混迷の警備隊本部/動き出す、最後の事件
「クルーガー隊長! またです! また、衰弱している島民が発見されたとの報告が入りました!」
「これまで搬送された人々と同じく、クリアプレートの副作用とそっくりの衰弱状態とのことです!」
「またか!? いったい、何が起きている……!?」
――ルミナス学園が宿泊先に選んだホテルでの覗き事件解決から数日後、ウインドアイランド警備隊本部に激震が走っていた。
朝から島の至るところで衰弱し人間の発見報告が相次いでいたからである。
発見された人々の衰弱具合は申告だが、ギリギリのところで生きながらえているという状態であった。
生かさず、されど完全には殺しもしない……クリアプレートの副作用を発現させた人々が立て続けに発見されているという状況に、シェパードをはじめとした警備隊の面々も緊張を高めている。
「何がどうなっている? 何故急に、こんな……!?」
明らかな異常事態。だが、クリアプレートの製造元や製作者どころか、今、プレートたちがどこに存在しているのかすらわかっていない警備隊には、正しく何が起きているのかが把握できていない。
薄っすらと理解できることといえば、おそらくは搬送された人々がクリアプレートを所有していたということくらいのものだろう。
しかし、今、彼らの手元にはクリアプレートはなく……話を聞こうにも、衰弱がひどく会話もままならないといった状況だ。
手掛かりはゼロ。それなのに不安材料ばかりが増えていく。
そんな状況の中、さらなる混乱が警備隊本部を襲う。
「クルーガー隊長! 大変です! クリアプレートの実験に協力した隊員を含め、これまで逮捕したプレートの使用者たちが急に魔力を吸い取られ、弱り始めました!」
「なんだとっ!?」
島民だけでなく、拘留していたクリアプレート所有者たちや実験に協力してくれた隊員たちまでもが急に副作用に襲われ始めたという報告に、大声を出すシェパード。
定期的にプレートを使わせることで副作用を回避していたはずの隊員たちが衰弱していることもそうだが、全員が全員、揃って同じタイミングで異変に襲われたという状況が何よりも気になる部分であった。
(間違いない。裏で糸を引いている人間が動き出そうとしている。しかし、何が目的でこんなことを……!?)
クリアプレートの副作用を意図的に引き起こせる人間など、それを作った人物以外にあり得ない。
この状況は、全ての黒幕とでもいうべき人間が引き起こしているのだと……それは理解できたが、犯人の目的は何一つとしてわからないままだ。
混迷を極めるこの状況でどう動くべきか? 流石のシェパードも、不明点が多過ぎて不用意に判断を下すことができずにいる。
せめて今は苦しんでいる隊員や囚人たちを救うことを考えようと、彼は部下に指示を出す。
「保管しているクリアプレートを実験に協力してくれた隊員たちに使わせるんだ! もしかしたらそれで副作用が鎮まるかもしれん。逮捕した犯罪者たちにはできる限りの回復薬を与え、魔力を補給しろ! この状況は明らかに異質だ! 今までとは違い、死人が出るかもしれんぞ!」
最悪の状況を予測しつつ、それを防ぐために動かんとするシェパードたち。
しかし……状況は、彼らの予想を超えて悪化していく。
「大変です、クルーガー隊長! クリアプレートが、保管してあったクリアプレートが……盗まれています!」
「なんだとっ!? あれは厳重に保管してあったはずだ! それが、いつの間に……!?」
最重要証拠品として厳重に厳重を重ねた警備体制で保管してあったはずのクリアプレートが、消えている……その報告を受けたシェパードが、信じられない事態に愕然とする。
同時に、こんなことを人知れず行える黒幕は、自分たちの想像を遥かに超えた強大な相手なのでは……? と、その恐ろしさの一端を感じ取って彼が息を飲む中、また新たな警備隊員が息を切らせて部屋に入ってきた。
「また報告か!? 次はいったい何が……!?」
衰弱している人々の発見や、クリアプレート使用者たちの副作用の同時発生。さらにクリアプレートが盗まれたという報告を受けてもまだ、新たな報せが飛び込んでくる。
半ば自棄になっている様子で呻いたシェパードが飛び込んできた警備隊員を見つめる中、荒い呼吸を繰り返すその隊員はこれまでで一番の焦りと驚愕をにじませた表情を浮かべながら、口を開いた。
「ほ、報告します! は、ハウヴェント城が――っ‼」
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