同時刻、異常に対応する仲間たちは
――同時刻、ホテル。
ユーゴたちルミナス学園の生徒たちが宿泊先として使っているホテルは今、仮の避難場所になっていた。
人を受け入れられるスペースが多いことと、戦闘訓練を受けた魔導騎士の見習いたちを含む人員が多く揃っているこの場所は、確かに避難先としては的確だったのだろう。
突如出現した魔鎧獣に追われ、息を切らした人々が飛び込んでくる中、ホテルスタッフたちと共に避難民の誘導に当たっていたウノは、今しがた駆け込んできた親子連れと話をしていた。
「そうですか、我が校の生徒が……」
「はい。そちらの制服を着ていたので間違いないと思います。赤髪の少し目つきの悪い男子生徒さんに、私たちは助けていただきました。それで、ここに逃げるようにと他の人たちにも避難誘導を……」
目つきの悪い赤い髪の男子生徒と言われたウノには、それが誰であるかがすぐにわかった。
どうにもあの目立つ赤髪が見えないと思ったが、異変を察知して人々を助けるためにすぐに飛び出していったのだと、そのことを理解した彼は親子連れへとこう質問する。
「それで、その男子はその後どうしましたか?」
「……すいません。何分、逃げるのに必死で……最後に見た時には、魔鎧獣の軍団に立ち向かっていたと思いますが……」
彼らしい、と思うと共に無茶をする、と教師としての立場から思うウノ。
一人の若者を見殺しにしてしまったのではないかと不安そうな表情を浮かべる親子連れへと、彼は静かな威厳を醸し出しながら言った。
「ご安心を、我が校の生徒は簡単に倒されるような鍛え方はしていません。必ず、無事に帰ってきます」
「本当に? あのお兄ちゃん、やられちゃったりしない?」
「ああ、大丈夫だよ。あのお兄ちゃんは、とっても強い私の自慢の生徒だからね」
決して子供に好かれるような優しい顔立ちをしているとは言えないウノだが、それでも子供を安心させるように精一杯の笑顔を見せながらそう伝える。
そうした後、やって来たスタッフに連れられて奥へと案内された親子連れを見送った彼は、状況の異様さと深刻さに険しい表情を浮かべた。
(これはいったい何なのだ? 異様な事件が続いていることは報告されていたが、この状況は……)
クリアプレートという不可思議な魔道具と、それによって生み出される人間が変身した魔鎧獣の存在に関しては報告を受けていた。
しかし、ここまで大規模かつ全容が掴めない大犯罪が起きるだなんて、完全に想定外だ。
おそらくは黒幕とでも呼ぶべき人物が痺れを切らして最後の勝負に打って出たのだろうが、それにしても規模が大き過ぎる。
この状況下で自分はどう動くべきか……? とウノが考える中、数名の生徒たちが駆け寄り、彼に声をかけてきた。
「キャッスル先生、初等部の生徒たちの避難誘導は完了しました……二名を除いて、ですが」
「むっ……!?」
その声に反応して振り返ったウノは、初等部の生徒たちがそろっているかを確認するよう指示を出したリュウガやマルコスたちの姿を見て、小さく頷いた。
彼らに紛れてフィーとユイの姿があったが、兄たちを心配する弟妹の気持ちを理解できたウノはそれを咎めることはせず、生徒たちへと感謝を述べる。
「すまない、助かった。我々教師陣もこの通り、混乱への対処で手一杯だ。しかし、魔導騎士の精神を持つ者としては、この異常事態を傍観しているわけにもいかん」
「島民の避難はどうなっているのでしょうか? 他の避難場所の状況は?」
「いったい、何が起きているでござるか? いきなり大量の魔鎧獣が出現するとは、明らかに異常事態でござるよ」
「わかんないことだらけ、ってことだね……情報が足りな過ぎる」
島民も、生徒たちも、教師たちすらもパニックになる中、一同は何が起きているのかを知るための情報が足りな過ぎることに苛立ちを覚える。
突然の魔鎧獣の出現とここまでのクリアプレート犯罪にどういった関連性があるのか? その関係性すらも掴めないマルコスたちが困惑する中、【龍王牙】の状態を確認したリュウガが踵を返し、ホテルを出ていこうとした。
「りゅ、リュウガさん!? いったい、どこに行くつもりですか!?」
「……僕に答えのわかりきった質問をするな。ユーゴと合流し、暴れ回っている魔鎧獣どもを殲滅してくる」
慌てて声をかけてきたライハへと、淡々とそう答えるリュウガ。
足を止めた彼は、仲間たちへとこう続ける。
「既にユーゴは島の人々を逃がすために外で戦ってる。相棒だけに戦わせるわけにはいかないさ。ついでにこの島で何が起きているのかも調べるつもりだ。何かわかったら、報告する」
「待て! なら、私も一緒に――」
「ダメだ。この先、この島で何が起きるかわからない。もしもこのホテルが襲われた時、避難してきた人を守れるのは君を置いて他にいないだろう?」
「しかし――!」
ユーゴと合流し、島中で暴れ回っている魔鎧獣を叩くというリュウガが、仲間たちにホテルの守りを託す。
それでもまだ納得できない部分があるマルコスが、彼に何かを言おうとしたその時だった。
『……親愛なるウインドアイランドの皆さん、こんにちは。私の声が聞こえていますか?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます