の能力の限界ってところかな?」
警備隊に回収されていたものも含めて、アビスは二十五枚のクリアプレートを回収してから動いた。
ユーゴたちがまだ出会っていなかったクリアプレートの所有者たちからもそれを奪い取ってまで計画を実行したなら、もう少しだけ時間をかけて最後の一枚も回収してから動けば良かったはずだ。
どうしてそれをしなかったのかというユーゴの疑問を軽くはぐらかしながら、ロストはもう一歩踏み込んだ解説を行っていく。
「君たちがこの島に到着するのとほぼ同じタイミングで、アビスはクリアプレートをばら撒いた。クリアプレートは特性上、自分と最も相性のいい人間と運命によって引き合う。ここまではアビスも語っていたからわかるよね?」
「ああ、まあな」
「結構。ここからが君の知らない情報だが、アビスは起動したクリアプレートがどこにあるかを知ることができる。あいつが二十五枚のプレートを集められた理由がそれだ。つまり、逆に考えると――」
「最後のプレートは、まだ誰にも起動させられてないってことか」
ビンゴ、と言いながらユーゴを指差すロスト。
先に彼が言った、アビスの能力の限界とはそういうことかと納得するユーゴへと、ロストはさらに続ける。
「最後のクリアプレートはまだ誰にも起動されていない。だからアビスは位置を掴めず、回収を諦めることになった。時間をかけて探す必要もないと思ったんだろうし、そもそも彼には――いや、止めておこう。これはまだちょっと早い」
「……つまり、最後のクリアプレートの能力はアビスも知らないってことだな?」
「まあ、そうだね。でも、仮にどんな能力を持っていようとも関係ないってアビスは考えている。だからこそ、放置した上で最後の計画を実行したんだろうね」
総括するとそういうことだ。簡単に言えば、アビスは慢心している。何が起きようとも自分の脚本は揺るがないし、勝利もまた確実だと考えているのだろう。
そういう完璧主義者を気取った相手は、予想外の事態に弱い。敬愛するニチアサでもそれ以外の作品でも、似たような悪役はそういった弱点を抱えていた。
しかし、それでも……アビスの牙城を崩すだけの材料が自分たちにあるのかとユーゴが考える中、所持していた通信機からアンヘルの声が響いた。
『ユーゴ! 聞こえてるか!?』
「っっ!?」
反応しようとしたが、近くにいるロストの存在を察知されることを懸念して口を閉ざすユーゴ。
アンヘルは彼の反応がないことにも特に疑問は抱かなかったようで、一方的に話をした後で通信を切る。
『お前もそうしてるだろうが、アタシたちは今、アビスがいるハウヴェント城に向かってる! そこで合流しよう! じゃあ、後でな!』
「……どうやら、ここまでみたいだね。行きなよ、友達が待ってるんだろう?」
「………」
情報を整理するためのおしゃべりと自分ができる手助けはここまでだと、暗に告げたロストがハウヴェント城の方角を指差す。
そんな彼へと、ユーゴが最後に一つ質問しようとしたところで……第三者の叫びが響いた。
「見つけたぞ、ユーゴ!」
「っっ!?」
自分を呼ぶ声に驚いたユーゴは、こちら目掛けて飛んでくる黄金の光弾を目にして咄嗟に回避行動を取る。
ロストもまたその攻撃を避ける中、立ち上がった二人は自分たちを睨む金色の魔鎧獣の姿を目にして息を飲んだ。
「あいつは確か……トリンか!?」
「ははははは……っ! ようやく見つけた! これまでの恨み、ここで晴らしてやるっ!」
先ほど、映像の中で警備隊を倒していたトリンが自分の前に姿を現したことに驚くユーゴ。
そんな彼へと、トリンは再び光弾での攻撃を繰り出していく。
「くそっ! 相手をしてる暇なんてねえってのに……!」
攻撃を回避しながら、厄介な相手と出くわしてしまったことにユーゴが苛立ちがこもった呻きを漏らす。
ハウヴェント城に向かう仲間たちと合流しなければならないし、そうでなくともアビスが【フィナーレ】を起動するタイムリミットが迫っている今、ここでトリンの相手をしている時間はないと焦る彼であったが、不意にロストが口を開いた。
「はぁ……! 若干ルール違反になるだろうけど、仕方がないか」
そう言いながら彼が腕を振れば、光弾を防ぐようにして地面が隆起して岩の壁ができあがった。
さりとてこれでは数分も持たないだろうとユーゴが考える中、どこか楽し気な声でロストが言う。
「行きなよ、マイヒーロー。あいつの相手は、私が引き受けてあげるからさ」
「……!? 本気で言ってるのか、お前……!?」
「もちろんだとも。ほら、メダルの彼も言ってただろう? ヒーローは助け合いでしょ? ってさ」
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