新魔鎧獣H&M
「こ、これって、まさか……!?」
意味深に笑うアビスの言葉を受け、突如として目の前に出現した金属片たちを目にしたウォズとトリンが驚きに息を飲む。
この金属片たちの正体に心当たりがあった彼らが言葉を失う中、アビスが彼らの考えを肯定すべく口を開いた。
「ええ、クリアプレートです。警備隊に回収された物以外のほとんどを集めてきました」
「こいつの存在を知ってて、集めてるってことは……まさか、あんたがクリアプレートを作ったのか?」
「はぁ? 何を言ってるんだ? クリアプレートは、元々【ルミナス・ヒストリー】に出るアイテムじゃねえか」
シャンディア島にて、自分たちを徹底的に痛めつけた魔鎧獣が使用していた謎のアイテム、クリアプレート。
存在をぼんやりと知っていたウォズとトリンがアビスへと問いかけるも、代わりにシアンが妙なことを返事として述べる。
彼こそ何を言っているんだと、そう考える二人であったが……そこで、シアンがアビスに催眠のようなものをかけられていることに気付いた。
(間違いない。あのアビスとかいう奴、とんでもない力を持ってる。このクリアプレートも、あいつが作ってこの島にばら撒いたんだ……!)
(この事件を裏で操るコンダクターっていうのも誇張表現じゃなさそうだ。僕たちは今、想像を超えた相手と話しているのかも……!?)
本来のゲームに存在していなかったアイテムを作り上げ、様々な事件を引き起こしただけでなく、自分たちと同じ転生者に催眠をかけ、手駒として操るだけの力を見せたアビスが、只者ではないことは二人にも理解できた。
そして、自分たちが彼に選ばれたというシアンの言葉を思い出した二人は、アビスに言われた通りに散らばっているクリアプレートへと視線を向ける。
「そう、それでいい。あなた方も、一応は英雄候補と呼ばれる人間だ。クリアプレートに選ばれはしなかったが……相性のいいプレートを使えば、それなりの力は得られるでしょう」
その言葉を耳にしながらクリアプレートの山を見ていたウォズとトリンの目が、その中で一枚のプレートがキラリと光る場面を目撃した。
ほぼ同時に別々のプレートへと手を伸ばしてそれを掴んだ二人へと、楽し気に笑うアビスが言う。
「なるほど。それがあなたたちが選んだ……いや、あなたたちを選んだクリアプレートですか。では、使ってごらんなさい」
自分たちに力を見せると言っていたアビスだが、今はこちらの実力を確かめるような雰囲気を発している。
何もかもが彼の思うがままになるのは癪だなと、少しだけアビスへの反発心を燃え上がらせたウォズとトリンは、自分たちが選んだクリアプレートを体に突き出すと、こみ上げてくる力への興奮に大声で叫んだ。
「うおおおおおおおおおおっ! こっ、これはっ!? すごい力だっ!」
「この力があれば、僕たちだって……はあああああああああああっ‼」
漲る力と、それに対する興奮。自分が今、転生時にもらったボーナス以上の能力を得ようとしていることを理解したウォズとトリンが歓喜の雄叫びを上げる。
余裕の笑みを浮かべるアビスが見守る中、クリアプレートを使った二人は光の中で魔鎧獣へと変貌し……大きく変わった姿を現した。
「ひ、ひひひ……っ! なんて力だ! 俺は間違いなく、最強になったぞ!」
そう叫ぶウォズの姿は、全身に甲冑を纏った騎士のような……いや、それを何倍にもおぞましくした怪物のそれへと変わっていた。
騎士、というよりかはRPGの勇者のような雰囲気を纏う魔鎧獣へと化したウォズは、背負っている大剣を鞘から引き抜くと高揚感を隠し切れないように笑みを浮かべる。
「いや、最強は僕だ……! 僕は無敵の力を手に入れたんだ!」
そして、ウォズと同様に魔鎧獣へと変貌したトリンもまた、異形の怪物へと姿を変えていた。
金色の派手な体をしているが、それ以外は余計な装飾等もないシンプルな造形で、顔もまたのっぺらぼうのようにつるつるとしている。
片やごてごてとした戦士のような姿の怪物、片や体色以外は目立ったところのない容姿の怪物。
両極端な姿になったウォズとトリンは、先ほどまでの恐れを忘れたかのようにアビスを睨むと、攻撃を繰り出した。
「ひひひひひっ! 喰らえっ! エレメンタル・ソードっ!」
大剣を手にしたウォズが、それを大きく振り上げながらアビスへと斬りかかる。
上段からの振り下ろしの際には炎を、そこからの斬り上げの際には氷を、回転斬りの際には雷から風……というように、多種多様な属性を付与した斬撃を繰り出してきた彼を軽く捌いたアビスの顔面に、黄金の塊が飛んできた。
「あはははははっ! 僕の力を見ろっ!」
こちらへと伸ばされたトリンの腕から、その肉体を弾丸と化させたような黄金の球が撃ち出される。
顔を捻って回避したアビスを追うように反転し、時に形状を変えて棘だらけのようになったり、カッターのようになりながら襲いくる黄金の弾丸を撃ちまくるトリンだが、体が小さくなったり消えたりすることはなかった。
「ふむふむ、なるほど。そういう感じですか」
近距離からウォズに、遠距離からはトリンに、苛烈な攻撃を加えられるアビス。
驚異的な力を持つ二体の魔鎧獣を同時に相手する彼であったが、全く余裕を崩さないでいる。
暫く二人の動きや攻撃を見て、それから大きく飛び退いて距離を取った彼は、一人ずつ指差しながら自分の考えを述べていった。
「あなたのその容姿と能力……ゲームの勇者のようですね。おそらくは、あなたの英雄願望がプレートの力によって形になったもの。つまりは【Hero】の能力といったところでしょうか」
「へへっ……! それがわかったから、なんだっていうんだ?」
「もう一人のあなたは少し難しかった。ですが、絶望的な状況からの一発逆転という奇跡を求める心がその神秘的な力を引き出したのでしょう。プレートの文字は【M】。【Miracle】の力だ……違いますか?」
「正解だよ。でも、奇跡の力を得た僕は誰にも止められない!」
「ふむ……思っていた以上の能力には目覚めてくれたようですね。絶望的な状況のあなたたちを選んで本当に良かった。さて、それでは――」
ウォズとトリンが得た力を確認したアビスは、二人に合格を告げると共に自分のクリアプレートを取り出す。
未だに新たに得た力に酔い痴れ、絶対的な優位を感じているであろう彼らを見つめながら邪悪な笑みを浮かべたアビスは、余裕を崩さずにこう言い放つ。
「そろそろお見せしましょう。私と、全てのクリアプレートの頂点に立つ、私のプレートの力をね」
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