掴み取れ、最後の切り札!ヒーローVSコンダクター!
大事件、勃発
「うわあああああっ!? 誰かっ! 誰かぁぁっ!」
「助けてっ! 助けてぇぇっ!」
ウインドアイランド市街地に、人々の悲鳴が響く。
泣き叫び、逃げ惑う彼らを追いかけるように、のっぺりとした白と黒の魔鎧獣が群れを成して島を闊歩していた。
目についた人間を襲い、叩きのめし、島を破壊して……恐怖を振りまくその怪物たちは、どこからともなく現れては暴虐の限りを尽くしている。
「あああっ!?」
「ら、ラナッ!?」
混乱の中、必死に逃げていた少女が足をもつれさせて転び、親が血相を変えて振り向く。
急いで我が子の下に駆け寄る母親であったが、その頃にはもう怪物たちが迫っていた。
「ガガガギガガ……ッ!」
「きゃあああああっ!」
拳を振り上げ、逃げ遅れた親子連れを襲おうとする怪物たち。
我が子を庇うように抱き締めながら顔を伏せ、悲鳴を上げる母親であったが、彼女たちに魔鎧獣の拳が届くよりも早く、何者かがその間に割って入った。
「ふんっ! せやあっ!」
「ガガッ!?」
親子を襲おうとする魔鎧獣を蹴り飛ばし、続いて迫る別個体の攻撃を受け止め、その腹に拳を叩き込む。
その物音に顔を上げた親子連れへと、怪物を撃退したユーゴが声をかける。
「大丈夫ですか!? 怪我は!?」
「だ、大丈夫です! 助かりました……!」
「ここは危険です! すぐに離れてください!」
感謝する親子連れに手を貸し、庇いながら避難を誘導するユーゴ。
他に逃げ遅れた人々を助けていた彼は、またしても迫ってきた魔鎧獣たちへと視線を向けると舌打ちを鳴らす。
「ちっ……! なんなんだよ、こいつら? いったいどこから湧いて出てきやがった!?」
悪の組織の戦闘員。あるいは、仮面舞踏会の力を得た量産型の怪人を思わせる姿をしている魔鎧獣たちからは、人間の知性というものが感じられない。
ただ命令のままに暴れ回るだけの怪物か、あるいは何らかの魔法で洗脳されて理性を失ってしまっているのか……詳しくはわからないが、人々を襲う怪物をこのままにしておくわけにいかないユーゴは、腕輪に魔力を込めてブラスタを展開する。
「変身っ!!」
紅の光を放ちながら、敵のど真ん中に着地。
同時に魔力を込めた拳を地面に叩きつければ、生み出された衝撃が周囲の量産型魔鎧獣たちを襲い、その体を宙に舞わせた。
「はっ! せやっ! おぉりゃあっ!!」
「ガガガッ!」
「グッ! グアッ!?」
続いて、駆け出した勢いのままに突っ込んだ先にいた敵を蹴り飛ばし、着地と共に手近なところにいた一体へと拳を叩き込む。
左フック、からの右アッパーのコンビネーションで的確に敵を無力化した後は、同時に迫っていた魔鎧獣へと回し蹴りを食らわせて接近を阻んだ。
「おらっ! こいつはちょっと痛てえぞっ!」
「ググウウウッ!」
背後から迫る魔鎧獣に裏拳を叩き込み、バランスを崩した相手を地面に叩き伏せるように上から拳を食らわせる。
バウンドした魔鎧獣を蹴り飛ばし、他の怪物たちを巻き込んでダメージを与えたユーゴが、次の相手に挑みかかろうとした時だった。
「グギャアアアアアッ!?」
「ガガガガアアッ!」
「うおっ!? あ、あいつらはっ!?」
突然、飛んできた炎に体を焼かれた量産型魔鎧獣たちが、悲鳴を上げながら爆発四散する。
その炎を回避し、顔を上げたユーゴが目にしたのは、シャンディアで倒したはずの二体のクリアプレート魔鎧獣であった。
「サイの魔鎧獣と、炎の女!? どうしてあいつらがここに!?」
クリアプレートを使ってあの魔鎧獣に変身したゲラスとレイナは、警備隊に逮捕されたはずだ。
二人はクリアプレートを使ったことによる副作用に苦しめられているとシェパードは言っていたし、そもそもクリアプレートも警備隊が厳重に保管しているはず。
だとするならば、あの二人がここにいるわけがない……と考えるユーゴへと、二体の魔鎧獣は雄叫びを上げて襲い掛かってきた。
「ウオオオオオオオオオオオオオッ!」
「グルルルルルルルルッッ!!」
「うおっとぉ!? この感じ、戦闘員の魔鎧獣と同じかっ!?」
先ほど、倒された量産型魔鎧獣たちと同じく、理性も何も感じられない言動を見せる二体の魔鎧獣の様子から、これがゲラスとレイナが変身した個体ではないと判断したユーゴがバックステップで距離を取る。
そうしながら魔力を全身へと巡らせた彼は、着地と共にブラスタを別の形態へと変化させていた。
「超変身! 【蒼炎の鎧】!!」
機敏な動きが得意な【青の鎧】と、超加速戦闘を可能にする【炎の鎧】。この二つの鎧を【紫炎の鎧】のように同時に発動させることで完成する新たな形態、【蒼炎の鎧】を発現させたユーゴがその背に青い炎を揺らめかせながら武器である棍を構える。
「今さら帰ってきて活躍できると思うなよ、再生怪人共っ! 全員まとめてぶっ飛ばしてやらぁっ!」
構えた棍の両端から青い炎を噴き出させるユーゴが、それを真横に構える。
限界ギリギリまで火力を高め、それを一気に開放して爆発的な加速を生み出した彼は、目にも止まらない動きで二体の魔鎧獣を含む怪物軍団を跳ね飛ばし、一気に撃滅してみせた。
「コバルト・ブランディング!」
「グギャアアアアアアアアアアッ!」
宙を舞った魔鎧獣たちの悲鳴が何重にも重なって響き渡る。
蒼炎に巻かれた彼らが次々と空中で爆発する中、魔鎧獣の姿が消えたことを確認したユーゴが変身を解除すると共に呟く。
「今の魔鎧獣たちには変身者がいなかった。でも、だったらどうして俺たちが前に戦った奴と同じ姿になったんだ……?」
人間味や理性を感じさせない動きから、今回の魔鎧獣たちが普通のそれとは違う存在であることは予想できた。
実際、彼らを撃破した後に変身者が出てこなかったことも考えると、その考えは正しかったといえる。
問題は、自立個体として暴れ回っていた魔鎧獣の中に、クリアプレートを使って変身した者と同じ姿をした個体がいたことだ。
クリアプレートの特性上、使用者が変わればどんな魔鎧獣に変身するかも同じように変化する。しかし、今、自分が倒した魔鎧獣はシャンディアで戦ったものとそっくりだった。
「何が起きているんだ? いったい、この島で何が……!?」
詳しく何が起きているのかはわからない。しかし、ほぼ確実に言えることがある。
ついに、全ての事件の裏で糸を引いていた黒幕が動き出したのだと……そう確信したユーゴは、次の瞬間に響いた声に顔を上げ、空中を見やると共に驚きに目を見開いた。
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