幕間・最後の舞台が始まる前に

side:ウォズ&トリン(黒幕に演者として狙われた者たちの話)

「うぅぅ……! ちくしょう、どうしてこんな目に……!?」


「またイベントが変わってやがった……女の子の裸を眺めるはずが、あんなことになるだなんて……」


 ――同時刻、とある部屋。そこには覗きをしようとしたことがバレてウノをはじめとする教師陣にこっぴどく叱られたウォズとトリンの姿があった。

 説教されたこともそうだが、見れると思っていた人気女子キャラクターたちの裸を拝むことができず、代わりにムキムキマッチョの男たちの裸を不意打ちで見せられた彼らは、べっこべこに凹んでいる。


 彼ら以外にも覗きをしようとした英雄候補たちはいるわけだし、全員が一律に評価をガタ落ちにさせたわけなのだが……この二人の落ち込み様は他の面々よりもひどかった。

 既に自分たちの信頼度は地に落ちているし、覗きがバレても失うものなんてないと粋がっていた彼らであったが、やっぱりこうして叱られたり白い目に晒されたりすると、気落ちしてしまったわけだ。


「ぐぅぅ……っ! 他の奴らはいいよな。パーティメンバーに慰めてもらえたりしてさ……!」


「評価は下がってるんだろうけど、何のフォローもない僕たちよりはマシだしな……」


 パーティメンバーもとい、友達が一人もいないことの影響は、こういう時に顕著に表れる。

 覗きがバレた際、女子たちからは軽蔑されるし男子たちからも評価は下がるだろうが、なんだかんだで慰めてくれる人がいることもまた事実だ。


 ゲーム内のシステムとして信頼や評価は下がるのだろうが、それでも表面上は慰めてくれる仲間が最低でも一人はいる。

 しかし、あらゆる人々から見捨てられているウォズとトリンには、慰めてくれる相手は一人もいない。故に、こうして二人で寂しく愚痴をこぼすことしかできないでいた。


「これで修学旅行が終わったらまたペナルティを与えられるんだぜ? もう嫌だよ……」


「どうなるのかな、僕たち……? まさか、シアンみたいに退学処分になるんじゃ……!?」


 今は修学旅行中だから処罰は延期されているが、学園に帰ったら何らかのペナルティが待っているだろう。


 以前の一件で自分たちはウノから目をつけられているし、次に何か問題を起こしたら容赦しないとも言われていた。

 そんな状況でやらかしたシアンの末路を考えれば、自分たちも彼と同じ退学処分を受ける可能性が高い。


「どうしてこんなことに……? 俺たちはただ、主人公として最高の人生を送りたかっただけなのに……!」


「周囲からの尊敬も失い、女の子たちとも仲良くなれず、このままゲームオーバーだなんて最悪じゃないか……‼」


 途中まではそれなりに上手くいっていたはずなのに、全てがおかしくなった。

 パーティメンバーから見捨てられ、主人公の人生とはかけ離れた学園生活を送るようになって、気が付けば退学処分……ゲームオーバーが目前だ。


 いったい、どこで自分たちの人生は狂ったのだと……そう、ウォズとトリンが落胆しながらため息を吐いた、その時だった。


「よう。今、俺の話をしてたよな?」


「えっ? うわあっ!?」


「わっ!? わ~~~っ!?」


 突然、聞き覚えのある声が耳に響いたかと思った次の瞬間、黒い闇が目の前に広がった。

 それに飲み込まれ、浮遊感を覚えたウォズとトリンが唐突に起きた異変に悲鳴を上げる中、再び聞き覚えのある声が響く。


「へへへ……! そんなにビビんなよ、お前ら」


 どすん、という音と共に床に尻もちをついたウォズとトリンがおそるおそる目を開けば、そこには学園を退学になったはずのシアンがいるではないか。


「し、シアン……? お前、どうしてここに……?」


「っていうか、ここはどこだ? 僕たち、どうなった?」


 彼が唐突に自分たちの前に姿を現したこともそうだが、ホテルの一室にいたはずの自分たちが見覚えのない空間にワープしていることにも驚く二人が困惑しながらシアンに問いかければ、彼はニッとあくどい笑みを浮かべながらこう答えた。


「見てたぜ。お前ら、俺と同じでやらかしちまったみたいだな? 退学は目前で味方も一人もいない。最悪な状況なんだろ?」


「ぐっ……!?」


 少し前に自分も陥った苦境に立たされているウォズとトリンを、嘲笑うようにシアンが言う。

 自分たちが馬鹿にされているように感じた二人が忌々し気に彼を睨む中、そんなウォズとトリンを安心させるようにシアンがこう続けた。


「わかるぜ、その気持ち。色々と腹が立つし、ムカつくよな? だったらよ……いっそ全部ぶっ壊さねえか?」


「はぁ? お前、何を言って――?」


 全てを壊す、というシアンの言葉の意味が理解できず、訝し気な表情を浮かべるウォズとトリン。

 なにがなんだか全くわからないでいる彼らであったが……突然、背後にとんでもないプレッシャーが出現し、思わずそちらへと振り向いてしまった。


「ふふふふふふ……! ウォズ・スターとトリン・マティスですね? どうも、はじめまして」


「な、なんだ? あんたはいったい……?」


 目の前に現れた、怪しげな雰囲気の男。

 その男が放つ凶悪なまでのプレッシャーに圧され、ウォズとトリンが怯える中、シアンが口を開く。


「良かったな、お前ら……! お前らも俺と同じで、あいつに選ばれたんだ」


「え、選ばれた? あいつに……?」


 その言葉を受けた二人が、改めて男を見やる。

 彼らからの視線を浴びた男はニヤリと笑うと、演技がかった様子で頭を下げながら口を開いた。


「はじめまして。私の名前はアビス。この島で起きている数々の事件を裏で操る者……コンダクターです。今回は、あなたたちを私の舞台に出演する演者としてスカウトしようと思い、こうしてお呼びしました。というわけで――」


 ジャラン、ジャランという金属の音が響く。

 驚きに見開かれたウォズとトリンの目に大量の金属片が散らばる様が映る中、アビスは彼らへと言った。


「――まずは私の実力をお見せしましょう。どうぞ、好きな物を選んで、私に挑んでください」


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