まさかの協力者

「コンダクター・アビス……あいつが、この事件の黒幕……!」


 一方、暴れていた魔鎧獣を撃破したユーゴは、自分以外の人影が消えた市街地でアビスの演説を聞き、愕然としていた。

 クリアプレートを使った犯罪の黒幕であり、この大規模な犯罪を起こした張本人であると名乗りを上げたアビスには、聞きたいことが山ほどある。


 学園を退学になったはずのシアンが彼に与していたり、どうやってクリアプレートなどというアイテムを作り上げたのかなど、気になることは多くあった。

 しかし、今のユーゴが最も知りたがっているのは、アビスは自分と同じ転生者なのか? ということだ。


 この事件にそっくりな映画を、ユーゴは知っている。

 アビスはあの映画をモチーフにクリアプレートを作り上げ、こんな計画を立てたのかと……自分以外の転生者の存在を確かに感じ取ったユーゴが考えていた、その時だった。


「アビスのことが気になっているのかい?」


「っっ……!」


 どこかで聞いたことのある声が背後から響く。

 弾けるような動きで振り返ったユーゴは、こちらへと歩み寄ってくる黒フードの人物の姿を目にして、呻くようにして彼に言った。


「お前は、ロスト……!!」


「ああ! 私のことを覚えていてくれたんだね!? 嬉しいよ、マイヒーロー!」


「何の用だ? お前が、どうしてここに……!? まさか、あのアビスってのはお前の仲間なのか!?」


「まあ、落ち着いてくれ。私は君と争うためにここに来たんじゃあない。ほんのちょっとだけだが、君を助けに来たんだ」


 かつてラッシュとネイドをそそのかし、彼らを魔鎧獣にした黒幕……ロスト。

 一度顔を合わせただけだが、その存在を忘れられるはずもなかったユーゴは、この状況で彼と出会ったことに驚くと共に戦闘態勢を取る。


 しかし、ロストの方は欠片も敵対する様子を見せないどころか、完全に無防備な姿を曝け出していて……どうやら本当に敵意がないことを悟ったユーゴが油断せずに彼を睨む中、ロストは淡々と話をし始めた。


「さっきの君の質問だけどね。私とアビスは味方だが、仲間ではないよ。君の大好きなヒーロー番組でいえば、目的が一緒だから共闘はするが、決して仲間として馴れ合ったりはしない……みたいな感じさ」


「その口ぶり、やっぱりお前も――」


「うん。まあ、そうだよ。私もアビスも転生者さ。君と同じだね、呉井雄吾くん」


 フードから覗く口元をニヤリと歪めて笑いながらのロストの言葉に、ユーゴが小さく息を飲む。

 想像はしていた通りの答えが返ってきたことや、自分のかつての名前を呼ばれたことに驚きながらも再び彼を睨んだユーゴは、鋭い視線を向けながらロストを問い詰めていった。


「お前たちの目的は何なんだ? 人を魔鎧獣に変えたり、こんな事件を起こしたり……どうしてそんな真似をする!?」


「残念ながら、その質問には答えられない。そういうルールなんだ、悪いね」


「ふざけんな! これだけのことをしておいて、ルールがどうとか言える立場か!?」


 淡々と自分の質問への回答を拒んだロストへと、詰め寄ろうとするユーゴ。

 しかし、そんな彼へと手を伸ばしてその動きを制したロストは、怒りの炎を燃え上がらせるユーゴへと言う。


「君の怒りはご尤もだ。私を許せない気持ちは理解できる。だが、争っている場合かい? 私を殴る暇があったら、少しでも情報を引き出すために質問をした方がいいんじゃないかな?」


 どこか飄々としたその態度は頭にくるが、言っていることは間違っていない。

 ここで彼を殴り飛ばしたところで、アビスの計画を阻止できるわけではなさそうだし……と考えたユーゴは、一旦ロストへの怒りを抑えると、彼へと言う。


「……お前は知ってるのか? クリアプレートの最後の一枚がどこにあるのかを?」


「う~ん……残念ながらその答えはNOだ。アビスの計画についてはこっそりと調べて全容を把握はしているが、彼がばら撒いたクリアプレートがどこにあるのかまではわからないな」


「じゃあ、教えてくれ。どうやったらアビスを止められる? この島を吹っ飛ばそうとしているあいつの計画を阻止する方法は!?」


「方法は幾つか存在しているが、共通しているのはという部分だ。彼は入念に計画を進め、クリアプレートを使用した者たちから吸い上げた魔力で【フィナーレ】を起動した。アビスが無事でいる限りはあの超兵器を完全に破壊することはできない」


「だとしたら、やっぱり……最後の一枚が逆転の切り札になるはずだ……!」


「私もそう思うよ。ただ、その切り札を見つけ出すのはかなり困難だ。少なくとも、に落下してるってことはないだろうしね」


「……この状況で聞くことじゃないとは思うが、やっぱりお前やアビスもあの映画のことを知ってるのか?」


「ん? いや、私は一応知ってるレベルだよ。アビスは絶対に知らないだろうね。この状況があの映画の内容に似てるのは、ただの偶然さ」


 訝し気な視線を向けつつ、ロストへと地味に気になっていたことを尋ねるユーゴ。

 その質問を否定した後でも疑いの視線を向けてくる彼へと、ため息交じりにロストはこう伝える。


「考えてごらんよ。もしも仮にアビスがあの映画のことを知っていたとしたら、わざわざ相手に逆転の目を残した状態で最後の作戦を実行すると思うかい?」


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